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リリーside
3 出会いイベント
しおりを挟むそうして、ようやく第一王子様との出会いイベントがやってきた。
いつものように売れ残りのパンを孤児院に納入していると、少し離れたところで既にイベントが発生しているのが見えた。だから、慌てて駆け寄った。
「きゃあ、たーいへーん!」
場の空気が重い。確か、孤児院に視察に来た第一王子が歓迎の花束でケガを負ってしまうのよ。原因は取り忘れたバラの棘。バラを受け取って、指先を見つめブスッとしている王子の手を掴み、
ぱくり。
と、その指を咥えた。ケガってどの辺だっけ?口の中でぺろりと指をなめ上げてケガの位置を確認すると、全力で癒しの力を使った。たいした傷ではなかった筈だが、多めに癒す分には問題ない。慌てて王子の護衛が駆け寄って引き離そうとする頃には、王子の傷は跡形もなく消えていた。
「君、今のは……」
「あ、良かった。治りましたね! ふふ、小さいころからお母さんが、『そのくらいの傷、なめておけば治る!』って言うんですよ。本当に治ったときにはびっくりしたけど。他人で試すのは初めてだったけど、うまくいって良かったです!」
決められていたセリフを読み上げる。うん。順調順調。予定通りだわ。聞かれるままに、王子に名前や境遇、なぜここにいるのかを説明する。
王子はとても驚いていた。そりゃあそうよね。聖女はとても珍しい。その上、既に王子の婚約者である悪役令嬢が聖女としてその役目についているんだもの。この時代、なぜか二人の聖女が現れて――というのがゲームの設定。
癒しの力は聖女だけが持つ特別な力。決して私利私欲のために使ってはならない。国のため、民のために使われるべき――。
王子の説明をまるで初めて聞くかのように、興味深げに、時には驚きながら、質問を交えて聞いていく。ふふふ。すごく立派なことを言っているけど、実はこの時期、王子は少し悪役令嬢に嫉妬しているのよね。悪役令嬢は既に聖女として国民の為に活動しているのに対し、自分がまだ何も出来ていないことに焦りというか、負い目を感じている。幼い頃に強制的に決められた婚約者、というのにも不満を持っているのよね。そんなときに私に出会うの。
悪役令嬢と同じ力を持った、平民の娘。
そんな娘がなんのためらいもなく悪役令嬢と同じ選択をする。だから、王子は少し安心するのよ。悪役令嬢が立派だからじゃなくて、誰もが国に尽くすことを選ぶんだって。私?もちろん答えは決めているわ。だって、その為に今日まで我慢してきたんだから。王子と恋する為だけに。全ての恋を諦めたのよ。だから。絶対。この力は。
「だったら私、この力を王子のために使いたいです」
言った途端、王子の目が見開かれた。
え?え?何?なんで驚いているの?確か、ゲームでは「良かった。詳しい説明をしたいから一緒に神殿まできてくれる?」ってさらりとエスコートされる筈だったのに。
ここで、私は自分の間違いに気が付いた。
「しまった。『国のため、民のために』って言わなきゃいけないんだった」
そうだ。ようやく王子に合えたことに舞い上がって、「国のため、民のために」って言うべきところを王子のためにって言っちゃった。やだやだ、どうしてこんな凡ミスするのよ。これで失敗したら、今日までイケメン達との出会いを控えてきた意味がないじゃない。乙女ゲームのようなキュンキュンするような、じれったいもどかしい恋がしたかったのに。
「大丈夫かなうまくルート入れるかな……?」
一瞬。そんな絶望に支配されかけたが、王子の顔を見ると、なぜか呆けたような顔をして、私のその後の言葉は耳に入っていないようだった。
そして。
次の瞬間には完全攻略済みの真っ赤なデレデレ顔に代わっていた。
え?なんで???
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