【完結】それは本当に私でしたか? 番がいる幸せな生活に魅了された皇帝は喪われた愛に身を焦がす

堀 和三盆

文字の大きさ
18 / 88

18 番の策略と皇后の矜持(ヴィクトリア視点)

しおりを挟む

 食事に毒を盛られた。

 ハンカチで口元を拭うふりをして飲み込めなかったそれをそっと吐き出し、ヴィクトリアは気分が悪いと言って席を立つ。

 早く……早く口を漱がなければ。


「ううっ……せっかく作ったのに。皇后サマのお口には合わなかったみたいですぅ…」

「おい、失礼だぞ。ヴィク…リア。わざわざ…………が作ってくれ…のに」


 焦りと怒りで、耳が良く聞こえない。ヴィクトリアは本当に具合が悪くなってきた。
 早く席を離れたいのに状況がそれを許さない。


「貴女……が、わざわざお作りになったの?」

「ハイッ! 皇后サマの元気がないのようなのでぇ。前の職場で働けなくなったお姉さま方が少しでも早く仕事に復帰するためにぃ、よく口にしていたお料理を再現しましたぁ♡ ……でもぉ……やっぱり高貴な方のお口には合わなかったみたい……うう…っ、ひっく。うえぇ~ん」

「ヴィクトリアッ!! ほとんど手を付けないで失礼じゃないかっ!」

「いいの、ロイ……。わたしが馬鹿だったのよ。いくら皇后サマのお体が心配だったとはいえ、彼女とは生まれも育ちも違うのに。あんなに食事を残すなんて、貧乏なわたしには贅沢すぎてまぁ~ったく想像もつかないけどぉ――彼女のような高貴なお貴族様にはきっとそれが当たり前の日常なのよ…ね……ううっ」

「ヴィクトリアッ!!!!」


 皇帝が今にもヴィクトリアに掴みかかりそうな勢いで立ち上がるが、しゃくりを上げる女が慌ててそれに縋りつく。

 貴族や皇族。高位の者になればなるほど毒の教育を受けている。料理を目にしたら気付かれるかも――それを警戒したのだろう、とヴィクトリアは判断する。


 早くこの場を辞したい。飲み込まなかったから平気だとは思うが、一刻も早く、口の中に残るその痕跡を消したい。


 気力を振り絞り、ヴィクトリアは二人にニッコリと微笑んだ。


「ありがとう、一口だけだけどとても元気が出たわ。昨晩も眠れなかったけれど、貴女のお陰で今なら横になって眠れそう……せっかくだから、先に失礼させていただいても?」


 ああ、一口は食べたんだ――と、ロイエに縋りついた女がこっそりと嗤う。もちろん、ヴィクトリアにはよく見えてロイエには見えない絶妙な角度で。


 料理を見せようが毒が入っていると言おうが、今の夫にはどうせ通じない。こうなった以上、少しでも被害を減らすためにヴィクトリアが自衛するしかない――。


 この時点でヴィクトリアは早々に枯れ果てていた愛だけでなく、夫に対する全てを見限った。もはや夫に対してはどんな種類の希望も抱かない。


「もういい目障りだ。食堂から出て行け、ヴィクトリア」

「はい、皇帝陛下。……ご寵妃さま。御前失礼いたします」




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】2番目の番とどうぞお幸せに〜聖女は竜人に溺愛される〜

雨香
恋愛
美しく優しい狼獣人の彼に自分とは違うもう一人の番が現れる。 彼と同じ獣人である彼女は、自ら身を引くと言う。 自ら身を引くと言ってくれた2番目の番に心を砕く狼の彼。 「辛い選択をさせてしまった彼女の最後の願いを叶えてやりたい。彼女は、私との思い出が欲しいそうだ」 異世界に召喚されて狼獣人の番になった主人公の溺愛逆ハーレム風話です。 異世界激甘溺愛ばなしをお楽しみいただければ。

幼馴染を溺愛する旦那様の前からは、もう消えてあげることにします

睡蓮
恋愛
「旦那様、もう幼馴染だけを愛されればいいじゃありませんか。私はいらない存在らしいので、静かにいなくなってあげます」

逃した番は他国に嫁ぐ

基本二度寝
恋愛
「番が現れたら、婚約を解消してほしい」 婚約者との茶会。 和やかな会話が落ち着いた所で、改まって座を正した王太子ヴェロージオは婚約者の公爵令嬢グリシアにそう願った。 獣人の血が交じるこの国で、番というものの存在の大きさは誰しも理解している。 だから、グリシアも頷いた。 「はい。わかりました。お互いどちらかが番と出会えたら円満に婚約解消をしましょう!」 グリシアに答えに満足したはずなのだが、ヴェロージオの心に沸き上がる感情。 こちらの希望を受け入れられたはずのに…、何故か、もやっとした気持ちになった。

幸せな番が微笑みながら願うこと

矢野りと
恋愛
偉大な竜王に待望の番が見つかったのは10年前のこと。 まだ幼かった番は王宮で真綿に包まれるように大切にされ、成人になる16歳の時に竜王と婚姻を結ぶことが決まっていた。幸せな未来は確定されていたはずだった…。 だが獣人の要素が薄い番の扱いを周りは間違えてしまう。…それは大切に想うがあまりのすれ違いだった。 竜王の番の心は少しづつ追いつめられ蝕まれていく。 ※設定はゆるいです。

立派な王太子妃~妃の幸せは誰が考えるのか~

矢野りと
恋愛
ある日王太子妃は夫である王太子の不貞の現場を目撃してしまう。愛している夫の裏切りに傷つきながらも、やり直したいと周りに助言を求めるが‥‥。 隠れて不貞を続ける夫を見続けていくうちに壊れていく妻。 周りが気づいた時は何もかも手遅れだった…。 ※設定はゆるいです。

忌むべき番

藍田ひびき
恋愛
「メルヴィ・ハハリ。お前との婚姻は無効とし、国外追放に処す。その忌まわしい姿を、二度と俺に見せるな」 メルヴィはザブァヒワ皇国の皇太子ヴァルラムの番だと告げられ、強引に彼の後宮へ入れられた。しかしヴァルラムは他の妃のもとへ通うばかり。さらに、真の番が見つかったからとメルヴィへ追放を言い渡す。 彼は知らなかった。それこそがメルヴィの望みだということを――。 ※ 8/4 誤字修正しました。 ※ なろうにも投稿しています。

旦那様に愛されなかった滑稽な妻です。

アズやっこ
恋愛
私は旦那様を愛していました。 今日は三年目の結婚記念日。帰らない旦那様をそれでも待ち続けました。 私は旦那様を愛していました。それでも旦那様は私を愛してくれないのですね。 これはお別れではありません。役目が終わったので交代するだけです。役立たずの妻で申し訳ありませんでした。

彼女にも愛する人がいた

まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。 「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」 そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。 餓死だと? この王宮で?  彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。 俺の背中を嫌な汗が流れた。 では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…? そんな馬鹿な…。信じられなかった。 だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。 「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。 彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。 俺はその報告に愕然とした。

処理中です...