魅了堕ち幽閉王子は努力の方向が間違っている

堀 和三盆

文字の大きさ
134 / 364

134 先輩の謎

しおりを挟む

「にしても、どこで汚れなんてついたんだろう? 朝、しっかり顔洗ったのになあ。鏡も見たのに全然気が付かなかった。寝ているときにクマちゃんの色素でもついたのかしら……?」

 そういえば、朝起きた時にはクマが居なくなっていた。夜中、金縛りにあって起きた時はどうだったか……既に居なかったな。
 まあ、クマに関しては間違いなく王子がアチラへと連れて帰ったのだろう。

 特に今まで色落ちなんてしたことなかったけれど、あのクマは何だかんだ頻繁に異世界との間を行き来しているからその関係で少し材質が変化したのかもしれない。

 相変わらず抱き心地は素晴らしいんだけどな。召喚が再開されたら王子に品質保持の魔法でもかけてもらおうか。

 なんか王子愛用のジャージにはそんな感じの魔法をかけていた。おかげで洗濯機でガシガシ洗っても傷まない。経済的だよね、アレ。あと楽。

 あとは――私が寝ている間に王子がおでこに落書きでもしちゃったとか?

 忙しい朝に大迷惑になるそんなイタズラをするとは思えないけど、あの王子なら思いつくくらいはしそうだな。何が原因か分からないけど、今度来た時に何か心当たりないか聞いてみるか。


 私がおでこの汚れの原因に思いを馳せていると、先輩が不思議そうに首を傾げていた。


「クマちゃん……?」

「ああ、私、寝るときにヌイグルミを抱っこするのが小さい頃からの癖なんですよ。大学入るちょっと前にお兄ちゃんにゲーセンで獲ってもらったヌイグルミがあるんですけど、枕元に置いているから、いつの間にかそれを抱えて寝ちゃうんですよね。もしかしてその子が色落ちでもしたのかな……と」

「ああ……あのクマか。あの兄……そうか、なるほどそれで……」


 何故か。言いながら、ほ……っと安心したように息を吐く先輩。

 どことなく険しかった表情が和らいでいる。先輩も王子のようにクマ好きなのだろうか。意外と男の人のクマちゃん人気高い? 気になる……いや……それよりも気になることがある。

(あのクマ……?)


「あれ? 私、あのクマのこと、先輩に話したことありましたっけ??」

「……………………一年くらい前に、流行ってて、どこのゲーセンでも置いてあったからな。ソレかな……と。お前のアパート近くのゲーセンにもあったから」

「あ、そういえばそうですね。そうそう、ちょうど引越しの日にお兄ちゃんにアパート近くのゲーセンで獲ってもらって……って、私、一人暮らし始めたこと先輩に言いましたっけ??」


 確か……お兄ちゃんからのアドバイスで、一人暮らしを始めたことはできるだけ周囲に言わないようにしていた。先輩に対してというよりは、新たに出来るだろう友人に対してだ。1人暮らしを始めるとアパートがたまり場になっちゃったりとか、色々面倒なことがあるらしい。

 まあ、結局友人らしい友人も出来なかったし、せっかく家族の監視を離れ、好きなだけゲームが出来る理想の環境が整ったというのに自らその楽園を手放す気はないので、何となくお兄ちゃんの指示には従っていた。
 それは、高校時代の知り合いに対しても、だ。

 だから、友人からの年賀状なんかも全て実家の方に届いているのだが。


「サ……サークルの入会の時に住所を書いてもらったからな。前の住所とは違っていたから……だから……その」

「あ、そうか! 入部の書類にはアパートの住所書いたんだ」


 一応、弱小とはいえ正式な大学のサークルだから、すぐ連絡はつくようにしておかないとマズイかな、と思って正直に書いたんだった。


「やっぱ先輩はすごいなあ……。一を聞いて十を知るというやつですね! 先輩は高校の頃から名前を張り出されるくらい成績もよかったし」

「!? おおお、お前、それ知ってたのか!??」

「? ……中間や期末の試験の度に、成績上位者だけ廊下に張り出してあったじゃないですか。いつも先輩の名前載っているから、先輩凄いなあ、やはり眼鏡は伊達じゃないなあって思って見てましたよ?」


 実際、先輩は優秀だ。多少……いや、かなり変わり者ではあるけれど。

 ただ、ビックリするほど目立たない。炎天下。真夏にこんな分厚い我慢大会のようなローブを着ていても、周囲から変な目で見られることもない。先輩自身、暑がる様子もなくすました顔してるし――。


 …………あれ?


 炎天下。遮るものなく話しているので、かなり暑い。でも、目の前の先輩は平然としている。

 しかも――今から思い返してみれば、さっき先輩に捕まったときは別に暑さは感じなかった。あんなに引っ付かれていたというのに、むしろ、ひんやりとして快適で――。


 え。こんな太陽光集めそうなモノ着こんどいて、そんな事ある??


 疑問を感じたら確かめずにはいられない。さっきの今だし別にいいよね。今更だし。ってか、確かめるなら屋外・炎天下の今しかない。
 ――と、いう訳で。


「あ、先輩すいません。ちょっと失礼しますねー」


 暖簾をくぐるように。再び先輩のローブの中へと自ら入った




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

冷遇された聖女の結末

菜花
恋愛
異世界を救う聖女だと冷遇された毛利ラナ。けれど魔力慣らしの旅に出た途端に豹変する同行者達。彼らは同行者の一人のセレスティアを称えラナを貶める。知り合いもいない世界で心がすり減っていくラナ。彼女の迎える結末は――。 本編にプラスしていくつかのifルートがある長編。 カクヨムにも同じ作品を投稿しています。

明日のために、昨日にサヨナラ(goodbye,hello)

松丹子
恋愛
スパダリな父、優しい長兄、愛想のいい次兄、チャラい従兄に囲まれて、男に抱く理想が高くなってしまった女子高生、橘礼奈。 平凡な自分に見合うフツーな高校生活をエンジョイしようと…思っているはずなのに、幼い頃から抱いていた淡い想いを自覚せざるを得なくなり…… 恋愛、家族愛、友情、部活に進路…… 緩やかでほんのり甘い青春模様。 *関連作品は下記の通りです。単体でお読みいただけるようにしているつもりです(が、ひたすらキャラクターが多いのであまりオススメできません…) ★展開の都合上、礼奈の誕生日は親世代の作品と齟齬があります。一種のパラレルワールドとしてご了承いただければ幸いです。 *関連作品 『神崎くんは残念なイケメン』(香子視点) 『モテ男とデキ女の奥手な恋』(政人視点)  上記二作を読めばキャラクターは押さえられると思います。 (以降、時系列順『物狂ほしや色と情』、『期待ハズレな吉田さん、自由人な前田くん』、『さくやこの』、『爆走織姫はやさぐれ彦星と結ばれたい』、『色ハくれなゐ 情ハ愛』、『初恋旅行に出かけます』)

番(つがい)と言われても愛せない

黒姫
恋愛
竜人族のつがい召喚で異世界に転移させられた2人の少女達の運命は?

【完結】召喚された2人〜大聖女様はどっち?

咲雪
恋愛
日本の大学生、神代清良(かみしろきよら)は異世界に召喚された。同時に後輩と思われる黒髪黒目の美少女の高校生津島花恋(つしまかれん)も召喚された。花恋が大聖女として扱われた。放置された清良を見放せなかった聖騎士クリスフォード・ランディックは、清良を保護することにした。 ※番外編(後日談)含め、全23話完結、予約投稿済みです。 ※ヒロインとヒーローは純然たる善人ではないです。 ※騎士の上位が聖騎士という設定です。 ※下品かも知れません。 ※甘々(当社比) ※ご都合展開あり。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

幸せを望まなかった彼女が、最後に手に入れたのは?

みん
恋愛
1人暮らしをしている秘密の多い訳ありヒロインを、イケメンな騎士が、そのヒロインの心を解かしながらジワジワと攻めて囲っていく─みたいな話です。 ❋誤字脱字には気を付けてはいますが、あると思います。すみません。 ❋独自設定あります。 ❋他視点の話もあります。

黒騎士団の娼婦

イシュタル
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。 異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。 頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。 煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。 誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。 「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」 ※本作はAIとの共同制作作品です。 ※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

処理中です...