魅了堕ち幽閉王子は努力の方向が間違っている

堀 和三盆

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86 訂正! 誤情報

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「すっげー、塔の立体地図じゃん。あ、でもココの情報間違ってるよ。ココは他国からの王子狙いの――あ、いや。オレ狙いの間者が発動させちゃったから、この罠はこっちに移されて、こっちの捕縛罠を電撃系の即死トラップに変更してあって……」


 ゲームを始めるや否や。驚異の速さで操作方法を習得し、次々と古い情報を最新のものへと更新していく偽王子(猫耳)。

 夢中になって修正作業をやっているその姿はお目目もキラキラとしていて楽しそうだが、私は3D酔いもしていないのに真っ青だった。


 いや、まずいよね? この人たち、なんかあっという間にこっちの召喚生活に馴染んじゃったけど、元は王子の世界の、王子を監視する側だよね??


 新たにもたらされた情報によると、王子の幽閉を任されているのは王家の影と呼ばれる集団だそうだ。裏の仕事を一手に引き受け、それはそれは貴族の人たちにも国民にも恐れられている存在らしい。


「それで、王族側は任せっぱなしなんだからお気楽なもんだよなー。あんな時狂わせの塔に閉じ込めて――閉じ込められて、まともな精神でいられるわけがないっつうの。体調崩して当たり前だよ。オレ……じゃなかった、影の人たちはある程度自由に泳がせて王子のストレスがたまらねーように調整をしているけど、それだっていつまでも持つわけがないだろうに。王族にバレないように遠い離宮に連れてってやって――じゃなかった、連れてってくれたりするけど、監視だって無限じゃないから大変で……大変そうでさ。身代わりで留守番させられる側の身にもなれっての。ったく。ああ、いやオレは王子だよ? 王子だけどさ。こんなトコに入っていたら、番に巡り会えるものも会えないし、隔絶されている間にすれ違っちゃったらどうするんだって思うよ。あ、いや、オレじゃなくて。えーと、そう! 王子であるオレを管理してくれている立派な影の人たちのことね。獣人とかもいるからさ。おっと、ここの警報も位置古いな。ってか、情報古すぎ。変えないと」


 機密情報であるトラップの位置や新たに加えられた警報システムに加え、管理者側の影専用の通路まで一部口頭で説明された。口をはさむ隙もなかった。そうか……知らなかったよ。塔の中、隠された魔法陣でショートカットできるんだね……。王子も知らないこと知っちゃったね……。どうしよう。


「す…、すごいねー。たった2時間でここまで直したんだ?」

「すごいか!? だろー、だろー。オヤツのお代わりくれ」


 いやいやいや。自慢したいのは分かるけど、「エッヘン」って顔しちゃ駄目でしょう! 貴方、今王子の身代わりだからね。忘れてないよね?


「あれ? 窓から見えるあの建物なに? 行ってみよう」


 しまった。ゲーム内偽王子に、幽閉中の窓からの風景の違いに気付かれた。ああ、いや。あっちはウチのアパートだから特に問題はないか。


「あ、コレって、ココの部屋じゃん。隣は……何だコレ。物がいっぱいだなー。狭い」


 あ、そこ王子の部屋ですね。収集癖あるから。貴方のトコの本物の王子様。


「隣は……おっ、空いてるじゃん。ココ、オレの部屋にしよっと。うーんでも、広くしたいなー。いっそ隣の部屋壊して……」


 おっと、まずい。王子の部屋が壊される。


「はいっ、おやつよ。王子の大好きな小魚のおやつ! 今日は特別に私の夕飯予定だった鮭もつけちゃおうかなっ!!」

「やった! それならオニギリにしてー。オレ夜行性だから、夜も食べたいから二個作ってー。一個持って帰る。爺ちゃん豹っぽいとこあってさ。夜型っぽいトコ似ちゃったんだよね。両親は普通の猫……あ、いやオレは王子だけどね」


 おやつとオニギリを食べたら忘れたようで、偽王子は久々の落ちゲーに夢中になっていた。そして、いつものようにあちらへと帰って行った。


 ああ、良かったココで終わってくれた――と思った。もし、明日も覚えているようなら、おやつで気を引いて別のゲームに誘導しよう。大丈夫、猫耳偽王子なら簡単――と思ったんだけど。

 そう都合よくはいかなかった。


 翌日、召喚されてきたのは偽王子(大)。


 しかも、ちゃんと前日の行動の引き継ぎがなされていたのだ。




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