魅了堕ち幽閉王子は努力の方向が間違っている

１３３ 迷わない先輩

「ちょっ、何！　先輩、痛いっ。日焼け止め落ちちゃうっ」

　ゴシゴシゴシ……ゴシゴシ！

　何かを見極めるように。
　時折手を止めて、何かを確認しながら私のおでこを除菌する先輩。

　ゴーシゴシゴシ！！

　やめて、やめて！　私に携帯やゲーム画面のような強度はないってば！！　それに擦られたところで眼鏡や携帯のように見栄えが良くなるわけでもない。むしろ私の必要最低限の薄化粧がはがされて無残なことになってしまう。
　まあ、日焼け止め程度だけれどもっ。

　慌てて先輩から距離を取る私。

　あーもー。ヒリヒリする。口周りならマスクで誤魔化せたのに。おでこの日焼け止め塗り直さなくちゃ。
　痛い。そして勿体ない。貧乏学生の貴重な美容代を無駄にしないでもらいたい。


「先輩、イキナリ何するんですか。もー」
「あっ！？　すっ、すまん。つい、その……。……汚れが気になって」
「えっ、汚れ！？」

　慌てて鏡を出して確認したけど、既に落ちた後のようだ。ただ、先輩にこすられたところが赤くなっている。

　せっかくわざわざ日焼け止めを塗ってお肌を保護しているのに。

　学校やバイトのない日は積極的に家に籠ってゲームをしていたい引きこもり体質なうえ、小さい頃から早寝早起きが習慣づいている私。

　大した顔の造形はしていないけど、肌のキレイさだけは私の唯一自慢できるトコロなので、雑に扱うのはやめてもらいたい。

　まあ、日焼け止めもバイトするのにノーメイクはまずいかな？　と思って何となく塗っている「これ一本でオッケー」的な簡易的なモノなので、狙って美肌を手に入れたわけではないけども。

　それでも中途半端に落として変な日焼けでもしたら、お兄ちゃん達に笑われる。王子に至っては面白いからと魔法で記念写真を撮りそうだ。

　嫌だ、そんな誰も得しない黒歴史。下手したらおでこに歴史が残る可能性だってある。


「それならそうとハッキリ言ってくださいよ。鏡見て自分で落とします。ったく、あんなにゴシゴシ擦っておでこにシミでも残ったらどうするんですか。そんなことになったら責任取ってもらいますからね」
「！！　責任か。分かった」


　ジリ…ジリ…ジリ……。


「……って、何で嬉々として新しく除菌ティッシュ出してくるんですか。目が真剣で怖いですよ。責任取って美白化粧品買ってもらっても、できちゃったシミは中々消えませんからね！？」

「は？　美白化粧品……？　何だ、責任ってその程度か。……でもまあ、消耗品なら定期的に直接手渡す必要が出てくるな」


　ジリジリ……。


　再び先輩におでこを狙われたので慌てて逃げた。

　それを見て何故かガッカリしている先輩の思考回路は分からない。何で積極的に責任なんて取りたがるのか。

　おそらくは責任にかこつけた部員確保の方便なのだろう。