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214 夜召喚のおやつと歯磨き
しおりを挟む「美味しいな!」
「ねー、美味しいよね!」
自作のプリンアラモードは好評だった。盛り付けのやり直しってことで追い生クリームをしたせいか。グチャグチャ感を誤魔化すためにチョコレートをかけたせいか。色々な味が楽しめるし食べ応えがある。
その分、カロリーが怖いですけどね!! そして怖い分だけ背徳感からの満足度もすごい。
お腹的には大満足だけど、時刻は夜。甘い物ということもありいつも以上にしっかりと歯磨きをやり直して寝支度を整える。
お口の中をスッキリさせて部屋へと戻ると、王子は既にゲームを始めていた。王子もおやつはあれで満足したのか、入れてあげたノンカフェインの紅茶を優雅に飲みながら片手で器用にゲームのキャラを操っている。
マナー的にはともかく、ゲーマー的には少ない召喚時間を無駄にしないその姿勢は素晴らしいと思う。
でも、その楽し気な姿を見て、少しだけ心配になった。
(普段から夜も適当なおやつで召喚しているけれど、王子は塔に帰ってからちゃんと歯磨きをしているのだろうか……)
スイーツの誘惑に負けちゃった今日はイレギュラーとして。勝手に帰ってもらう夜の召喚時は王子用のおやつしか用意していない。
夜の召喚で一緒に遊ぶ時は自分の分も用意するけれど、私は寝落ちを警戒して一緒におやつを食べた後は先に歯磨きを済ませるようにしている。
けれど、召喚時間を無駄にしない系王子の彼は日付が替わる寸前までゲームをする習性があるのだ。
見ていてあからさまに寝落ちしているときもあるのだが、そんな王子は帰ってから歯磨きをする余裕はあるのだろうか。
召喚に関して本人の強い希望があるとはいえ、私がおやつを提供している以上、虫歯にでもなられたら寝覚めが悪い。
そんな疑問を伝えたら。
「ああ、どんなに眠くてもちゃんと磨いているぞ。魔力量に余裕がある貴族は魔法で済ますことも多いらしいが、僕は基本的に自分の手で磨いている。余分な魔力は少しでも魔法陣の改良に回したいからな! 一応、魔法も使ってはいるが、あくまでも磨き残しを無くすための補助的なものに過ぎない。歯磨き後の仕上げに魔法を使う程度なら魔力量も少なくて済むからな! 歯磨き後の魔法仕上げはお口もスッキリ爽やかでお勧めだ! 手磨きと魔法の二重の防御で、虫歯対策もバッチリだぞ!!」
――と、ドヤ顔で答えが返ってきた。
どうやら。髪を乾かすのと同じく、歯磨きも魔法で簡単に済ます方法があるらしい。
え。何、それ便利……とは思うものの。どうにもその辺を全て魔法に頼るのには抵抗がある。なので、補助的に魔法を使っているだけ、という王子のやり方はむしろ理想的だ。
だって、それなら歯磨き後の仕上げの洗口液みたいなものでしょ?
流石は召喚慣れしている王子様。既にこっち側の感覚や価値観を身に付けているようだ――と感心したのだけれど。
王子によると、召喚生活が始まるずっと前からそんな生活を送っていたらしい。割と小さい頃からの習慣だそうだ。
ああ――三つ子の魂百までってやつですね。王子ってば小さい頃からこんなんなのか……。
「ああ、言っておくがこれは別に僕だけじゃないぞ? 幼馴染だった婚約者も手磨きにこだわっていた。彼女は彼女で魔法での本の修復・修繕活動に力を入れていたからな。ソレ以外に余計な魔力を使いたくなかったのだろう。ただし、表向きは『魔力量の少ない平民の苦労を身をもって知る為』としていたな。その方が周囲の賛同も得やすいし面倒が少なくて済むと言っていた。だから僕も対外的にはそう言っておいた方がいいとこっそりアドバイスをされたっけ」
おっと、なかなかしっかり者の婚約者さんですね。その上、若干、王子と似たものを感じるから結構お似合いっぽいのに――王子ってば婚約破棄をしちゃったんだよね。
いったい何で……って、そっか。魅了堕ちか。
乙女ゲーをやりつつの思い出話で魅了をかけてきた元平民の男爵令嬢の話(愚痴)は結構な頻度で聞かされたけど、そういや王子の婚約者さんの話はあまり聞いたことがなかったな。
サラリと話しているってことは、その辺のことを話題に出してもいいのかな?
うーん。正直興味はあるし詳しく聞いてみたいけど……明日バイトで早いしなあ。王子は無駄に話が長いし、そうでなくても構ってちゃんモードに入っている今は聞くのが危険な気がする。
いつものマシンガントークに入られたら寝るのが遅くなるし、中途半端なところで話が終わったらそれはそれで気になって眠れない。どちらにしても早朝バイトに支障をきたす未来しか見えない。
――ということで。
「へー。歯磨きの仕上げ魔法なんてのがあるんだね。便利そう、それって私にもかけたりできる?」
「もちろんだ! 『ウォッシュ』」
短く済みそうな無難な話題の方に食いついたら、王子がサクッと歯磨きの仕上げ魔法を私にかけてくれた。
その途端、お口に広がる清涼感。
「…………!??」
……って、なにこれ! ちょっとスゴイんですけどー!!
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