魅了堕ち幽閉王子は努力の方向が間違っている

堀 和三盆

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215 祭りの後で

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 早朝バイトの副産物。日々の早寝早起き生活の結果、偶然手に入れた美肌のように。ごくごく平凡な私が周囲の人間に対して少しだけ自慢できること。

『歯医者さんに行くたびに褒められる歯磨き』

 そんな丁寧な歯磨きを続けてきた、歯医者さんお墨付きの口腔状態を保っている私が歯磨き直後にもかかわらず一瞬で気付くくらいのスッキリ感。まるで、定期健診で歯のクリーニングを受けた後のよう。


「ちょ……!? 何コレ、すごい!」
「ちょ……!? 何だコレ、すごいな!」


 おや? 思わず驚きの声を上げたら王子と被ったぞ?? おかしいな。私はともかく、何で魔法をかけた側の王子が驚いてんの???


「ああ、悪い。夜に大きな声を出してしまった。いや、この魔法は磨き残しがあるほど多くの魔力を使うのだが、ほとんど魔力が減らなかったから驚いて。なるほど、君はとても歯磨きが上手らしい」

 おっと、歯医者さんに続き、魅了堕ち幽閉王子様からも歯磨きを褒められましたよ☆ 


 ……って喜んでいいのか、コレ。

 こんな便利な魔法があるなら召喚回数を増やしてでもぜひ虫歯予防に毎日かけてもらいたい――とか思ったんだけど。磨き残しが数値化されちゃうとなると頼むのに少し抵抗がある。

 いや、魔法があるからって手抜きをするつもりはないし、日頃から丁寧なブラッシングを心掛けているけれど、お口の衛生状態がそこまで分かりやすく王子に駄々洩れになるのはちょっと……。別に王子を意識しているわけではないけれど、流石に恥ずかしい。
 ……うん。頼むのはいざって時だけにしておこう。


「ん? どうかしたのか?」

「ううん、なんでもない! ありがとう、おかげでスッキリした!!」




 その後は食べてすぐ寝るのはよくないだろう、との判断から王子のゲームを眺めつつおしゃべりをした。

 ああ、やっぱり楽しいな、って思う。一人で集中してやるゲームもいいけど、誰かとワイワイ盛り上がりながらやるゲームも楽しいよね。最近は大学祭の準備で忙しかったから、こんなにリラックスして遊ぶのも久しぶりかも。
 このままのんびりゲームやおしゃべりを楽しみたいところだけど、明日はバイトがあるから適当なところで切り上げないといけない。

 しばらくしたところで抗えない眠気に襲われたのでベッドに移動した。時間的にも丁度いい。
 ウトウトしながらも。いつも通り耳栓入りのペンダントを外したところで――思い出す。

 そうだ。王子にコレのお礼を言っとかないと……。


「あー、王子。この耳栓を改造して録音再生機能を付けてくれたでしょ?」

「は? 録音……再生機能??」

「ほら。王子の鼻歌を録音しておいてくれて……」

「鼻歌……? あっ!! あああ、いや、あの、あれは…、その……」


 何故か。焦ったような王子の声が聞こえる。
 ああ、いけない。完全に目を閉じていた。既に眠っていたようだ。

 頑張って目を開けたら、真っ赤になっている王子の顔が見えた。何だろう……気にはなるが、眠くてこれ以上は目を開けていられない。
 自然とまぶたが閉じて、すぐに真っ暗な世界に戻されてしまった。

 体がベッドに沈み込んでいく感覚がして、すごく気持ちがいい……。


「先輩……話……怖くなか……った、王子のおか、げ……ありが……と、助か…、あーダメ、もう無理……お休み、なさ…………」


 選曲チョイスがアレだとか、レベルアップ音はどうよ、とか。

 王子に言いたいことは色々あったけど、まあ、この耳栓に守ってもらったのは確かだし。ちゃんとお礼が言えて良かった。


 大学祭が終わった解放感とか。
 先輩が見つかってようやく安心できたとか。
 あちこち探し回ったせいで疲れていたとか。
 お腹いっぱいで幸せとか。


 色んな事情が組み合わさって、自分でも驚くほどグッスリ眠ってしまった。

 そのせいかもしれない。


「アレを聞かれていたのか。でも……そうか。とりあえず『実験』は成功したみたいだな」


 深い眠りに落ちていく私を見下ろしながら。

 王子が――ほんの少し悪い顔をしていたことにはまったく気が付かなかった。





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