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63 番の祝福(ヴィクトリア視点)
しおりを挟む島に来た当初。
愛する伴侶を喪ったラフィネの落ち込みようは凄まじく『番であればもっと長く一緒に居られたのに』と呟いているのを聞いた時、ヴィクトリアは驚いた。
番に惑い家族を裏切った父親を軽蔑し、『番』に対し嫌悪感を抱いていた娘の口からそんな言葉が出るなんて――――と。
けれど、ヴィクトリアは娘から語られる人間の夫との短くも愛情深い思い出話を聞いているうちに、女神様から与えられる『番の祝福』とは本来こういうものなのかもしれない――と思うようになった。
娘と人間であるその夫は『運命の番』ではなかったが、もしも二人が番であれば、番った時点で相手の寿命は延びて、竜人である娘と同じ時間を生きることが出来る。
寿命の長い竜人。
愛する者といつまでも共にありたい――愛する者同士のそんな切実な願いを女神様が聞き届けて下さったのが『番』の祝福なのではないか――と。
一年程ヴィクトリア達と共にこの美しい島で過ごしたラフィネは『夫の墓参りがしたいから』と帰って行った。
『短くはあったけど、私は生涯あの人に愛されたし、私もそんなあの人を支えながら全力で愛したわ。全ての面倒を私が看たの。その一つ一つが大切な思い出よ。たとえ年老いて彼の姿形が変わっても、最期の瞬間まで私はあの人のことを愛し抜いたのだもの!』
そんな風に胸を張って、笑顔で島を後にする娘の姿をヴィクトリアは眩しく思った。
「…それで、ラフィネの手紙にはなんて?」
「それは『秘密にしてくれ』と言われたので内緒です。……でも、ラフィネ様はもう大丈夫ですよ。周囲を気遣う余裕が出てきたようですから。相変わらずシュタルク様は縁談から逃げ回っているみたいですけれどね」
「……そう」
――残念ながら。シュタルクの方はまだそんな風に心動かされるようなお相手とは出会えておらず、相変わらずエクセランの補佐に心血を注いでいるらしい。
長男として生まれ、その後弟に産まれ直しても、小さな弟を守り切れなかったことを気に病み続けていた責任感の強いシュタルク。彼は皇帝となったエクセランを支えていく道を選んだらしい。
結婚だけがすべてではないし、仕事に生きる人生も素晴らしいと思う。
けれど、もしヴィクトリアとロイエのせいで受けた心の傷が原因だとすれば――――同じ痛みを持つエクセランやラフィネが心を許せる相手を見つけたように、いつかあの子にもそんな相手が現れてくれればいいのに――と、ヴィクトリアは切に願う。
あの子が毛嫌いしているロイエやその番のように、愛する相手と結ばれるために邪魔な物を排除し、燃やし尽くすような激しい思いじゃなくていいから。
お互いを尊重できるような、優しく穏やかな幸せを育めるような相手と出会えれば――――。
そんなことを考えていたら。
突然、胸のあたりにふわりとくすぐったいような感覚がして、ヴィクトリアはその場所に優しく触れた。
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