魅了堕ち幽閉王子は努力の方向が間違っている

堀 和三盆

文字の大きさ
87 / 364

87 偽王子(大)は城を建て増す

しおりを挟む

「……この城は問題だな……」

 偽王子(大)に城の存在を気付かれた。


 もう、ヤダ、この偽王子。幽閉中の塔とは結構離れているのに、城方向へとずんずん歩いて、王子(本物)が作った『幽閉前に王子が住んでいた城』を見つけちゃった。

 何で……と思ったけど、多分それだけ塔が忠実に再現出来ているということだろう。――それに気が付いて背筋が震える。


 しかも。しかもさー。この偽王子も間違いはドンドン直す。


 罠も、隠し部屋も、脱出ルートも、変わらぬものはそのままに。変わった物はよりリアルに。

 そして、王子が住んでいた頃にはなかったという建物まで着工し始めた。

 ああ、どうしよう。より精巧に。よりリアルに。どうしようもないほど情報の正確性が増していく。何なのこのトップシークレットの詰まったセーブデータ。


 そして、軽食やおやつ休憩をはさみながら、城の修正作業を進め二時間ほどたった後。


「…何か手伝えることはあるか」


 ――と、偽王子が私に聞いてきた。あ、そこは以前と変わらないんですね。


 おそらく偽王子(猫耳)から中途半端に引き継ぎを受けたのだろう。ゲームを終る前に、何故かゲーム内のウチのアパートへと向かって部屋の前をウロウロしていたので、とりあえず偽王子(大)には偽王子(猫耳)の隣の部屋に入居してもらった。

 いや、だって。絶対、この人たち趣味違うもん。

 まあ、部屋は余っているからいいよね。自室は好きにしていいって言ってある。王子が帰ってきたら、適当に説明しよう。

 ――で、この日はリアルの方は雨なので、お手伝いと言われても畳むべき洗濯物はない。とはいえ、このまま偽王子を放っておいたらどんどん修正が進み、現実に即した『完全な城』が出来上がってしまう。

 なので、考えた結果――本物の王子に負けて以降、こっそりと封印していたレースゲームを一緒にやってもらうことにした。

 深い意味はない。ただの気晴らしだ。

 それにこの人、口数が少ないから勝っても負けても大声出さなそうだし。しかも、王子と違って絶対に初心者だからレースに勝てるかもしれない。


 ……と、思ったら予想通りだった! 本当に勝てた!!


 ここ数日何だかんだと神経をすり減らしていたからスッキリした。こんなの卑怯だって分かっているけど、もう、色々忘れて思いっきり楽しみたかったの。


「ううう……久しぶりに心底楽しいぃ。ありがとうぅ……」

「……こんなことでよければ」


 口数の少ない偽王子(大)にほんのちょっとだけ癒された。


 でも、この分だと明日は……。来るのかなあ。来ちゃうんだろうなあ……。機密まみれの塔とか城とか……あれバレたらサクッと消されるのかなあ……。


 落ち着かないので偽王子(大)にはもう一レースだけ対戦してもらった。
 楽しかった。

 あ、勝てました。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

不倫をしている私ですが、妻を愛しています。

ふまさ
恋愛
「──それをあなたが言うの?」

【完結】竜人が番と出会ったのに、誰も幸せにならなかった

凛蓮月
恋愛
【感想をお寄せ頂きありがとうございました(*^^*)】  竜人のスオウと、酒場の看板娘のリーゼは仲睦まじい恋人同士だった。  竜人には一生かけて出会えるか分からないとされる番がいるが、二人は番では無かった。  だがそんな事関係無いくらいに誰から見ても愛し合う二人だったのだ。 ──ある日、スオウに番が現れるまでは。 全8話。 ※他サイトで同時公開しています。 ※カクヨム版より若干加筆修正し、ラストを変更しています。

ツンデレ王子とヤンデレ執事 (旧 安息を求めた婚約破棄(連載版))

あみにあ
恋愛
公爵家の長女として生まれたシャーロット。 学ぶことが好きで、気が付けば皆の手本となる令嬢へ成長した。 だけど突然妹であるシンシアに嫌われ、そしてなぜか自分を嫌っている第一王子マーティンとの婚約が決まってしまった。 窮屈で居心地の悪い世界で、これが自分のあるべき姿だと言い聞かせるレールにそった人生を歩んでいく。 そんなときある夜会で騎士と出会った。 その騎士との出会いに、新たな想いが芽生え始めるが、彼女に選択できる自由はない。 そして思い悩んだ末、シャーロットが導きだした答えとは……。 表紙イラスト:San+様(Twitterアカウント@San_plus_) ※以前、短編にて投稿しておりました「安息を求めた婚約破棄」の連載版となります。短編を読んでいない方にもわかるようになっておりますので、ご安心下さい。 結末は短編と違いがございますので、最後まで楽しんで頂ければ幸いです。 ※毎日更新、全3部構成 全81話。(2020年3月7日21時完結)  ★おまけ投稿中★ ※小説家になろう様でも掲載しております。

没落貴族とバカにしますが、実は私、王族の者でして。

亜綺羅もも
恋愛
ティファ・レーベルリンは没落貴族と学園の友人たちから毎日イジメられていた。 しかし皆は知らないのだ ティファが、ロードサファルの王女だとは。 そんなティファはキラ・ファンタムに惹かれていき、そして自分の正体をキラに明かすのであったが……

異世界から来た華と守護する者

恋愛
空襲から逃げ惑い、気がつくと屍の山がみえる荒れた荒野だった。 魔力の暴走を利用して戦地にいた美丈夫との出会いで人生変わりました。 ps:異世界の穴シリーズです。

初恋にケリをつけたい

志熊みゅう
恋愛
「初恋にケリをつけたかっただけなんだ」  そう言って、夫・クライブは、初恋だという未亡人と不倫した。そして彼女はクライブの子を身ごもったという。私グレースとクライブの結婚は確かに政略結婚だった。そこに燃えるような恋や愛はなくとも、20年の信頼と情はあると信じていた。だがそれは一瞬で崩れ去った。 「分かりました。私たち離婚しましょう、クライブ」  初恋とケリをつけたい男女の話。 ☆小説家になろうの日間異世界(恋愛)ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/9/18) ☆小説家になろうの日間総合ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/9/18) ☆小説家になろうの週間総合ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/9/22)

悪夢から逃れたら前世の夫がおかしい

はなまる
恋愛
ミモザは結婚している。だが夫のライオスには愛人がいてミモザは見向きもされない。それなのに義理母は跡取りを待ち望んでいる。だが息子のライオスはミモザと初夜の一度っきり相手をして後は一切接触して来ない。  義理母はどうにかして跡取りをと考えとんでもないことを思いつく。  それは自分の夫クリスト。ミモザに取ったら義理父を受け入れさせることだった。  こんなの悪夢としか思えない。そんな状況で階段から落ちそうになって前世を思い出す。その時助けてくれた男が前世の夫セルカークだったなんて…  セルカークもとんでもない夫だった。ミモザはとうとうこんな悪夢に立ち向かうことにする。  短編スタートでしたが、思ったより文字数が増えそうです。もうしばらくお付き合い痛手蹴るとすごくうれしいです。最後目でよろしくお願いします。

あの方はもういないのです。

豆狸
恋愛
楽しげに笑うその顔は、その身体が本物のエスタファドルのものだったときとはまるで違う。 だが、だれもがそれをバスラに恋をしたからだと思って受け入れていた。

処理中です...