146 / 364
146 竜の番疑惑再び(王子視点)
しおりを挟む満開の。夜桜の下で僕を振り返りながら微笑む召喚主。
やや幼い顔立ちの召喚主が、柔らかな街灯に照らされてほんのちょっぴり大人に見える。
それに何より。無数に舞い散る桜の花びらが彼女を際立たせるように視界いっぱいに広がっていて――。
うん! 安定の高画質。あの時の僕、いい仕事した。一瞬で目も思考も奪われる素晴らしい仕上がりだ。
『ほぉう……? ソレが召喚主か』
やはり。竜はバッチリ僕の思考を読みとっていたようだ。でも、大丈夫! お気に入りの映像のお陰で、僕の頭はすっかり桜色だから!! 見られて困るものなどない!
『これは……美しいな』
……ん?
「ええと……桜だよな?」
念の為に聞いてみる。確かにこの召喚主は多少大人っぽく見えるが、召喚主はどちらかと言えば可愛い系だ。それにしてはちょとだけ……出るとこ出てるけど。横になって寝ていてもしっかりと膨らみが分かるくらいの存在感で。
『ほほう。なかなかスタイルもいいようだ』
……ついウッカリ、秘蔵のパジャマ写真まで再生してしまった。こら、見るな! コレは撮影した僕だけが見ていいものだ!!
慌てて記憶魔法をオフにした。忘れろー忘れろーと、思考の限りを尽くして訴えるとニヤニヤと竜が笑う。
不愉快だ。……忘れろー。忘れろー。
『ふむ。この映像からも僅かだが番の気配を感じるな』
魔力結晶を仕舞った宝箱を静かに撫でながら、目を細める竜。
え。待って。いや、でも、さっき。――え!?
「あの……えっと、その。確認したいんだが、召喚主は……違うよな……?」
『さあ?』
「ちょ、お前、さっきおそらくそれはないって」
『おそらく、だ。正確なところは正直分からん。実際に召喚主とやらに会った訳でもないからな。長く気配は感じてきたが、ワシも番に出会ったことがないから、ハッキリとは言えぬ』
「そんな!」
騙された気分だ! 再生なんてするんじゃなかった!!
……あれだ、こうなったら記憶魔法を極めよう。記憶消去まで出来るようになれば竜の記憶から今の映像を消せるはず。
努力! もっと努力をしなくては!!
心の中でそう決意を固める僕を、竜は面白そうに眺めていた。
『今日は良いものを貰ったし、良いものを見せてもらった。大暴れしてやろうと思っていたが、おかげで久しぶりに良い夢を見られそうだ』
満足そうにそう言って、一つ大きなあくびをすると、目の前の男は竜化した。
正直そっちの姿の方が僕には見覚えがある。何度も寝ているところを見ているし、何度も永遠の眠りにつかされそうになったから。
でも、常に纏っていた禍々しさはすっかり消えていた。どことなく空気が爽やかだ。
そして、大きな体を横たえて、ゆったりとした動きでいつも枕にしている台座に頭を乗せ――ようとしているときにあることに気が付いた。
「ちょっ、ストップ! ストーップ!! それ! 枕にしているヤツ、ダンジョンのリセットボタンじゃないか!?」
38
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されないと知った時、私は
yanako
恋愛
私は聞いてしまった。
彼の本心を。
私は小さな、けれど豊かな領地を持つ、男爵家の娘。
父が私の結婚相手を見つけてきた。
隣の領地の次男の彼。
幼馴染というほど親しくは無いけれど、素敵な人だと思っていた。
そう、思っていたのだ。
明日のために、昨日にサヨナラ(goodbye,hello)
松丹子
恋愛
スパダリな父、優しい長兄、愛想のいい次兄、チャラい従兄に囲まれて、男に抱く理想が高くなってしまった女子高生、橘礼奈。
平凡な自分に見合うフツーな高校生活をエンジョイしようと…思っているはずなのに、幼い頃から抱いていた淡い想いを自覚せざるを得なくなり……
恋愛、家族愛、友情、部活に進路……
緩やかでほんのり甘い青春模様。
*関連作品は下記の通りです。単体でお読みいただけるようにしているつもりです(が、ひたすらキャラクターが多いのであまりオススメできません…)
★展開の都合上、礼奈の誕生日は親世代の作品と齟齬があります。一種のパラレルワールドとしてご了承いただければ幸いです。
*関連作品
『神崎くんは残念なイケメン』(香子視点)
『モテ男とデキ女の奥手な恋』(政人視点)
上記二作を読めばキャラクターは押さえられると思います。
(以降、時系列順『物狂ほしや色と情』、『期待ハズレな吉田さん、自由人な前田くん』、『さくやこの』、『爆走織姫はやさぐれ彦星と結ばれたい』、『色ハくれなゐ 情ハ愛』、『初恋旅行に出かけます』)
初恋の呪縛
緑谷めい
恋愛
「エミリ。すまないが、これから暫くの間、俺の同僚のアーダの家に食事を作りに行ってくれないだろうか?」
王国騎士団の騎士である夫デニスにそう頼まれたエミリは、もちろん二つ返事で引き受けた。女性騎士のアーダは夫と同期だと聞いている。半年前にエミリとデニスが結婚した際に結婚パーティーの席で他の同僚達と共にデニスから紹介され、面識もある。
※ 全6話完結予定
【完結】召喚された2人〜大聖女様はどっち?
咲雪
恋愛
日本の大学生、神代清良(かみしろきよら)は異世界に召喚された。同時に後輩と思われる黒髪黒目の美少女の高校生津島花恋(つしまかれん)も召喚された。花恋が大聖女として扱われた。放置された清良を見放せなかった聖騎士クリスフォード・ランディックは、清良を保護することにした。
※番外編(後日談)含め、全23話完結、予約投稿済みです。
※ヒロインとヒーローは純然たる善人ではないです。
※騎士の上位が聖騎士という設定です。
※下品かも知れません。
※甘々(当社比)
※ご都合展開あり。
おばさんは、ひっそり暮らしたい
波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
幸せを望まなかった彼女が、最後に手に入れたのは?
みん
恋愛
1人暮らしをしている秘密の多い訳ありヒロインを、イケメンな騎士が、そのヒロインの心を解かしながらジワジワと攻めて囲っていく─みたいな話です。
❋誤字脱字には気を付けてはいますが、あると思います。すみません。
❋独自設定あります。
❋他視点の話もあります。
黒騎士団の娼婦
イシュタル
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。
異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。
頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。
煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。
誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。
「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」
※本作はAIとの共同制作作品です。
※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる