【完結】それは本当に私でしたか? 番がいる幸せな生活に魅了された皇帝は喪われた愛に身を焦がす

堀 和三盆

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40 崩壊へのカウントダウン

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「……っ…ふー…、…はー……」

 無慈悲にドアが閉じられた途端。

 ロイエは緊張から自分が息を止めていたことに気付き、静かに呼吸を整えた。

 そして、肺に入ってくる酸素と共に、止まっていたロイエの思考が目まぐるしく動き出す。


 既に過去の罪を許され何度も愛をかわしてきたというのに、ヴィクトリアは何故、今更このタイミングであんなことを言うのか。

 ……ああ、いや違う。公務日程は最初から決まっていた。


 あんな顔してロイエを責め立てて……。

 ……違う、別に責めてはいない。愛する妻は当然のことを言い、いつも通りに笑ってくれていた――。

 そう、ただただ、ロイエが今更どうしようもない罪悪感から苦しめられているだけなのだ。


 だったら、妻なら、夫であるロイエを苦しませるようなことは避けるべきではないか? 自分は充分反省はしたのだから――。

 違う。自分は許されないことをした、責めてはいけない。責められている、違う、責めてはいない。



 反省している不満なんてない、違う違う違う―――!!



「――――くそっ!!!」


 ドンッ!!!!!!


「……陛下? どうかなさいましたか?」

「……っ! ぁ…いや、違う……んだ。ヴィクトリア。その、変な虫――がいて。起こしてしまって申し訳ない」

「まあ! 刺されていたら大変だわ。お医者様をお呼びしましょうか?」


 つい興奮して力任せに壁を叩いてしまった。


 そんなロイエに対しドア越しにかけられる優しい声。
 心からロイエを心配している妻の声。

 聞き慣れたその声に混乱していたロイエは落ち着きを取り戻す。


「あ……いや、大丈夫だ。刺されていないから。悪い虫は退治したから――大丈夫。騒がせて済まない。お休み、ヴィクトリア――」

「はい。お休みなさいませ、陛下…」


 そうだ。悪い虫に騙されただけ。ロイエは悪くない。ヴィクトリアも、愛する家族もちゃんとわかってくれている。何も心配することはない、大丈夫――。


 もう、悪い虫はどこにもいなくなったのだから。


 閨事がないならこれ以上夫婦の寝室にとどまっている理由はない。自らの部屋へと続くドアを開けて、ロイエは自室へと戻る。


 カチャ、バタン――。


 誰も居ない夫婦の寝室に響いたドアの音にかき消されて。

 ヴィクトリアが自室のドアに寄りかかりながら、ふと漏らしたつぶやきがロイエに届くことはない。


「……もう、そろそろ限界かしら――ね」




※※※※※※※

 一人自室の冷たいベッドに横になりながらロイエは考える。


 裏切ったのはロイエだ。傷つけたのもロイエ。
 ヴィクトリアは何も悪くない。

 けれどヴィクトリアはそんなロイエを許してくれたし子供だって授けてくれた。


 ――そう、拒絶されたわけじゃない。


 今日は偶々だ。ヴィクトリアも言っていたではないか。
 公務があるから都合が悪かっただけ――。


 自分自身にそう言い聞かせてロイエは目を閉じる。



 明日の公務が終わればきっと――。
 愛しい妻の温もりを思い描きながらロイエは眠る。



 けれど――。



 翌日も翌々日も翌月も。
 ――――翌年も。

 ヴィクトリアがロイエと枕を共にすることはなかった。





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