【完結】それは本当に私でしたか? 番がいる幸せな生活に魅了された皇帝は喪われた愛に身を焦がす

堀 和三盆

文字の大きさ
2 / 88

2 夢と現実2

しおりを挟む

 どれくらいの間そうしていただろう。

 抱きしめられて。
 優しく髪を撫でられる

 子ども扱いをされているようで気恥ずかしくはあるが、それで安心するのも事実だ。愛する者から繰り返し与えられる慈愛のそれが心地よく、ロイエは思い切り息を吸い込んだ。

 夢で感じた不快な焦げた匂いはどこにもない。鼻腔に広がるのは長年慣れ親しんだ、愛する妻の香りだけ。


「……ああ、君の香りがする。この香水の香りは落ち着くな。嗅ぐだけで心が穏やかになる。……昔から私の一番好きな香りだ」


 ロイエは縋りついていた良い香りのする身体を解放し、代わりに癒しを与えてくれた愛する妻へ感謝の口づけを贈ろうとして――――唇が触れ合う前に、妻の美しい指先でロイエの唇を押し戻されて阻まれてしまう。

 構わず押し倒して強行しようとすると、ダーメ、と妻にクスクス笑われる。


「ふふふ……もう、陛下ったら。ソレだけじゃすまないのだからダメよ。昨日も……ううん、もう今日ね。『さっき』ので私も疲れているからこれ以上は許して。それにあんなに魘されていたのだから、少しは寝ないと陛下の体が持たないわ。さあ、まだ起きるには早いから、大人しく目を閉じて?」

「……ちぇっ」


 ロイエは口をとがらせながらも、大人しく妻の横へと身を横たえる。仕方なく言われるままに目を閉じると、よくできましたとばかりに瞼に口づけが贈られた。

 妻が言うようにロイエもやはり疲れていたのだろう。

 安心する心地よい香りに包まれて。ロイエはあっという間に穏やかな眠りへと落ちて行った。




 ごく短な悪夢の連続に疲れ切り。その分、愛する妻の温もりに癒された後に再び訪れた心地のよい眠りは深く、ちょっとやそっとじゃ目は覚めない。

 だから、ロイエは隣で横たわる妻が起き上がり、ドアを開けたのにも気づかなかった。





※※※※※※※※

 夫婦の寝室とはドア一枚を隔てて続き部屋になっている皇帝の妻に与えられている自室に戻ると、ヴィクトリアは真新しい鏡台の引き出しの中から小さな香水瓶を取り出した。
 廊下側のドアをそっと開けて、入ってきたメイドに皇后愛用のそれを手渡す


「――処分して」


「お気に入りでしたのによろしいのですか?」

「ええ……もういらないの。実家から持ってきた私物だけど、物はいいから良かったら貴女にあげるわ。売っても自分で使ってもいいけれど、私がいる所でだけは絶対に使わないで。私もひと眠りするから今日はもういいわ」

「かしこまりました。ありがたく頂戴いたします」


 失礼いたします……そう言うとメイドは深く頭を下げてまだ三分の二ほど液体が残っている香水瓶を両手で大事そうに持って、皇后の部屋を後にした。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】2番目の番とどうぞお幸せに〜聖女は竜人に溺愛される〜

雨香
恋愛
美しく優しい狼獣人の彼に自分とは違うもう一人の番が現れる。 彼と同じ獣人である彼女は、自ら身を引くと言う。 自ら身を引くと言ってくれた2番目の番に心を砕く狼の彼。 「辛い選択をさせてしまった彼女の最後の願いを叶えてやりたい。彼女は、私との思い出が欲しいそうだ」 異世界に召喚されて狼獣人の番になった主人公の溺愛逆ハーレム風話です。 異世界激甘溺愛ばなしをお楽しみいただければ。

幼馴染を溺愛する旦那様の前からは、もう消えてあげることにします

睡蓮
恋愛
「旦那様、もう幼馴染だけを愛されればいいじゃありませんか。私はいらない存在らしいので、静かにいなくなってあげます」

逃した番は他国に嫁ぐ

基本二度寝
恋愛
「番が現れたら、婚約を解消してほしい」 婚約者との茶会。 和やかな会話が落ち着いた所で、改まって座を正した王太子ヴェロージオは婚約者の公爵令嬢グリシアにそう願った。 獣人の血が交じるこの国で、番というものの存在の大きさは誰しも理解している。 だから、グリシアも頷いた。 「はい。わかりました。お互いどちらかが番と出会えたら円満に婚約解消をしましょう!」 グリシアに答えに満足したはずなのだが、ヴェロージオの心に沸き上がる感情。 こちらの希望を受け入れられたはずのに…、何故か、もやっとした気持ちになった。

幸せな番が微笑みながら願うこと

矢野りと
恋愛
偉大な竜王に待望の番が見つかったのは10年前のこと。 まだ幼かった番は王宮で真綿に包まれるように大切にされ、成人になる16歳の時に竜王と婚姻を結ぶことが決まっていた。幸せな未来は確定されていたはずだった…。 だが獣人の要素が薄い番の扱いを周りは間違えてしまう。…それは大切に想うがあまりのすれ違いだった。 竜王の番の心は少しづつ追いつめられ蝕まれていく。 ※設定はゆるいです。

立派な王太子妃~妃の幸せは誰が考えるのか~

矢野りと
恋愛
ある日王太子妃は夫である王太子の不貞の現場を目撃してしまう。愛している夫の裏切りに傷つきながらも、やり直したいと周りに助言を求めるが‥‥。 隠れて不貞を続ける夫を見続けていくうちに壊れていく妻。 周りが気づいた時は何もかも手遅れだった…。 ※設定はゆるいです。

忌むべき番

藍田ひびき
恋愛
「メルヴィ・ハハリ。お前との婚姻は無効とし、国外追放に処す。その忌まわしい姿を、二度と俺に見せるな」 メルヴィはザブァヒワ皇国の皇太子ヴァルラムの番だと告げられ、強引に彼の後宮へ入れられた。しかしヴァルラムは他の妃のもとへ通うばかり。さらに、真の番が見つかったからとメルヴィへ追放を言い渡す。 彼は知らなかった。それこそがメルヴィの望みだということを――。 ※ 8/4 誤字修正しました。 ※ なろうにも投稿しています。

旦那様に愛されなかった滑稽な妻です。

アズやっこ
恋愛
私は旦那様を愛していました。 今日は三年目の結婚記念日。帰らない旦那様をそれでも待ち続けました。 私は旦那様を愛していました。それでも旦那様は私を愛してくれないのですね。 これはお別れではありません。役目が終わったので交代するだけです。役立たずの妻で申し訳ありませんでした。

彼女にも愛する人がいた

まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。 「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」 そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。 餓死だと? この王宮で?  彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。 俺の背中を嫌な汗が流れた。 では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…? そんな馬鹿な…。信じられなかった。 だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。 「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。 彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。 俺はその報告に愕然とした。

処理中です...