魅了堕ち幽閉王子は努力の方向が間違っている

堀 和三盆

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63 理想の世界(王子視点)

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「できた……!」

「できたわね……!!」

 それから数日。僕と召喚主の3D酔い対策をとりつつの努力の結晶が完成した。


 僕が幽閉されている塔……の横にある一人暮らし用のオシャレな近代的なアパート。二階建てで各階には5部屋ずつあって計10部屋。塔ほどではないが、それなりの規模だ。お隣さんとして遜色ない。


 調和も何もない、世界観すら違うソレだが、ここまでくるとこれはこれであり……な気がする。うん。ありだ。むしろあっちにもコレがあるべきだ!!

 内装も出来る限り再現されている。召喚主の部屋は一階の102号室。本当は胸キュンしない、怖い方の壁ドン対策に角部屋の一号室が良かったそうだ。

 それゆえ彼女は当初、このゲーム内アパートでは一号室への入居を希望していたが、そこは無視してあえてリアルに再現させてもらった。

 ここは僕のこだわりだから譲れない。僕が好きなのは、二番目のこの部屋なのだ。その代わり。


「あ、じゃあ、隣を王子の部屋にしちゃおうよ。そうすればいつでも遊べるし、王子なら私が多少うるさくても壁ドンなんてしないでしょ?」

「もちろんだ! じゃあ僕は103号室だな」

「そしたら、もう片方の隣は鈴木さんにしとこうか。あの人も、壁ドンなんてしそうにないから安心だよね」

「いや! 鈴木さんの家は二階だから」

「え、でも、別に」

「二階だから!!」

「わ……分かった。まあ、上方からの天井ドンも怖いしね。あ、それに鈴木さんなら足音にも気を遣ってくれそう。そう考えると結構いいかも……」


 結局、反対側の101号室は彼女の3番目のお兄さんの部屋、ということになった。まあいいか。会ったことはないが彼女とは随分と仲が良いようだし、ジャージや上着を僕に提供してくれたのはそのお兄さんらしいし。

 話によるとかなりのゲーム好きらしいから、皆で一緒にゲームで遊ぶのも楽しそうだ。鈴木さんもゲームが上手いしな。
 そうなるとそれ専用のゲーム部屋があってもいい。

 と、いう訳で。二階の端っこの201号室は皆で遊ぶゲーム部屋。あとは追々決めていこう、ということになった。


 はあ……なんていうか、満足だ。
 生きてる。僕はココで生きているって気がする。

 ってか、ここで生きたい。

 いいなあ、この世界。いつでも幽閉中の塔から僕を召喚してくれる召喚主が居て、ゲームができる知り合いもいて、もういっそここに住んでしまいたい。


 長い間ずっと。幽閉されてからは塔の中だけが僕の世界だった。

 それは今も変わらないけれど、魔法陣のお陰でこうして世界が広がった。不思議なことに。今、夢中になっているこのゲームの世界にも塔とアパートしかないけれど、こんなに幸せな気持ちになれている。

 多分、それはきっと……。


「あとは、コンビニとゲーム屋さんを作らなきゃ。王子の大好きなコーラとポテトチップスを買わなきゃだし、攻略本と新作ゲームが手に入らないと困るもの」

「!!! そうだな! それは必要だ!!」


 彼女の意見は素晴らしい。これでこの理想の世界でも僕の完璧なゲームライフを謳歌できるようになる。やっぱりゲームのある世界っていいなあ。

 あれ? 僕さっきまで何を考えていたんだっけ……まあいいか。

 彼女と編み出したこの3D酔い対策は中々に素晴らしいし有用だ。酔わないうえに休まず建築を進められるから完成も早い。

 この調子で、どんどん理想の世界を手に入れよう……!!


 と、思っていたのだけど。

 一時的にこの対策が使えなくなり。

 仕方なく僕が努力して。考えに考えてとった独自の3D酔い対策のせいで、予想外の事態に巻き込まれることを――この時の僕はまだ知らない。




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