魅了堕ち幽閉王子は努力の方向が間違っている

堀 和三盆

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177 先輩からの誘い

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「……チャレンジャーだな。そんなすごい格好で」
「あ、先輩。先輩も今からお昼御飯ですか?」


 昼休み。学食でカレーうどんを食べていたらいつの間にか先輩が目の前に居た。いつも通りの真っ黒いローブ姿――にもかかわらず相変わらず周囲に馴染んでいる。

 季節感と世界観ガン無視の服装なのに周囲からは一切気にされていない。それが不思議でたまらない。まあ、昔からだし、周囲もいい加減見慣れてしまっているのかもしれないな。私もそうだし。

 そんな先輩から服装について言われるのは心外だが、確かに少し目立つかもしれない。服装自体はお気に入りのシンプルな白いワンピースなのでおかしくはないと思うが、カレーうどんとの組み合わせは確かに目を引くだろう。

 でも、仕方ない。今日は絶対にカレーうどんを食べると決めていたし、今のところ王子に品質保持魔法を掛けてもらった服はコレだけだ。魔法対策済みのこれならシミを気にすることなく安心してカレーうどんが食べられる。それに元が白なら魔法の効果がなくても漂白しちゃえば何とかなりそうな気がするし、ダイジョーブダイジョーブ。

 何故か見られて当然の格好をした先輩より注目を浴びているのが納得いかないが、先輩が前の席に座ってからは好奇の目も減った気がする。毒を持って毒を制す的なやつかもしれない。

 ……とか思っていたら、先輩が自分の日替わり定食に付いていたデザートをそっと私のトレイに載せてくれたので、心の中で謝った。先輩、勝手に毒扱いしてすみません!!


 ちなみに今日の日替わり定食のデザートは芋羊羹でした。美味しかったです(即食べた)。

 ……なにはともあれ、周囲の視線も遮られたのでこれでのんびりと食事が出来る。先輩との食事は謎のステルス効果もあって割と楽しい。



「先輩、大学祭の準備はどうですか? 明日あたり皆に差し入れを持って行こうと思うんですけど」

 大学祭は土曜日曜の二日間。前日である明日はその準備の為に講義も全て休みなので大学に来る必要もないのだが、所属するオカルト研究会も大学祭にはしっかりと参加をするらしい。

 流石に幽霊部員とはいえ、他の人に任せっぱなしなのも気が引ける。なので、明日はちゃんと出てきて準備だけは手伝おうと思っていた。ついでに差し入れを持っていくつもりでいるのだが。


「そうか! そうしてくれると嬉しい。サークルの奴らもお前が来ると喜ぶからさ。とは言っても、準備の方はほぼ終わっているから、ルカには練習も兼ねてお客さん第一号になってもらいたいんだ。実は、今日はそれをお前に頼みに来た」

「お客さん……ですか?」

「ああ。ウチは今年『占いの館』をやるんだよ」


 なんでも。模擬店で簡単な占いを披露し、興味があるようならサークル棟へと誘導し、本格的な占いをご提供――という流れらしい。それを、このローブ姿でやるそうだ。

 おおっ。それは衣装代いらずで経済的ですね。素晴らしい!!

 サークル棟の部室は怪しさだけならどこに出しても恥ずかしくないくらいのオカルト趣味丸出し状態なので、そのままでも雰囲気作りはバッチリだろう。実際、大掛かりな準備はほぼなかったという。

 良かった。私だけが何もしないのでは寝覚めが悪い。なので、協力できるトコは喜んで協力させていただきますよ。オカルト研究会の皆様には履修相談なんかにものってもらっていますしね。


「もちろん協力しますよ。それにしても……占いですか。いいですね。すごく面白そう」

「うん。ウチも久々に本気を出してやるからな。占い結果は期待していいぞ。あと、その……少し、お前に話したいこともあるんだ。だから、少し時間をくれないか。それは明日じゃなくても構わない。できれば……ローブを持って……部室に来て欲しいんだ」


 やたらと勿体ぶって言いづらそうにしているから、何を言われるのかと身構えれば……いつも通りのサークルへのお誘いだった。珍しく緊張しているのか、眼鏡の奥の目がいつになく真剣だ。

 なるほど。ローブで接客って言っていたし、今回の大学祭はよほど気合いが入っているのかもしれない。
 気恥ずかしいけど、大学祭期間中ならば衣装として堂々と着ていてもおかしくないもんね。それどころか大学祭を盛り上げるのに一役買うかもしれない。


「あと……できれば、『夜』に近い時間がいいかな……」


 ………昼間だと占い客に邪魔されるかもしれないし…………。


 後半は良く聞こえなかったが、占い客がどうとか言っていた気がする。大学祭絡みで何か用でもあるのかもしれない。反省会とか、客寄せについて……とかかな?


「夜……ですか? まあ……土曜日なら大丈夫ですけど。日曜日は早朝バイトが入っていないんで。あ、でも、生活リズムは崩したくないんで、あまり遅くなるのは……」

「ああ、大丈夫だ。少し――話すだけだから」

「分かりました。私でお役に立てるなら」


 眼鏡の奥で緊張していた先輩の表情がふ……っと緩む。え。私ってば、そこまで付き合い悪いと思われていたのだろうか。

 まあ、仕方ないか。日頃から来い来い言われていたのに、幽霊部員でいいって言われたのを言い訳にサークルにもほとんど顔を出していなかったからなあ。
 大学祭期間中くらいはサークルの方の人間関係を優先させますか。


 王子の方は、明日のおやつ召喚の時に土曜日曜の召喚時間の変更を伝えればいいよね。


 そんな風に。アレコレ忙しく脳内でスケジュール調整を行っていたせいで。

 いつもなら言われなくてもガン見していた先輩の眼鏡から意識が外れ、縋るような、絡みつくような視線を向けられていたことにはまったく気が付いていなかった。




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