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280 悪魔王子と鈴木さん~感動の再会~2
しおりを挟む「さあ、二人とも。湿っぽい話はこの辺にして、せっかくこうして会えたんだ。今日は俺がご馳走するから好きな物を注文してくれ。と言っても、ここじゃそんなに高い物はないけどな」
「あ、じゃあ僕はこの個数限定の特選和牛ローストビーフサンドセットと贈答用の『焼き菓子とドリップコーヒーの詰め合わせ』を貰おうかな」
「ちょっと、ちょっと、王子!!」
席に置いてあるメニューから迷うことなく最高値商品を選び出す王族の嗅覚はすごいけど、それはここで発揮していいモノではない。そして持ち帰りまで選んじゃうのはどうなのか。絶対、塔に持ち帰る気満々だよね?
慌てて止めるが、鈴木さんは気にもしていない様子。それどころか。
「ははは、構わないさ。これくらいは想定の範囲内だ。コイツに勝手にローン組まされそうになった怪しげな高額開運グッズに比べたらこのくらい。ああ、ルカちゃんも同じのにするか?」
「い、いえ!! じゃあ、私はサツマイモのケーキセットを」
「あ。召喚主のも美味しそうだな。じゃあ、それも!」
「分かった、ケーキセットは二つだな」
いや、それも! じゃないでしょーが。……などと、ツッコミを入れる間もなく、笑顔でサッと席を立ち、カウンターへ注文に向かう鈴木さん。
そう言えば、この店セルフサービスでしたね。流石にご馳走してもらう上に運ばせるわけにはいかないので、慌てて鈴木さんの後を追う……私を不思議そうに見る王子。
いや、王子も来るんだってば!!
「俺の(心の)妹は注文するものまで可愛いな。ルカちゃんはそれだけで足りるのか?」
「あ、ハイ。昼食はしっかりと食べたので。バイトで朝が早い分、夕飯も早いのであまり食べると夕ご飯入らなくなっちゃうし……あの、鈴木さんケーキすごく美味しいです」
「そうか、それは良かった」
新たに注文したコーヒーを飲みながら、私達が食べる姿を微笑ましそうに眺める鈴木さん。目線が完全に保護者のアレですね。
「僕も足りるぞ」
と、ローストビーフサンドを頬張る王子様。
……王子も昼食は食べてきたはずなんだけどな。これは正月太りならぬ召喚太りになるパターンだな。後で腹黒さんに何言われるか分からないし、これは夜も呼びだして強制お散歩させないと。
ああもう、明日も正月早々バイトで朝早いのに……ってそういえば。
「あの……鈴木さんこの間も早朝にスーツ着て朝食買いにいらしてましたけど、鈴木さんの会社ってお正月もお仕事なんですか?」
「ん? ああ、一応は休みなんだけどね。システムとか、休み中じゃなきゃいじれないこともあるからさ。それの立ち合いだったんだ。まあ、本当は後輩の担当だったんだけど、用事があるって言うから俺が代わったんだよ。ま、俺は帰省もしないしね」
なるほど。社会人は大変だな。そういや三番目のお兄ちゃんも正月は会社がどうこう言ってたっけ。結局は代わりが見つかったとかで休みになったらしいけど。
『やったぜ! これでスマホゲームの正月イベント参加できる!!』
って大喜びしていたから、こういうのは会社とか人によるんだろうけど。
「おい、悪魔。お前はルカちゃんに迷惑かけたりしていないか? いいか、学生は学生でやること多いんだからな? 俺の時みたいに学業の邪魔したり、書きあげた提出期限の迫ったレポート異世界に持って帰ったりするんじゃないぞ?」
「するわけないだろう。わざわざそんなことをしなくても、鈴木さんと違って今の召喚主はちゃんと僕を呼んでくれるしな」
おおっと、早速余罪が出ましたね。そして王子のこれは完全に確信犯的なやつですね。頑張って書き上げたレポート人質にするとか鬼ですか。……いや、だからこその『悪魔』呼びなのか。これは仕方ない。ってか、完全に王子が悪い。
しかし、王子の鈴木さんに対するこの態度は何なんだろう。
鈴木さんが常識を身に着けさせてくれたおかげとはいえ、ウチではそこまで非常識な行動取ったりしないのに。
……まあ鈴木さんも大概面倒見が良いからな。
正月早々後輩さんの出勤代わったり王子絡みで付き合いがあるとはいえ、他人の私の事『心の妹』とか言って良くしてくれたり。もしかしたら、悪魔だ、何だ言いつつ、王子の事も『弟』扱いしているのかもしれない。
それで、王子の方も鈴木さんに甘えているとか……。
――あ、うん! それかも!!
何となくだけど、王子を甘やかしたくなる気持ちは私にもよく解る。
王子って近寄りがたいくらいに顔が整ってて冷たい印象の見た目をしているのに、中身がちょっとアレだから……どうしても弟というか、年下扱いしたくなるんだよね。
鈴木さんが大学生の頃からの付き合いらしいから私よりも王子の方が年上の筈なのに。
…って、あれ? 何か、少しひっかかるような……。
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