魅了堕ち幽閉王子は努力の方向が間違っている

堀 和三盆

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132 ケータイがおかしい

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「ルカ、無事だったんだな。……良かった。お前に何かあったのかと」

「――は? 先輩ってば、まだ悪夢でも見てるんですか??」


 何故かえらく真面目な表情のせいで、お昼ご飯のことは頭から抜けた。どうしたのだろうか。

 マイペースな先輩の、やたらと落ち着かない不安げな顔。

 こんなの、高校時代、先輩の所属する高校のオカルト研究会が部員不足で廃部になったとき以来だ。
 ちなみにその時も入部を頼まれたが当時は断った。

 いや、だって……部活とかするとゲームする時間減っちゃうし。

 思えばあの頃から先輩はこのローブを着ていたんだよなあ。すっかり見慣れちゃったけど。

 高校の頃は校内でも同じようなローブの人を数人見かけることがあったけど、徐々にそれが減って、部活が廃部になって――それでも先輩だけが頑なにこの服装を続けていた。

 ちなみに高校のオカルト研究会は廃部になったが、ОBが大学で作ったサークルは残っていたらしく、先輩が現在所属しているのもソレだ。

 私も高校時代は入部を断ったが、幽霊部員でもいいからと先輩に頼まれて、それなら……と大学では入部した。

 まあ、大学のサークル活動的なものには憧れもあったし、よく知っている先輩がいて、気が向いたときだけ顔を出せる今の状況は悪くないと思っている。

 それにしても。


「無事って……? やっぱり怖い夢でも見たんですか?」

「何日か前からお前の携帯にメールや電話をしまくっているのに何の連絡もないから心配していたんだよ。いったい何があったんだ?」

「え? でも着信なんて……。――!!!???」


 ……あった。

 先輩に言われてケータイを取り出して確認してみれば、数日前から着信の山。メールも、電話も、いっさい気が付かなかった。


「……おかしいな。一回、鈴木さんに電話したし、今朝だって鈴木さんにメールを返したのに。何度もケータイ画面を見ているのに、何で気が付かなかったのかしら……?」


 この前、出張土産にとご当地ポテトチップスをあれこれもらった。王子がかなり喜んでいたので、報告がてら電話でお礼を言ったのだ。

 それと、大好きなゲームのコラボお菓子の情報を鈴木さんからメールで教えてもらったので購入し、開封した結果をこちらからメールした。
 今度また、お互いのかぶりを交換することになっている。

 だから、普通にメールチェックも着信チェックもしたはずなのに。


「鈴木……ね。例の。ああ、なるほど。そういうことか」

「先輩?」


 ぶつぶつと先輩が何か呟く声は良く聞こえなかったが、その後に受けた説明はしっかりと聞き取れた。

 どうやら、ここ数日メールをしても私からの返信がなかったので、三日位前の夜に30回くらいかけたらしい。しかし、夜遅くにかけすぎたかと反省して、翌日はあまり遅くない時間にメールを10件ほど。しかし、それでも私から連絡がないからコレは何かあったのかもと思い、メールと電話をしまくったそうだ。40件近く入っていた。

 それでも連絡がないから、直接、安否を確かめることにしたそうだ。

 これでは心配をかけてしまっても仕方がない。
 あの、さきほどの異常行動も頷ける。後輩思いの先輩に悪いことをしてしまった。


 ――しかも。


 せっかく、あの先輩が自分で夜中の電話は迷惑だと悟ってくれたのに、その貴重な成長の機会を奪ってしまった。

 ああ、なんで着信に気が付かなかったんだろう。日頃、電話が鳴ったらすぐ起きるのに。後悔しかない。

 気の良い先輩に対し、唯一困っているところ。夜型人間である先輩からの時間を考えない暇つぶし電話。
 ……安眠妨害の懸念を取り払うチャンスだったのに。

 体調は素晴らしく良いが、気持ちよくグッスリと眠ってしまったことが悔やまれる。


「すいません、先輩。こんなに連絡をくれていたのに気が付かないなんて」

「……ああ、いや。いいんだ、原因は分かったから。お前が悪いわけじゃないからな。ちょっとソレを貸してくれ」

 そう言うと、先輩は何故か私の携帯を取り上げて、除菌のティッシュで念入りにゴシゴシ擦り出した。仕上げに眼鏡拭きを取り出し、親の仇でも見るような目で一心不乱に拭いている。

 え。先輩、何してんの?


「はい、これで大丈夫だから」

 ようやく満足したのか、いい笑顔で指紋一つなくキレイになった携帯を渡された。

 凄い! ピカピカ!!

 流石眼鏡のお手入れが完璧な先輩だけある。携帯のお手入れも得意なようだ。特に汚くしているつもりはなかったけれど、見る人が見れば気になるものなのだろう。


「ありがとうございます! すごーい、キレー」

「余計な汚れをとっただけ……っ…て、……ッッ!!??」


 見事な手際に感動してお礼を言う私。
 しかし、先輩はそんな私を見た瞬間、何故か大きく目を見開いて固まってしまった。

 私の顔……というかおでこのあたりを凝視している。え。何。コワイ。先輩の目からビームでも出ているのだろうか。おでこがやたら熱いんですけど。


 ……はっ、もしかして。まだいいかなーと美容院代ケチって、前髪セルフカットしたのがまずかった? 


 確かに少し切りすぎたとは思うけど、ちょっと気になっていたから、たまたまコンビニに買い物に来てくれた鈴木さんに聞いてみたら別におかしくないって言ってくれたのに……。
 でも、思い返してみれば確かにあの時の鈴木さんは口元がニヤけるのを耐えているような顔だった。

 本当はおかしいのに言うに言えなかったのかもしれない……!

 不安に思い、それを先輩に伝えると、前髪は別におかしくないらしい。ああ、良かった――とホッとしていたら、携帯に引き続き、何故だかおでこを除菌ティッシュでこすられた。

 え、何!? どうなってんの!!??




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