魅了堕ち幽閉王子は努力の方向が間違っている

堀 和三盆

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248 お久しぶりの……

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「私は王子です」
「え」

「……私は王子です」

「あっ、ハイッ! 久し……ううん、いらっしゃい!!」



 週に二度の休・王子召喚日。

 右手に猫じゃらし。左手に小魚のおやつ――の完全装備で猫ちゃんを構い倒す気満々で(偽)王子召喚に臨んだ私の前に現れたのはいつもの偽王子(猫)――ではなく。

 王子とも猫ちゃんとも似ても似つかない、お久しぶりの偽王子(大)だった。




 暇に飽かせて起きてしまったら滅亡とか言われている封印中の闇落ち竜にちょっかいかけていつの間にやら茶飲み友達になるわ、幽閉前に住んでいた城に堂々と忍び込むわ――とてもじゃないけど幽閉中とは思えぬ所業にこのまま王子を放置しておくと碌なことしない、と思った私は王子をできるだけこっちに召喚して思い切り遊ばせることにした。


 平日:午後・夜
(二回)
 休日:午前中・午後・夜
(三回)

 ……このペースで王子の召喚を始めたのはいいけれど。


 今まで講義の都合で召喚をお休みしていた二日間は封印から目覚めちゃったラスボス闇堕ち竜さんとの、断ったら大暴れしちゃうかも~☆ な強制お茶会があるとかで、王子も塔の地下ダンジョンにあるラスボス部屋にお呼ばれしていて、幽閉場所である塔を留守にしているらしい。
 なので、その二日間は今まで通り召喚には応じられないそうだ。

 いやもう、幽閉されている人間が幽閉場所を留守にしているとか訳が分かりませんけどね!


 でもまあ、それならそれで、こちらとしても都合がいい。

 王子は気付いていないけども、今までも王子のフリした偽者をこちらに召喚していましたからね。
 そしてそれは既に、私の生活には欠かせないものとなっている。



 ――――そう!

 週に二回のお楽しみ☆
 モフモフセラピーとして!!



 実家を離れアパート暮らしの私にとって、それは棚ぼた的に訪れた動物と触れ合える貴重な機会。たとえ正体が偽王子の一人であるとはいえ、自由に可愛い猫ちゃんをモフれるこの状態は私にとっても好都合なのだ。

 ――なので。

 王子召喚がお休みの今日も。お茶会中の王子の代わりに塔でお留守番している可愛い腹ペコ偽王子(猫)を召喚して、おやつと鮭オニギリをエサに心行くまで思いっきり猫っ可愛がりさせてもらいましょう!

 ――と、何の警戒もなくいつも通りに召喚したのですが。


 やかましくも愛らしい、たまに命狙ってくる小さい猫ちゃんから、物静かで精悍な、心優しくもやたら大きい偽王子(大)へと王子不在時の身代わり役がメンバーチェンジ……したらしい。



「…………………(シュン)」


 ……となったのは私――じゃなくて、たった今召喚したばかりの偽王子(大)。

 いや、いや、いや。なんで猫ちゃん呼び出し失敗した私じゃなく偽王子の偽者の偽王子(大)が落ち込んでいるの――って、ああもう、ややこしいっ!!


「………………(チラッ)」
「…………?」


 口数が少ない偽王子(大)。
 口より遥かに多くの事を語ってくれる彼の目に映っているのは――私の左手。


 そこには、お盆に乗せられた小魚のおやつと新鮮なお水がたっぷりと……


 …………って、これか!
 召喚早々、偽王子がシュン……とした原因!!

 偽王子(大)が偽王子(猫)召喚に使った猫用おやつを見て、あからさまにガッカリした顔をしてる――――!!!


「ちょ……ちょっと待ってね、王子! 今、新しいおやつを用意――」


 偽王子(大)が失望している原因に気付いた私は『水と魚の猫向けおやつ』を引っ込めて、偽王子(大)が好んでいた『コーヒー(ミルク多め)と甘い系のおやつ』に変更しようとして――大変な事態に気が付いた。



 しまった!! 今、家に甘い物がない!!!!!




 え~…。

 モーニングを一緒に食べてからというもの、すっかりコーヒーに魅了されちゃった違いの分かる王子様。
 実はおやつもそれに合わせて甘い物を好むようになっていた。

 そして、一度ハマると歯止めの聞かない王子様は召喚される度にクッキー・チョコレート等の甘い系おやつをコーヒーと共にパクパク、ガブガブと楽しみ続け――――
 結果、家から甘い系お菓子のストックがなくなってしまった。


 猫ちゃんは魚しか食べないし、王子は王子で甘い物食べ過ぎだから、家に無けりゃ流石に諦めるだろうと思って、私もヘルシーな野菜系おやつだけを補充していたのだ。

 ……それが、こんな事態を招くとは。


 どうしよう。予定外とはいえせっかくこっちに召喚されて来たのに、猫ちゃん向けおやつ出されてガッカリさせたまま帰したのでは申し訳ない。これをきっかけに本物王子への待遇に何かあっても困る。

 何かないか、何か――と考え、思いつく。



 そうだ、甘い系おやつがなければ作ればいいじゃない――と。





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