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9 愛しい番の…
しおりを挟む結婚してから何度も愛を交わしているロイエとヴィクトリア。けれど、成熟してない竜鱗では番の判別までは不可能だ。
だからこそ、ロイエはその日が来るのを心待ちにしていた。
ロイエは小さい頃からヴィクトリアが運命の番であると確信していた。結婚し、初めて愛を交わした日にその思いは強くなった。
けれど、中々その日は訪れなくて――焦れていた。
番と判明さえすれば、生きるも死ぬも、その全てが自分の物にできるのに。当のヴィクトリアからはそのような焦りは感じられない。ロイエばかりがヴィクトリアに愛を求めている気がして不公平だと思った。
早くお互いしかない状況に縛らなければ余所見をされる可能性が残ってしまうから。だから――ロイエと同じ不安な気持ちを味わってもらうために、ヴィクトリアのことも焦らせたかったのかもしれない。
その結果が『コレ』だ。
竜人は回復力が強いが、傷ついた竜鱗だけは二度と元には戻らない。愛しい妻が番であると証明できる術はロイエのせいで永久に消えてしまった。
――それでも。
ヴィクトリアの傷痕に手を伸ばすと、ロイエの手の甲に残ってしまった同じような火傷痕が並ぶ。
これは、ロイエがあの業火の中から愛する番を助け出した勲章だ。怪しげな術であの女が番だと信じ込まされ操られながらも、愛の力で抗い、大切な番の命を喪うことだけは避けられた。
竜鱗でソレを確かめることは出来なくなってしまったが、この傷痕がその代わりであるとロイエは心の底から信じている。
その証拠に、小さい頃から大好きで、恋しくて恋しくて仕方がなかったヴィクトリアが、今ではその頃の何十倍も愛おしい――。
竜鱗などで確かめなくともロイエには分かる。ヴィクトリアは間違いなく愛する妻でありロイエの番だ。
心と身体の傷痕で結ばれた二人は二度と引き離されることはない。
色濃く傷痕の残る手で。
絆となった傷痕に触れ、そっと優しく口付ける。
「ッ……ぁ」
「愛しているよ、ヴィー……。愛しい、愛しい私の番。生涯で唯一の、たった一人の私の番――」
心配などしなくても、番となった二人は二度と引き離されることはない。たとえ一目で分からなくても、こうして愛を交わせばすぐ分かる。
愛しい番の声。
愛しい番の肌触り。
そして――
「……あれ? ヴィー、香水替えた?」
「ン――…ああ。ええ、少し……気分を――――変えようと思って。陛下はこの香りはお嫌い?」
「いや……。前のとは随分違うけれど……いや、うん。この香りも…ヴィーの香りなら何でも好きだ」
「――――そう。良かった。ねえ、もうお喋りはいいでしょう? 早く、来て……」
「っ、ヴィー……」
それ以上の言葉はいらないとばかりに、二人は情熱的にその日も遅くまで愛し合った。
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