248 / 364
248 お久しぶりの……
しおりを挟む「私は王子です」
「え」
「……私は王子です」
「あっ、ハイッ! 久し……ううん、いらっしゃい!!」
週に二度の休・王子召喚日。
右手に猫じゃらし。左手に小魚のおやつ――の完全装備で猫ちゃんを構い倒す気満々で(偽)王子召喚に臨んだ私の前に現れたのはいつもの偽王子(猫)――ではなく。
王子とも猫ちゃんとも似ても似つかない、お久しぶりの偽王子(大)だった。
暇に飽かせて起きてしまったら滅亡とか言われている封印中の闇落ち竜にちょっかいかけていつの間にやら茶飲み友達になるわ、幽閉前に住んでいた城に堂々と忍び込むわ――とてもじゃないけど幽閉中とは思えぬ所業にこのまま王子を放置しておくと碌なことしない、と思った私は王子をできるだけこっちに召喚して思い切り遊ばせることにした。
平日:午後・夜
(二回)
休日:午前中・午後・夜
(三回)
……このペースで王子の召喚を始めたのはいいけれど。
今まで講義の都合で召喚をお休みしていた二日間は封印から目覚めちゃったラスボス闇堕ち竜さんとの、断ったら大暴れしちゃうかも~☆ な強制お茶会があるとかで、王子も塔の地下ダンジョンにあるラスボス部屋にお呼ばれしていて、幽閉場所である塔を留守にしているらしい。
なので、その二日間は今まで通り召喚には応じられないそうだ。
いやもう、幽閉されている人間が幽閉場所を留守にしているとか訳が分かりませんけどね!
でもまあ、それならそれで、こちらとしても都合がいい。
王子は気付いていないけども、今までも王子のフリした偽者をこちらに召喚していましたからね。
そしてそれは既に、私の生活には欠かせないものとなっている。
――――そう!
週に二回のお楽しみ☆
モフモフセラピーとして!!
実家を離れアパート暮らしの私にとって、それは棚ぼた的に訪れた動物と触れ合える貴重な機会。たとえ正体が偽王子の一人であるとはいえ、自由に可愛い猫ちゃんをモフれるこの状態は私にとっても好都合なのだ。
――なので。
王子召喚がお休みの今日も。お茶会中の王子の代わりに塔でお留守番している可愛い腹ペコ偽王子(猫)を召喚して、おやつと鮭オニギリをエサに心行くまで思いっきり猫っ可愛がりさせてもらいましょう!
――と、何の警戒もなくいつも通りに召喚したのですが。
やかましくも愛らしい、たまに命狙ってくる小さい猫ちゃんから、物静かで精悍な、心優しくもやたら大きい偽王子(大)へと王子不在時の身代わり役がメンバーチェンジ……したらしい。
「…………………(シュン)」
……となったのは私――じゃなくて、たった今召喚したばかりの偽王子(大)。
いや、いや、いや。なんで猫ちゃん呼び出し失敗した私じゃなく偽王子の偽者の偽王子(大)が落ち込んでいるの――って、ああもう、ややこしいっ!!
「………………(チラッ)」
「…………?」
口数が少ない偽王子(大)。
口より遥かに多くの事を語ってくれる彼の目に映っているのは――私の左手。
そこには、お盆に乗せられた小魚のおやつと新鮮なお水がたっぷりと……
…………って、これか!
召喚早々、偽王子がシュン……とした原因!!
偽王子(大)が偽王子(猫)召喚に使った猫用おやつを見て、あからさまにガッカリした顔をしてる――――!!!
「ちょ……ちょっと待ってね、王子! 今、新しいおやつを用意――」
偽王子(大)が失望している原因に気付いた私は『水と魚の猫向けおやつ』を引っ込めて、偽王子(大)が好んでいた『コーヒー(ミルク多め)と甘い系のおやつ』に変更しようとして――大変な事態に気が付いた。
しまった!! 今、家に甘い物がない!!!!!
え~…。
モーニングを一緒に食べてからというもの、すっかりコーヒーに魅了されちゃった違いの分かる王子様。
実はおやつもそれに合わせて甘い物を好むようになっていた。
そして、一度ハマると歯止めの聞かない王子様は召喚される度にクッキー・チョコレート等の甘い系おやつをコーヒーと共にパクパク、ガブガブと楽しみ続け――――
結果、家から甘い系お菓子のストックがなくなってしまった。
猫ちゃんは魚しか食べないし、王子は王子で甘い物食べ過ぎだから、家に無けりゃ流石に諦めるだろうと思って、私もヘルシーな野菜系おやつだけを補充していたのだ。
……それが、こんな事態を招くとは。
どうしよう。予定外とはいえせっかくこっちに召喚されて来たのに、猫ちゃん向けおやつ出されてガッカリさせたまま帰したのでは申し訳ない。これをきっかけに本物王子への待遇に何かあっても困る。
何かないか、何か――と考え、思いつく。
そうだ、甘い系おやつがなければ作ればいいじゃない――と。
24
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されないと知った時、私は
yanako
恋愛
私は聞いてしまった。
彼の本心を。
私は小さな、けれど豊かな領地を持つ、男爵家の娘。
父が私の結婚相手を見つけてきた。
隣の領地の次男の彼。
幼馴染というほど親しくは無いけれど、素敵な人だと思っていた。
そう、思っていたのだ。
誰も残らなかった物語
悠十
恋愛
アリシアはこの国の王太子の婚約者である。
しかし、彼との間には愛は無く、将来この国を共に治める同士であった。
そんなある日、王太子は愛する人を見付けた。
アリシアはそれを支援するために奔走するが、上手くいかず、とうとう冤罪を掛けられた。
「嗚呼、可哀そうに……」
彼女の最後の呟きは、誰に向けてのものだったのか。
その呟きは、誰に聞かれる事も無く、断頭台の露へと消えた。
冷遇された聖女の結末
菜花
恋愛
異世界を救う聖女だと冷遇された毛利ラナ。けれど魔力慣らしの旅に出た途端に豹変する同行者達。彼らは同行者の一人のセレスティアを称えラナを貶める。知り合いもいない世界で心がすり減っていくラナ。彼女の迎える結末は――。
本編にプラスしていくつかのifルートがある長編。
カクヨムにも同じ作品を投稿しています。
幸せを望まなかった彼女が、最後に手に入れたのは?
みん
恋愛
1人暮らしをしている秘密の多い訳ありヒロインを、イケメンな騎士が、そのヒロインの心を解かしながらジワジワと攻めて囲っていく─みたいな話です。
❋誤字脱字には気を付けてはいますが、あると思います。すみません。
❋独自設定あります。
❋他視点の話もあります。
明日のために、昨日にサヨナラ(goodbye,hello)
松丹子
恋愛
スパダリな父、優しい長兄、愛想のいい次兄、チャラい従兄に囲まれて、男に抱く理想が高くなってしまった女子高生、橘礼奈。
平凡な自分に見合うフツーな高校生活をエンジョイしようと…思っているはずなのに、幼い頃から抱いていた淡い想いを自覚せざるを得なくなり……
恋愛、家族愛、友情、部活に進路……
緩やかでほんのり甘い青春模様。
*関連作品は下記の通りです。単体でお読みいただけるようにしているつもりです(が、ひたすらキャラクターが多いのであまりオススメできません…)
★展開の都合上、礼奈の誕生日は親世代の作品と齟齬があります。一種のパラレルワールドとしてご了承いただければ幸いです。
*関連作品
『神崎くんは残念なイケメン』(香子視点)
『モテ男とデキ女の奥手な恋』(政人視点)
上記二作を読めばキャラクターは押さえられると思います。
(以降、時系列順『物狂ほしや色と情』、『期待ハズレな吉田さん、自由人な前田くん』、『さくやこの』、『爆走織姫はやさぐれ彦星と結ばれたい』、『色ハくれなゐ 情ハ愛』、『初恋旅行に出かけます』)
婚約破棄ですか? 優しい幼馴染がいるので構いませんよ
マルローネ
恋愛
伯爵令嬢のアリスは婚約者のグリンデル侯爵から婚約破棄を言い渡された。
悲しみに暮れるはずの彼女だったが問題はないようだ。
アリスには優しい幼馴染である、大公殿下がいたのだから。
どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~
涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!
【完結・7話】召喚命令があったので、ちょっと出て失踪しました。妹に命令される人生は終わり。
BBやっこ
恋愛
タブロッセ伯爵家でユイスティーナは、奥様とお嬢様の言いなり。その通り。姉でありながら母は使用人の仕事をしていたために、「言うことを聞くように」と幼い私に約束させました。
しかしそれは、伯爵家が傾く前のこと。格式も高く矜持もあった家が、機能しなくなっていく様をみていた古参組の使用人は嘆いています。そんな使用人達に教育された私は、別の屋敷で過ごし働いていましたが15歳になりました。そろそろ伯爵家を出ますね。
その矢先に、残念な妹が伯爵様の指示で訪れました。どうしたのでしょうねえ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる