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97 そうだ! 3D酔いをしよう(王子視点)
しおりを挟むこのままではいけない! 何とかしなくては……!!
時差ボケにより一週間を無為に過ごしてしまった僕は決意を新たにした。
考えろ。考えろ、僕!
一週間もあれば、どれだけあのゲームがすすんだと思っている?
塔も、城も、できたばかり。
幽閉中の塔の隣に召喚主のアパートも作ったけれど、まだ店も何もない。これから彼女と一緒に理想の世界を作る予定だったのだ。
そのためにも。僕は一刻も早く再び塔へと幽閉されて、召喚主の元へと召喚してもらわなくてはならないのだ。
とにかくこの離宮ではやることがないのが一番の問題だと思う。
僕が寝る間も惜しんで夢中になれるのはゲームしかない。
なので、僕は記憶魔法で記憶してきた理想の世界を脳内でこっそり再生させつつ、都市計画を進めることにした。
こんな時の為に、僕はゲームで作りあげたあの塔を、アパートを、城を、周辺地域も含めて映像で覚えておいたのだ。プレイ動画と言ってもいい。
画質もそのままだし、これならゲームをしているのと一緒だ。ゲームをしている感覚で起きていられるし、今後の建設計画も進められるので、いい刺激となるだろう。
しかし、一時間を過ぎたところで気分が悪くなり、横になるしか出来なくなった。当然、食欲も消え失せる。
なんてことだ。自分のプレイ動画を見ても酔うなんて!
……考えてみれば当たり前のことだった。ゲームをやっていて酔うんだし、かつて目で見た同じ画面を記憶して再び見ているのだからそりゃあ酔うだろう。
その日は結局何もすることが出来ずに寝てしまった。
まだ、具合が悪いようですと、使用人が本国に連絡を取っている声が聞こえた。
冗談じゃない。僕はとっとと帰りたいんだ。早く塔に幽閉してほしいのに。
でも、何もしていないとだらだらと眠ってしまって昼夜逆転してしまうし、それでは体調も食欲も戻らない。中々治らない時差ボケが、僕を苦しめる。
……かといって、昼間は起きていようと暇つぶしに記憶しているゲーム画面を見ると3D酔いがぶり返すし。
そうなると、それ以降はぐっすり眠ることしかできなくなる。完全に悪循環だ。
――そこで僕はハタと気が付いた。それならば、時間帯を考えたうえでわざと3D酔いを起こして、夜にしっかりと眠ればよいのでは?
そうして実行された僕の努力は実を結んだ。昼間はとにかく眠くならないように動き回って、一日の終わりに自分のプレイ動画を脳内で再生し、わざと3D酔いを起こして夜、しっかりと眠る。
それを繰り返し、僕はどうにか生活リズムを取り戻した。
やった! 時差ボケを克服したぞ!!
コレでやっと塔へと戻ることが出来る!!
そう思ったのに。
わざと引き起こした3D酔いの影響を心配され、1~2週間予定だった離宮での療養生活が、無期限に延長されてしまった。
なんという事だ。
僕は、また努力の方向を間違えてしまったのだろうか。
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