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308 魅了堕ち幽閉王子は闇堕ちする(王子視点)
しおりを挟む事態の深刻さをイマイチ理解してくれない闇堕ち竜にしっかりと嫌がらせをしてから僕は塔へと逃げ帰った。あいつはダンジョンから出られないから今頃もやもやしていることだろう。
まったく。闇堕ち竜も少しは僕の気持ちを思い知ればいいんだ!
魅了堕ちして塔に幽閉されている僕と、闇堕ちしてダンジョンに封印されているラスボス竜。立場は違うけれど堕ちた者同士、僕はちょっぴりアイツに親近感を抱いていたのに。
趣味の悪いラスボス部屋からの帰り道。ダンジョン猫がいたから塔地下ダンジョン中を追いかけまわして捕まえた。召喚主は猫とか犬とかふわふわした動物が大好きだ。コイツは服を着ているし猫じゃなくて何かの魔物っぽいが、猫っぽいコレを一緒に連れて行けば少しは召喚主も機嫌を治してくれるだろうか……。
そんなことを考えながらダンジョン猫に頬ずりをしていたら、腕にゲシゲシと猫キックをされて逃げられた。ああもう、魔物にまで拒絶されるとか踏んだり蹴ったりだ。
いずれにしても、召喚主の所に連れて行くならもう少ししつけをしてからの方がいいだろう。召喚主のキレイな肌に傷でもついたら大変だ。
それにしたって向こうから召喚されなければ無理な話なのだが……。
召喚主に呼んでもらえるようになってからは毎日毎日楽しかったのに。
セルフ召喚で本人に会えないときだって、いつの間にか盗み食い用ポテチが補充されているのを見て僕はほんわかしていたんだ。そして、都合が合う時は構ってほしいばかりに、わざわざ彼女が大学やアルバイトから帰る頃合いを見計らってポテチを食べ始めたりしていた。
いわゆるツッコミ待ちと言うやつだ。
召喚主は友達がほとんどいないから、毎日同じような生活を送っていて行動が読みやすいし。
狭い召喚主の部屋には彼女の気配が溢れている。
召喚主と同じ匂いのする可愛いクマのぬいぐるみも。いつの間にか増えている新作乙女ゲームも。やり込み要素の強いクラフト系ゲームの中にいつの間にか出来上がっていた趣味の悪い眼鏡型のオブジェだって。
全部全部、僕に彼女を感じさせてくれていた。
終わりのない僕の幽閉生活を支えてくれていたあの居心地のいい空間を取り上げられてしまったら、僕はこれまでのような暮らしを続けて行けるのだろうか……。
暗闇に閉ざされた寒く冷たい塔の中で。
僕は不安な気持ちを抱えながら、いつ召喚されるかも分からない魔法陣に、使い道のない魔力をこめ続けることしかできなかった。
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