魅了堕ち幽閉王子は努力の方向が間違っている

堀 和三盆

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196 秘密のお話

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「それで、お話って何ですか?」

 先輩とあれこれ大学祭をまわった後。部室へと行ったら、既に誰も居なかった。先輩によれば、今日の分のノルマが終わったので一時間以上前に解散となったらしい。食べ物の模擬店に並んでいる時に連絡があったそうだ。

 店仕舞いには少し早い気もするがあの占いには集中力が必要らしいし、まだ明日も大学祭が続くことを考えると、こんなものなのかもしれない。


 現在の時刻は17時過ぎ。いつもなら、召喚中の王子が夜の召喚を強請り始める頃だろう。


 今日の召喚は午前中に済ませてあるので時間を気にすることなく先輩と話していられるのだが、おやつの時間からの召喚が習慣になっているせいか、つい、王子のことを基準に考えてしまう。


「まあ、とりあえずはお茶でも飲もうか。色々食べて喉も乾いたし。時刻が遅いからハーブティーの方がいいだろう? お前が好きそうなのを用意しておいたんだ」


 テキパキと。部屋に備え付けの電気ケトルを使い、先輩がハーブティーを入れてくれたのだが、味も香りもとても良かった。何か分からないけど、体に染み渡っていくような……。

 大学祭をまわりつつ先輩とあれこれ食べたせいだろうか。スッキリとしたお茶がすごく飲みやすい。

 ああ、ちなみに今日はちゃんと自分の分は自分で出しましたよ。先輩は出してくれようとしたけれど、奢り奢られはあまりよろしくないですからね。昨日は結果的にご馳走して貰っちゃったけど、その辺はキッチリさせてもらいます。

 とは言っても、これ美味しいから食べてみろ、とかお裾分け感覚ですすめられると断りづらい。しかも、どれもこれも私好みの物が多く、気が付いたらそれなりに色々食べさせられていた。まあ、昨日ほどではないけども。


「お気遣いありがとうございます、先輩。すごく美味しいですね、このハーブティー。体に染みわたっていく感じがします」

「フム。ようやく少しは中和されたか……? 今日は猫の毛みたいな細くフワフワした何かにずっと邪魔されていたからな。……これで余計な妨害が消えればいいのだが」


 そう言いながら自分用に入れた同じお茶を飲む先輩。おお、先輩の眼鏡に湯気が…………って、あれっ、曇らない!?

 アツアツのお茶を涼し気な顔で飲む先輩の眼鏡はいつも通りのクリアな透明度。香りを楽しむように少し伏せられたやや切れ長の目がお手入れ完璧な高級眼鏡と似合っていて優雅です。

 どうやら曇り止めを使っているようだ。流石先輩。準備がいいね☆

 ……って、あれ? 考え事していてよく聞いていなかったけど、先輩たしか今、猫の毛がどうとか言ったよね?


 昨日猫ちゃんが帰った後、悪戯されたオカ研特製ユニフォームローブに軽く粘着クリーナーをかけておいたんだけど、まだ毛が残っていたのだろうか。


 とりあえずお茶を溢したら大変なので飲みかけのカップを目の前の丸いテーブルに置いてから自分の着ているローブを確認。
 うーん。見た目にはそれっぽいのはついていないのだが。

 再びお茶に目を戻すと、テーブルの模様に気が付いた。なんかうっすら模様が入っているなーとは思ったが、さっきこんなにハッキリ見えたっけ?

 この丸テーブルは占いの時に水晶玉が置かれていたものだ。占い時には真っ黒い布がかけられていて気が付かなかったが、外されている今は、非常に美しい魔法陣の模様が晒されている。

 ああ、これよく見たら先輩の悪魔グッズコーナーに使っていたテーブルだ。いつもは上に髑髏やら怪しげな置物やらが所狭しと置いてあるから全体像が見えないが、こんな模様をしていたのか。


 ――魔法陣模様の丸テーブル……!!


 ……正直、メッチャかっこいい。丸テーブルにガッチリ描かれた繊細な魔法陣が私の中二心を刺激する。布で隠すの勿体ない、このまま水晶を載せて使った方が格好いいのに……と言ったら、先輩の機嫌が目に見えて良くなった。


 先輩は自分のカップを魔法陣テーブルに置くと、おもむろに立ち上がり、部室の戸締りを始めた。


 窓を閉め。カーテンを閉め。ドアを閉める。


 ……あれ?

 おかしいな。窓やカーテンはともかく、先輩は育ちがいいせいか、こういうときドアを少し開けておく習性があるのに。私に話があるとは言っていたが、そんなに誰かに聞かれたくない話なのだろうか。

 私が逃げ出せないように戸締り……まで、して……?


 ドクン、ドクン、ドクン……

 急に上がる心拍数。
 おかしいな。確か、前にもこんな感じのことがあったような。


 昨日。王子に魔力で体調を整えてもらったからだろうか。
 それとも、夜に召喚した節約モードの偽王子(猫)に癒されて思いっきりリフレッシュしたからだろうか。

 いつもはあまり機能しない危機感のようなものが珍しく働いた。心が警鐘をならす。
 嫌だ、先輩のコレ駄目。怖い、逃、げ――。



 ――カチャン☆



 そして、内カギまで閉められたことで。私は明確に過去の『ソレ』を思い出した。

 そうだ、高校の時もたしか――。




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