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18 番の策略と皇后の矜持(ヴィクトリア視点)
しおりを挟む食事に毒を盛られた。
ハンカチで口元を拭うふりをして飲み込めなかったそれをそっと吐き出し、ヴィクトリアは気分が悪いと言って席を立つ。
早く……早く口を漱がなければ。
「ううっ……せっかく作ったのに。皇后サマのお口には合わなかったみたいですぅ…」
「おい、失礼だぞ。ヴィク…リア。わざわざ…………が作ってくれ…のに」
焦りと怒りで、耳が良く聞こえない。ヴィクトリアは本当に具合が悪くなってきた。
早く席を離れたいのに状況がそれを許さない。
「貴女……が、わざわざお作りになったの?」
「ハイッ! 皇后サマの元気がないのようなのでぇ。前の職場で働けなくなったお姉さま方が少しでも早く仕事に復帰するためにぃ、よく口にしていたお料理を再現しましたぁ♡ ……でもぉ……やっぱり高貴な方のお口には合わなかったみたい……うう…っ、ひっく。うえぇ~ん」
「ヴィクトリアッ!! ほとんど手を付けないで失礼じゃないかっ!」
「いいの、ロイ……。わたしが馬鹿だったのよ。いくら皇后サマのお体が心配だったとはいえ、彼女とは生まれも育ちも違うのに。あんなに食事を残すなんて、貧乏なわたしには贅沢すぎてまぁ~ったく想像もつかないけどぉ――彼女のような高貴なお貴族様にはきっとそれが当たり前の日常なのよ…ね……ううっ」
「ヴィクトリアッ!!!!」
皇帝が今にもヴィクトリアに掴みかかりそうな勢いで立ち上がるが、しゃくりを上げる女が慌ててそれに縋りつく。
貴族や皇族。高位の者になればなるほど毒の教育を受けている。料理を目にしたら気付かれるかも――それを警戒したのだろう、とヴィクトリアは判断する。
早くこの場を辞したい。飲み込まなかったから平気だとは思うが、一刻も早く、口の中に残るその痕跡を消したい。
気力を振り絞り、ヴィクトリアは二人にニッコリと微笑んだ。
「ありがとう、一口だけだけどとても元気が出たわ。昨晩も眠れなかったけれど、貴女のお陰で今なら横になって眠れそう……せっかくだから、先に失礼させていただいても?」
ああ、一口は食べたんだ――と、ロイエに縋りついた女がこっそりと嗤う。もちろん、ヴィクトリアにはよく見えてロイエには見えない絶妙な角度で。
料理を見せようが毒が入っていると言おうが、今の夫にはどうせ通じない。こうなった以上、少しでも被害を減らすためにヴィクトリアが自衛するしかない――。
この時点でヴィクトリアは早々に枯れ果てていた愛だけでなく、夫に対する全てを見限った。もはや夫に対してはどんな種類の希望も抱かない。
「もういい目障りだ。食堂から出て行け、ヴィクトリア」
「はい、皇帝陛下。……ご寵妃さま。御前失礼いたします」
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