魅了堕ち幽閉王子は努力の方向が間違っている

堀 和三盆

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145 闇堕ち竜の人生相談(王子視点)

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『ふぅむ……? 安心しろ。おそらくそれはない』
「は!? な……なんだ!? うっかり口から何か出ていたか!??」


 僕が考え事をしていると竜が自然に割り込んできた。

 確かに幽閉されてからというもの独り言が多くなったような気がしているが、人前でもソレをやっていたのだろうか。


 うわあ、恥ずかしい。今のコレは口に出していないよな!? まさか出してる!? わわわわわ……。


『落ち着け。独り言ではない。口に出さずとも魔力差のある人間の思考など見れば分かるわ。竜族は生来、強力な翻訳スキルを持っているからな。話すまでもない』


 良かった、それなら安心……じゃない!
 何という事だ! 僕の思考が読まれている!!


 ……ん? でも、待てよ。――と、いう事は誤魔化したところで今さらだし隠しごとなどできないし、何となく言葉にしづらいモヤモヤとしたこの思いを竜は勝手に読み取って正確に分かってくれるということだよな?

 取引が成立して国が滅亡しないなら召喚再開後のことも考えなきゃならないし、そうなると相談相手として目の前の竜は最適なんじゃないだろうか。

 そもそも幽閉中の僕には他に話せる相手などいないのだし。
 うん。適任だ。


 そういう訳で国の守り神様。サクッと僕の思考を読み取って適切なアドバイスをお願いします!!


『切り替え速いな』

 ほら、とっても話が早い。




『なるほど。おでこに魔力の痕跡が。そして、その魔力はお前の物で間違いないと……』

「そう。でも、気になるんだ。寝言も言っていた。彼女がうなされて悪夢を見ていた時に、その……つい、それで……しかも………………先輩が……、どう、とか………」

『ふむ。身に覚えのない己の魔力の痕跡に嫉妬しておでこにブチュっとして上書きしたものの起こしてしまい、寝起きの召喚主に夢うつつで他者の名前を出されて、もしやあの魔力を注いだのは魔力を偽装したソイツかも……と怪しんでいるわけか』

「……!!」
 竜すごい。流石我が国の守り神。僕自身うまく処理できていなかったのにうまいことまとめてくれた。驚きの情報処理能力だ。闇堕ちしてるけど。


『…………うるさいぞ、バカ王子。本気で滅ぼされたいのか。でもまあ、魔力はお前の物で間違いないのだろう? ならばクマの魔力が相手に移っただけではないのか? なんでそのクマにこうも魔力が吸収されていたのかは分からんが、確かにソレにはお前の魔力が溢れるほどに詰まっていた。お前の思考を読み取る限り、召喚主とやらは毎夜クマに抱きついて寝ているようだし、相手の魔力が空なら移ってもおかしくはあるまい』

「そ、そうか、そうだよな! 僕もそうだとは思ったんだよ。でも、そうなるとあの『先輩』とかいうのは何で……」

『うなされて寝ぼけていたのだろう? 悪夢に意味などない。それを言うならワシだって悪夢の中で何度もこの王国を滅ぼしたわ。夢の中で婚約破棄騒動を起こした王子っぽいのが近づいただけで攻撃したし魔法もぶち込んだ。サクッと爪で刺したときなどは何度か手応えすらあったくらいだ』

「……あの、それ、何回かは本当に攻撃してない?」

『さあ? 言っただろう。悪夢の中の行動に意味などないと』



 ……とりあえず誤魔化された感はあるが、納得は出来た。そうだよな。気にし過ぎだ。うん。相談してよかった。

 そして、スッキリしてみればダンジョン攻略の続きが気になってくる。あくまでも城の変更箇所の確認が目的なので、ダンジョン部分はできる限り省略したい。移動距離も短縮したい。


「――と、いう訳でこの部屋にショートカット用の魔法陣を置かせてほしい。僕は幽閉中で、周囲にバレないようにこっそり抜け出しているから攻略にあまり時間が取れないんだ。例えまたダンジョンの造りが変わっても、この部屋の位置だけは変わらないし。この先を攻略する拠点にできるし」

『ソレは構わんがここから先は……いや、それもまた一興か。いいぞ。好きな場所に置くがいい。寝床への出入りも許す。その代わり、たまにあちらでの様子を聞かせてくれ。番の気配の変化が知りたい。あと、そのクマはこまめに持ってこい。また、番の気配を纏っているようなら結晶を取り出す。……これさえあれば、ワシの夢見も良くなるからな』

 そう言って竜はどこからか取り出した小さな宝箱に魔力結晶を仕舞った。召喚主が使っているティッシュの箱を二段重ねにしたくらいの大きさだ。

 おそらく空間魔法の一種だろう。僕も使えるが、眼鏡ケース20個分しか入らないので大きいサイズの箱が仕舞えるのが羨ましい。

 竜の髪と同じような真っ赤な宝箱。外側には繊細な模様が彫り込まれ、装飾も美しい。元々が宝石のような魔力結晶は、華美な箱に入れるとそれこそ宝石にしか見えなくなり――それで思い出した。

 以前。竜の寝床に入り込んだ僕。床に落ちていたキレイな箱を見つけて、その中に入っていた宝石を――。


『ん? どうした、バカ王子。また考え事か? 仕方ないな思考を読んで――』


 マズイ、マズイ、マズイ……!!!
 ちょっと、なんかこれバレたら非常によろしくない気がする!

 何か! 何か別の考え事をしなくては!!

 そう思った僕は。


 冒険で行き詰ったとき。眠れないとき。
 繰り返し見ていた、記憶魔法で保存したあの動画。

『夜桜の下の召喚主』をとっさに再生させていた――。




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