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87 偽王子(大)は城を建て増す
しおりを挟む「……この城は問題だな……」
偽王子(大)に城の存在を気付かれた。
もう、ヤダ、この偽王子。幽閉中の塔とは結構離れているのに、城方向へとずんずん歩いて、王子(本物)が作った『幽閉前に王子が住んでいた城』を見つけちゃった。
何で……と思ったけど、多分それだけ塔が忠実に再現出来ているということだろう。――それに気が付いて背筋が震える。
しかも。しかもさー。この偽王子も間違いはドンドン直す。
罠も、隠し部屋も、脱出ルートも、変わらぬものはそのままに。変わった物はよりリアルに。
そして、王子が住んでいた頃にはなかったという建物まで着工し始めた。
ああ、どうしよう。より精巧に。よりリアルに。どうしようもないほど情報の正確性が増していく。何なのこのトップシークレットの詰まったセーブデータ。
そして、軽食やおやつ休憩をはさみながら、城の修正作業を進め二時間ほどたった後。
「…何か手伝えることはあるか」
――と、偽王子が私に聞いてきた。あ、そこは以前と変わらないんですね。
おそらく偽王子(猫耳)から中途半端に引き継ぎを受けたのだろう。ゲームを終る前に、何故かゲーム内のウチのアパートへと向かって部屋の前をウロウロしていたので、とりあえず偽王子(大)には偽王子(猫耳)の隣の部屋に入居してもらった。
いや、だって。絶対、この人たち趣味違うもん。
まあ、部屋は余っているからいいよね。自室は好きにしていいって言ってある。王子が帰ってきたら、適当に説明しよう。
――で、この日はリアルの方は雨なので、お手伝いと言われても畳むべき洗濯物はない。とはいえ、このまま偽王子を放っておいたらどんどん修正が進み、現実に即した『完全な城』が出来上がってしまう。
なので、考えた結果――本物の王子に負けて以降、こっそりと封印していたレースゲームを一緒にやってもらうことにした。
深い意味はない。ただの気晴らしだ。
それにこの人、口数が少ないから勝っても負けても大声出さなそうだし。しかも、王子と違って絶対に初心者だからレースに勝てるかもしれない。
……と、思ったら予想通りだった! 本当に勝てた!!
ここ数日何だかんだと神経をすり減らしていたからスッキリした。こんなの卑怯だって分かっているけど、もう、色々忘れて思いっきり楽しみたかったの。
「ううう……久しぶりに心底楽しいぃ。ありがとうぅ……」
「……こんなことでよければ」
口数の少ない偽王子(大)にほんのちょっとだけ癒された。
でも、この分だと明日は……。来るのかなあ。来ちゃうんだろうなあ……。機密まみれの塔とか城とか……あれバレたらサクッと消されるのかなあ……。
落ち着かないので偽王子(大)にはもう一レースだけ対戦してもらった。
楽しかった。
あ、勝てました。
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