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279 悪魔王子と鈴木さん~感動の再会~
しおりを挟む「久しぶり。元気そうだな」
「嫌だ! 僕はずっと召喚主と一緒に居るんだ!! 絶っっ対に鈴木さんの所なんかには戻らないからな!!!」
コーヒーのいい香りが漂う落ち着く店内で。
待ち合わせ時間の五分前には既に来て、大人の余裕たっぷりに笑顔で挨拶をしてきた鈴木さんに対し、落ち着きも礼儀もなく出合い頭に噛みつくのは冷たい美貌で近寄りがたい怜悧な雰囲気――だけを漂わせる、完全見掛け倒しのウチの変人王子様。
王族として特別な訓練でも受けているのか無駄に滑舌の良い王子の美声はかなり通るが、周囲の注目は集めていない。これは大きな柱に遮られ、人目に付きづらい奥まった場所に位置する席のチョイスのお陰と思われる。
……それを見て思う。
流石は元召喚主の鈴木さん。王子の取り扱いに慣れているな――と
年が明けて。
いつもの早朝バイト中、正月早々休日出勤しているという鈴木さんがいつものように私の働くコンビニへ朝食を買いに来てくれた。
この人はいったいいつ休んでいるんだろう……と軽く心配になりながらも、雑談で王子の活動可能範囲が駅前まで広がったことを話したら、話が盛り上がって休みに3人で会うことになった。
場所は駅前のコーヒー店。
そう、王子とモーニングを楽しんだあの店だ。
本当は駅前のファミレスが良かったんだけど、残念ながらそれは駅の向こう側。まだそこまでは行けないんだよね。
王子が『ドリンクバー』に興味を示していたから連れて行ってあげたいんだけど。――ま、行けないものはしゃーない。それはまた今度ってことで。
そんなこんなで駅前のコーヒー店で待ち合わせて、前召喚主の鈴木さんと感動の再会を果たしたわけですが。
王子様は自分が返品されるとでも思ったのか、梃子でも動くものかと私の腕に縋りつき、鈴木さんを睨みつけながらの先ほどのひと言ですよ。
――いや、もう、何でこうなった。今日鈴木さんと会うことは事前にちゃんと説明したし、少しだけ嫌な予感もしたから前もって練習もさせたけど、その時はしっかりと出来ていたでしょうよ。
「――王子? 違うでしょう?」
『ありがとう』と『ごめんなさい』の言えない悪い王子はおやつのポテチ30%減らしますよ?
……という私の無言の圧力が通じたのかどうなのか。
私の笑顔から不穏な気配を感じ取った王子様はハッと我に返り。
「ぇえと……鈴木さん、いっぱい迷惑をかけてごめんなさい。鈴木さんが根気強くこっちの社会常識を教えてくれたから、僕は今の召喚主に迷惑をかけることなく楽しい毎日を過ごせています。全ては鈴木さんのお陰です。ありがとうございました。あと、この前もらった出張土産のポテチ美味しかったです。またください」
――よし! いいぞ。何かとんでもなく棒読みな上、最後に余計な一言がついている気がするけど、とりあえずはちゃんと自分の言葉で言えましたね、エライエライ。
ふふん! ……って、おっと、そこでドヤ顔はやめましょうか。そんな顔を見られたらせっかくの謝罪とお礼の言葉が台無しですよ……って、え!? 鈴木さん!??
王子の棒読み台詞とドヤ顔を受けて。
限界まで見開いた鈴木さんの目から、大粒の涙がボロボロと零れ落ち、スッと出来る社会人風眼鏡を外した鈴木さんは顔を両手で覆った。
そして。
「…………あの悪魔からこんな殊勝な言葉が聞けるなんて………………俺の妹はなんて偉大なんだ……!」
覆った手の隙間からこれまでの苦労が察せられるくぐもった声と安定のブレない何かが聞こえてくるけれど、どうやら王子の気持ちは無事に鈴木さんに伝わったようだ。
色々と見なかったことにする鈴木さんのスルースキルが半端ない。
「あの、鈴木さんティッシュどうぞ」
「あ……ああ、ありがとうルカちゃん。記念にもらってもいいか?」
「あ、はい。さっきそこで配っていたやつですけど」
「ありがとう」
そう言うなり鈴木さんは渡したティッシュをポケットに仕舞うと、カバンから取り出した自分のティッシュを使って涙を拭いた。
あ、よく見たらティシュお揃いですね。まあ、すぐそこで配ってたしな。……ってか、『記念』ってなんだろう? ああ、『王子のごめんなさい記念』かな。泣くほど感動していましたからね。頑張って練習をさせた甲斐がありました。
「ありがとう、ルカちゃん。こいつには留守中に変な勧誘を自宅にあげられたり訪問販売を契約されそうになったりと色々されたがこれで笑って許せるよ」
ニッコリ……と爽やかに笑う鈴木さんの心が広すぎる。
そしてまだ余罪があったのか、という気持ちを込めて王子を見ると、ばつが悪そうにスッと目を逸らす。
うん、これはまだまだありそうですね!
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