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1 夢と現実
しおりを挟む熱い、苦しい、皮膚が焼ける。
ダメだ頼む、やめてくれ! これ以上、私から愛する者を奪わないでくれ!!
でないと、私は何のために……!
……て、……起き…て。
「…起きて、皇帝陛下」
「…………!!!!」
燃え盛る炎。崩れ落ちる屋根。もう無理だと必死に制止をする周囲の者を振り払い、一面の赤い海に闇雲に伸ばした己の手を――――しっかりと握り返す瑞々しく温かな手。
轟々と燃え盛る真っ赤な視界とは裏腹なその心地よい手の温度と質感に、皇帝であるロイエは目を覚ました。
突然悪夢から切り離された混乱で視線を彷徨わせていると次第に目の焦点が合ってくる。
「ああ、よかったわ、目が覚めたのね? 大丈夫? 随分とうなされていたわよ。…きゃっ!」
身を焼き尽くす業火の中ずっと求めていたその柔らかな声の主に目を留めると、ロイエは整った顔をぐしゃりと歪め、悪夢から救い上げてくれたその手を思い切り引っ張った。
そして、ロイエの方へと大きく体勢を崩してしまった女の身体に縋りつく。
「ヴィー、ヴィー、ヴィー……!」
「陛下どうなさったの? 凄い汗よ?」
「夢を見たんだ……怖い夢」
迫りくる炎。
全てを焼き尽くす業火。
その中で眠り続ける愛しい――自分の番。
助けようと伸ばしたロイエの手は、何も掴むことなくむなしく空を切る。
「……番を語るあの女の策略で愛する君を離宮に押し込められて、残酷に火を放たれた時の――あの絶望感。火の中へ飛び込んで君を救い出したけれど、今でも永遠に君を喪った夢を見る。……君に、手が届いて……間に合って本当に良かったよ……」
もう何度それを夢に見た事だろう。
うわ言のように語られる恐ろしい情景は、口に出すだけでもロイエの精神が抉られ疲弊する。
それでも語らずにはいられない。
震える手で誰よりも愛する女性に縋りついたまま、ロイエは柔らかな双丘に顔を埋めしっかりとその細い身体の中心に耳を当てる。
そうすることで、微かな振動と共に彼女の心音が聞き取れて、より安心することが出来るのだ。
トクン…トクン…トクン……
ああ、彼女は生きている――という実感。ロイエはその心地よい響きに暫し意識を傾ける。
「……ああ、貴方の中ではそういうことになったのね…………」
「……え…?」
愛しい人が生きているという安心感にトロトロとまどろみ、ロイエの耳に音が入って来ずに聞き返すと、そっと背中に手を回された。
「ふふふ……どうしたの? 今日の陛下は甘えんぼさんね?」
優しく声をかけられて、まるで幼子へのそれのように優しく頭を撫でられる。それだけでロイエの乱れた心が凪いで、身体の震えが治まっていく。
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