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144 竜との取引(王子視点)
しおりを挟む『は? これ一つで国が助かるんだぞ??』
「それでも断る」
王族として。この国を思うのならクマをここで竜に渡すのが正しい。
でも、コレはこっちの世界のものではないし、僕の物でもない。召喚主のお気に入りを僕が勝手に持ってきただけだ。だからコレは彼女に返すべきだろう。
――例え、その機会が永久に訪れることがないとしても。
滅びる以上、王子として国と運命を共にする覚悟ではあるけれど、それでも僕の決心は変わらない。
あと、クマとはいえおでこにチューとか色々思い出して心配になるからやめてくれと竜に訴える。ならば滅べと言われるのも覚悟していたが、何故だか竜は興味深げな眼を僕に向けてきた。
なんか……ちょっと色々と見透かされているみたいで居心地が悪い。
『ふむ……まあいい。どうせ外側には何の興味もないからな。中身だけならどうだ?』
「え……中身? いや、中身抜かれちゃうと抱き心地が……召喚主は早朝のバイトをしているんだよ。だから、彼女の眠りが浅くなるのはちょっと……いや、どの道滅亡しちゃったら返すあてもない訳だけど……」
『違う。ワシが欲しいのはコレだ。……『結晶化』』
コロン…。
クマが眩しい光に包まれたと思ったら。煌めく何かが僕の足元へと転がってきた。
拾うと、何故か手にしっくりと馴染む。
「…宝石? いや――コレは魔力結晶か?」
透き通った濃い青に――所々金色の光が混じったような神秘的な石。つい最近どこかで見たような気がするが思い出せない。
ダンジョンに落ちていたら宝石にしか見えない――が、竜が唱えた魔法からすると、おそらくこれは魔力の結晶体で間違いないだろう。
その証拠に。竜の持つクマからは僕の魔力が消えている。もはやただのとっても可愛いクマちゃんだ。
魔力の結晶体――手に馴染んで当たり前だ。何か不思議な感覚はするが、感じる成分は僕の魔力そのものなのだから。
結晶化の魔法は初めて見たが、おそらく結晶化したてはまだ不安定なのだろう。そのまま手で持っていると手のひらから溶け込んできそうな感覚がしていたので、慌てて竜の持つクマとソレを交換した。
『取引成立――だな』
そう言って。竜は渡した石を大事そうに胸に抱いた。
同じく返されたクマを抱きながら――少しだけ不安な気持ちでその光景を見つめる僕。
このクマには僕の魔力が詰まっていた。だから――アレは僕の魔力で間違いない。
でも、竜は番の気配がすると言った。
竜と違い人間には番なんてないし、人間の僕にはそれがどういうものなのか分からない。
竜はほぼ僕の魔力で出来たソレを愛しそうに抱いてはいるが、僕が番ということはあり得ない。そもそも僕が幽閉されている塔と竜の封印場所はすぐ近くだし、ダンジョン攻略の際に何度もこの場所にも来ているのだ。
もし僕が番なら竜はその時点で気が付いたはずだし、多分、偶然だとは思うが、過去にこの場所に来た時に寝ぼけた竜に殺されかけたことが複数回ある。本気の殺意を感じたし結構ギリだった。
僕が知っている限り、番相手にソレはない。
むしろ――。
クマから取り出した魔力の結晶体。魔力自体は僕のものだけど、あのクマに触った人間は僕以外にもいる。――と、いうより僕と召喚主――僕の知る限りその二人しか触っていない。
魔力のない彼女。なので、いくら魔力が人や物に移るといっても彼女の魔力がクマに入ることはない。
それでもクマからは仄かに彼女の匂いがするし、それが僕には嬉しいし、でも――竜が感じている番の気配とやらがそういったものだとしたら?
竜の番は同じ世界に生まれるとは限らない。目の前に居る守り神は我が国に番の気配を感じていたらしいが、それは一度消えたと言っていた。
我が国にも多くいる獣人や彼のような竜族は番に対する執着が凄まじいと聞く。特に、神格化された竜族はことさらそれが強いらしい。
異世界に召喚され召喚主と遊ぶようになった僕。
ほぼ同じタイミングで起きてきた竜。
……もしかして竜の『番』は――――。
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