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10 夫の突然の暴挙(ヴィクトリア視点)
しおりを挟む「ヴィクトリア、紹介するよ。彼女を私の妃として娶ることにした」
(……この人はいったい誰かしら?)
ヴィクトリアは愛する夫からの突然の宣言に混乱しながらも――――心の片隅でどこか冷静にそう思った。
夫にピタリと張り付いている女性の頭には小さなウサギの耳。
今回の外交に同行した夫の側近から国に残っているヴィクトリアの元へ急ぎ連絡があり、それがまさにこの件についてだった。側近からの事前連絡が無かったら、ヴィクトリアは夫からの言葉に衝撃を受けて、この場で倒れていたかもしれない。
ヴィクトリアは心の中で優秀な側近に感謝した。
側近から事前に得た情報によると、彼女はウサギ獣人と人間とのハーフであるらしい。
目の前で寄り添う二人はまさに仲の良い恋人同士――に見える。
(おかしいわね。国を出立したときはまともだったのに。いったいロイは……ううん、今は名前を呼ぶのも嫌だわ)
とりあえず本人からの事情確認が優先だと判断し、ヴィクトリアはあくまでも冷静に、ロイエへ質問を投げかける。
「何をおっしゃっているのか分かりませんわ。陛下の妻はこの私の筈ですが」
「もちろん皇后は政略結婚相手でもある君だ。しかし、皇帝である私には皇后の他に皇妃を娶る権利が認められている」
政略結婚相手――とロイエが言ったところで、夫の隣にいるウサギ耳の女性が口を歪めてクスリと嗤った。女性がしなだれかかるとロイエは口元を緩め嬉しそうに女性を見る。視線を絡ませる様子はどこからどう見ても一線を越えた恋人同士のソレだ。
ロイエは女性からヴィクトリアへのあからさまな嘲笑に気付きもしない。それどころか今にもウサギ耳の女性を抱き上げ、寝室に連れ込みそうな勢いだ。
(本当に、本当にこの人は私の夫なの? 外交先で、外見だけよく似た誰かと入れ替わったのではないかしら?)
その方が自然だと思えるくらい、目の前のロイエの顔をした男は出発前と雰囲気が変わっていた。今のロイエからは知性の欠片も感じられない。
ヴィクトリアは一つため息を吐くと、変わってしまった夫の代わりに頭を働かせ、どこか浮足立った夫を冷静に諫める。
「それは、皇后である私が妻の役目を果たせなかった場合ですわ。あらかじめ定められている五十年という期限内に、皇后との間に跡継ぎが誕生しなかった場合のみ許されている特例にすぎません。しかも、定められた期限は三十年以上も先。陛下がどうしてもと言われるのであれば、その方は愛妾となされては」
「お前は、皇帝たる私の番を日陰の身に置けと言うのか!!!」
番――と聞いてヴィクトリアの心に一瞬動揺が走るが、既に一連のやり取りで心は冷えているし、同行した側近から事前にその旨の報告も受けている。今のは夫本人の口からそれを再確認できたに過ぎない。
むしろ、報告書の方が簡潔で解りやすいくらいだった。
どうやら事実関係に間違いはないようだ。
ならば、ヴィクトリアがとるべき行動は決まっている。
「……でしたら、私を離縁なさればよろしいかと。そうすればその方を新たな皇后としてお迎えすることが出来ますわ」
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