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121 幽閉されたい塔の建設
しおりを挟む「ここは攻略本コーナーでー」
「いいわね! 漫画コーナーも広くとろう」
午前。午後。時間をフルに使って塔の建設は進んでいく。3D酔いがない分、作業も早い。何より王子が楽しそうで、私まで楽しくなってくる。
「いいなあ。バイト先近いし、私もココに住もうかな。そしたら通勤時間が少なくて済むし、その分ゲームできるよね」
「そうしよう! それがいい! アパートに召喚してもらう手間も省ける」
本屋の完成も見えてきた。これで当初の建設計画は達成したのだが――あくまでも計画した際は買い物に行く場所だった。実際に「住む」となると足りないものが見えてくる。
「うーん。でも、住むとなるとやっぱりお風呂が欲しいなあ。あっ、そうだ。アパートじゃ入れないような大浴場を作ろうよ。源泉かけ流しの温泉で」
「温泉か。いいな! 温泉饅頭うまいしな!」
「いっそ屋上スペースを使って展望露天風呂を――」
「それは駄目だ!!」
「え? なんで?? 最高の眺めが――」
「……僕の部屋の窓から見える」
別に気にしなくても――と思ったが、そうまでハッキリ言われると多少気にはなってくる。確かに……高さ的にも位置的にも、王子の幽閉中の塔の部屋からは丸見えだ。
特にプロポーションに自信がある訳でもないので、見たくもないモノを見せられる王子には迷惑なだけだろう。お目汚しになってしまう。嫌がる気持ちもよく分かる。窓からの景観は大事ですからね。うんうん。
とはいえ、お風呂も景色も諦めきれない……そこで。
「あ、じゃあ、仮眠スペースの上の階を室内風呂にしてさ、ワンフロア丸々使った大浴場を作ろうよ。それで、塔とは違う方向に大きな窓をつければいいじゃない。大自然が一望できてきっと気持ちいいわよ。この先、町とか増やすなら方向に気を付ければいいし」
「そ、それなら……ところで、大浴場は一つでいいのか?」
「いいんじゃない? 男女で分けると場所とるし。その分大きくして、時間で分ければいいじゃない。でも、お風呂入るとお腹が空くわよね。コンビニのお弁当ばかりじゃ健康的にどうかと思うし、住むとなると食堂なんかも必要かも」
「確かに! でも、食堂となると再現するにしてもあまり詳しくは知らないな。僕の行きつけだった店はドレスコードがうるさいからあまり気楽な感じではないし」
「……いや、王族御用達のレストランなんて、日常的に食事するようなトコじゃないでしょうよ。金額的にも貧乏学生には敷居が高すぎるわ。もっと気楽でリーズナブルな……あ、そうだ学食なんてどうかな? ウチの大学の学食、安くて量が多くておいしいよ」
「学食! いいな! 僕も行ってみたい。鈴木さんに召喚してもらっていた時に彼がよく言っていたんだ。学食のお陰で、安くてバランスが良くて、学生時代の方が遥かに健康的な食生活だったって。今はカップ麺かコンビニ弁当ばかりだから卒業して初めてそのありがたさが身に染みたとか聞かされた。結構な頻度で」
鈴木さんの食生活が心配になってきた……。でもまあ、この世界にも鈴木さんがいるものね。彼の為にも学食は必要そうだ。
……せめてゲームの中でくらいは健康的に。うっ。涙が。
「……よし! じゃあ、次は大浴場と学食を作りましょう。他に必要なものある?」
「娯楽施設が欲しいかな。映画館とか行ってみたい。乙女ゲームのデート場所で出てきたけど、よく分からないから」
「別に映画だけならウチでも見られるわよ? でもまあ、せっかくだしドーンと映画館も作っちゃおうか。実際に連れて行ってあげたいけど活動範囲内に映画館ないものね。そうだ、ついでに上映時間待ちの為にってことでゲーセンも作ろうか。クレーンゲームも設置すれば、クマちゃんのお友達増やせるし」
「クマ!! それは絶対に必要だ!!!」
途端に目を輝かせる王子様。いや、どんだけあのクマ気に入ってんのよ。
そんなこんなで。尽きない欲望の限りを詰め込んだ『幽閉されたい塔』の建設計画は止まらない。これからも作りたい物が増えるだろうし、完成まではまだ随分と時間がかかりそうだ。長期計画になるのも覚悟した方がいいかもしれない。
夏休みも残り僅かだし。
「あ、そうだ。それで今日の夜は召喚どうする?」
「え? あ、あー。えっと、その」
「そろそろ大学始まるから三回召喚はとりあえず明日までかな。それで、明日はバイト休みだから今日は私も遅くまで一緒に遊べるわよ。前に計画していたみたいに、スーパーで夜食を買ってちょっぴり夜更かしをしたりとか……」
「!!!! する! 絶対に夜も呼んでくれ!!」
――で、本日三回目となる夜の召喚。
私はおやつセットと共に栄養ドリンクを用意した。
今朝、バイト帰りに買っておいたんだけど、ゲームに夢中になっていて、すっかり王子に提供するのを忘れていたんだよね。
明日はバイトもないし、とりあえず起きている為にも私は飲むつもりなんだけど、王子の分はどうしよう。どうやって伝えようかな。言葉通じないんだよなあ。
とりあえずは出してから身振り手振りで――。
――とか悩んでいたんだけど。王子は出されたソレを特に迷うことなくソッコー飲んだ。
いや、まだ私も手を付けてないんですけど……。ってか、王子様、未知のモノに対して警戒心が薄すぎない? 偽王子の影さんですら、毒味が済むまで手をつけなかったのに。……まあ、腹黒さんだけだけど。他の2人はいい勝負か。
私のこと信用してくれているからこその行動なんだろうけど、王子はもう少し警戒した方がいいと思う。幽閉されているとはいえ、一応は王子様なんだしさ。
そんな風に本気で心配していたんだけど。
このことをきっかけに二人の意思疎通にあんな変化が起きるなんて。
この時の私は考えてもいなかった。
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