83 / 88
番外編
4 プロポーズ(ヴィクトリア視点)
しおりを挟む
「ただいま! 遅くなって申し訳ない」
思っていたよりもボロボロで――思っていたよりも元気そうなズィーガーの姿を見て、ヴィクトリアは目を見開いた。
剣はかろうじて持っているものの、付いていた装飾は無くなっている。光物が好きな魔物もいるらしいから奪われたのかもしれない。
上着はどこかに置いてきたようで、下に着ていたシャツの胸元からは火傷の痕とともに、立派な竜鱗がチラチラと姿をのぞかせている。……まさかこんな形でソレを確認することになろうとは。
本来、人に見せるようなものではないのだが、ヴィクトリアとしては夫さえ無事に戻ってくれればそこはどうでもいい。
それに、人間の島民にとってはさして気になるほどの物でもないようだ。文化の違いと言えよう。
そんなことよりも。
異様に感じるのは――。
「ああ、『コレ』か。海の底に貝の魔物が居たんだ。邪竜を討伐したのはいいものの、邪竜の魔力に引き寄せられてきた大型の魔物に海の中へと引きずり込まれてしまって、そのときに海底で大きな貝の魔物を見つけたんだ。そのまま放置するわけにもいかないから、引きずり込んだヤツとついでにソレを倒したら、中にコレが入っていたんだよ。君にあげようと思って採取したのはいいけれど、戦っているうちに船とはぐれてしまってね。島の方向も解らないし持ったままは泳げないから、とりあえず魔力で保護して海底に戻し、私は魔法で身体を浮かせながら泳いで救助を待っていた」
それを聞いて、呆れるやら嬉しいやら――とにかくホッとして、よく分からない感情でヴィクトリアは泣いた。
どうやら。この島で暮らすようになって魔物の討伐をしているうちに、ズィーガーはこのような事態も想定して島民に泳ぎを教わっていたらしい。
それを知っているからこそ、島民は諦めることなく捜索に協力してくれていた。ズィーガーが持つ底なしの体力は彼らも大いに知るところだったので。
「貴方が泳げるって教えてくれていれば……どうして私に教えてくれなかったの?」
「いや、そのソレは――あまりに貴族らしくないので黙っていたのです。ヴィ……。……リア様に嫌われてしまうのではないかと心配で」
しゅん……と、ヴィクトリアの質問に答えた途端に大人しくなる夫。
以前と比べ口調は大分砕けてきたが、ふとした拍子にズィーガーは元の丁寧な言葉遣いに戻ってしまう。
大抵が、ヴィクトリアから自分への愛情に自信のない時だ。
――そんな風に思う必要どこにもないというのに。
泳げることを知っていれば、安心こそすれ嫌いになどなるはずがない、
大体、心配で堪らないのはヴィクトリアの方なのだ。
ヴィクトリアは自分の命よりも大切な存在を理不尽に奪われる絶望を知っている。
彼のお陰でどうにか取り戻すことは出来たけれど、あんな思いは二度としたくない。
「そんなことで嫌いになったりしないわよ。そんなことよりも、私は貴方が泳げないと思っていたから――ずっと心配…で…不安で。……貴方にもしものことがあったら、私――は……ッ」
「……リア様。いいえ、リア」
ヴィクトリアが必死に感情を押さえていると、突然、ズィーガーがその場で跪いた。
「救助を待っている間――私はずっと、貴女のことだけを考えていました。このまま、もし思いを告げられないまま最期を迎えてしまったら後悔すると、それだけを考えて。――だから」
男らしいズィーガーの瞳が真っすぐにヴィクトリアを射抜く。叩き上げの騎士であるズィーガーは元々貴族らしくはなかったが、島で暮らすようになって彼はどんどん精悍さを増していった。すっかり見慣れた日焼けした姿も良く似合う。
そして、引き締まった逞しい肉体で恭しく捧げたのは――巨大な真珠。占い師が使う水晶玉のようなソレは、彼が討伐ついでに命懸けで持ち帰ってきたものだ。
「リア、どうか私と結婚してください。そして、本当の夫婦になりましょう」
「……はい…………!」
指輪じゃないそれはずっしりと、とんでもなく重かった。皇后として帝国で何事もなく暮らしていたら、あまりの重さに持てなかったかもしれない。
こんな重い物を持ち帰ろうとして、救助が遅れたらどうするのか。
言いたいことや不満はたくさんあるけれど――。夫から贈られるズシリと重いソレは番の願いを叶えるためだけに自ら竜鱗を焼き、200年以上もの間、白い結婚を貫いてきた夫からヴィクトリアへの愛情の証のように思われて。
夫からの重たいそれをヴィクトリアはしっかりと受け取った。
――絶対に手放すものかと覚悟を決めて、
思っていたよりもボロボロで――思っていたよりも元気そうなズィーガーの姿を見て、ヴィクトリアは目を見開いた。
剣はかろうじて持っているものの、付いていた装飾は無くなっている。光物が好きな魔物もいるらしいから奪われたのかもしれない。
上着はどこかに置いてきたようで、下に着ていたシャツの胸元からは火傷の痕とともに、立派な竜鱗がチラチラと姿をのぞかせている。……まさかこんな形でソレを確認することになろうとは。
本来、人に見せるようなものではないのだが、ヴィクトリアとしては夫さえ無事に戻ってくれればそこはどうでもいい。
それに、人間の島民にとってはさして気になるほどの物でもないようだ。文化の違いと言えよう。
そんなことよりも。
異様に感じるのは――。
「ああ、『コレ』か。海の底に貝の魔物が居たんだ。邪竜を討伐したのはいいものの、邪竜の魔力に引き寄せられてきた大型の魔物に海の中へと引きずり込まれてしまって、そのときに海底で大きな貝の魔物を見つけたんだ。そのまま放置するわけにもいかないから、引きずり込んだヤツとついでにソレを倒したら、中にコレが入っていたんだよ。君にあげようと思って採取したのはいいけれど、戦っているうちに船とはぐれてしまってね。島の方向も解らないし持ったままは泳げないから、とりあえず魔力で保護して海底に戻し、私は魔法で身体を浮かせながら泳いで救助を待っていた」
それを聞いて、呆れるやら嬉しいやら――とにかくホッとして、よく分からない感情でヴィクトリアは泣いた。
どうやら。この島で暮らすようになって魔物の討伐をしているうちに、ズィーガーはこのような事態も想定して島民に泳ぎを教わっていたらしい。
それを知っているからこそ、島民は諦めることなく捜索に協力してくれていた。ズィーガーが持つ底なしの体力は彼らも大いに知るところだったので。
「貴方が泳げるって教えてくれていれば……どうして私に教えてくれなかったの?」
「いや、そのソレは――あまりに貴族らしくないので黙っていたのです。ヴィ……。……リア様に嫌われてしまうのではないかと心配で」
しゅん……と、ヴィクトリアの質問に答えた途端に大人しくなる夫。
以前と比べ口調は大分砕けてきたが、ふとした拍子にズィーガーは元の丁寧な言葉遣いに戻ってしまう。
大抵が、ヴィクトリアから自分への愛情に自信のない時だ。
――そんな風に思う必要どこにもないというのに。
泳げることを知っていれば、安心こそすれ嫌いになどなるはずがない、
大体、心配で堪らないのはヴィクトリアの方なのだ。
ヴィクトリアは自分の命よりも大切な存在を理不尽に奪われる絶望を知っている。
彼のお陰でどうにか取り戻すことは出来たけれど、あんな思いは二度としたくない。
「そんなことで嫌いになったりしないわよ。そんなことよりも、私は貴方が泳げないと思っていたから――ずっと心配…で…不安で。……貴方にもしものことがあったら、私――は……ッ」
「……リア様。いいえ、リア」
ヴィクトリアが必死に感情を押さえていると、突然、ズィーガーがその場で跪いた。
「救助を待っている間――私はずっと、貴女のことだけを考えていました。このまま、もし思いを告げられないまま最期を迎えてしまったら後悔すると、それだけを考えて。――だから」
男らしいズィーガーの瞳が真っすぐにヴィクトリアを射抜く。叩き上げの騎士であるズィーガーは元々貴族らしくはなかったが、島で暮らすようになって彼はどんどん精悍さを増していった。すっかり見慣れた日焼けした姿も良く似合う。
そして、引き締まった逞しい肉体で恭しく捧げたのは――巨大な真珠。占い師が使う水晶玉のようなソレは、彼が討伐ついでに命懸けで持ち帰ってきたものだ。
「リア、どうか私と結婚してください。そして、本当の夫婦になりましょう」
「……はい…………!」
指輪じゃないそれはずっしりと、とんでもなく重かった。皇后として帝国で何事もなく暮らしていたら、あまりの重さに持てなかったかもしれない。
こんな重い物を持ち帰ろうとして、救助が遅れたらどうするのか。
言いたいことや不満はたくさんあるけれど――。夫から贈られるズシリと重いソレは番の願いを叶えるためだけに自ら竜鱗を焼き、200年以上もの間、白い結婚を貫いてきた夫からヴィクトリアへの愛情の証のように思われて。
夫からの重たいそれをヴィクトリアはしっかりと受け取った。
――絶対に手放すものかと覚悟を決めて、
171
あなたにおすすめの小説
【完結】2番目の番とどうぞお幸せに〜聖女は竜人に溺愛される〜
雨香
恋愛
美しく優しい狼獣人の彼に自分とは違うもう一人の番が現れる。
彼と同じ獣人である彼女は、自ら身を引くと言う。
自ら身を引くと言ってくれた2番目の番に心を砕く狼の彼。
「辛い選択をさせてしまった彼女の最後の願いを叶えてやりたい。彼女は、私との思い出が欲しいそうだ」
異世界に召喚されて狼獣人の番になった主人公の溺愛逆ハーレム風話です。
異世界激甘溺愛ばなしをお楽しみいただければ。
逃した番は他国に嫁ぐ
基本二度寝
恋愛
「番が現れたら、婚約を解消してほしい」
婚約者との茶会。
和やかな会話が落ち着いた所で、改まって座を正した王太子ヴェロージオは婚約者の公爵令嬢グリシアにそう願った。
獣人の血が交じるこの国で、番というものの存在の大きさは誰しも理解している。
だから、グリシアも頷いた。
「はい。わかりました。お互いどちらかが番と出会えたら円満に婚約解消をしましょう!」
グリシアに答えに満足したはずなのだが、ヴェロージオの心に沸き上がる感情。
こちらの希望を受け入れられたはずのに…、何故か、もやっとした気持ちになった。
幸せな番が微笑みながら願うこと
矢野りと
恋愛
偉大な竜王に待望の番が見つかったのは10年前のこと。
まだ幼かった番は王宮で真綿に包まれるように大切にされ、成人になる16歳の時に竜王と婚姻を結ぶことが決まっていた。幸せな未来は確定されていたはずだった…。
だが獣人の要素が薄い番の扱いを周りは間違えてしまう。…それは大切に想うがあまりのすれ違いだった。
竜王の番の心は少しづつ追いつめられ蝕まれていく。
※設定はゆるいです。
立派な王太子妃~妃の幸せは誰が考えるのか~
矢野りと
恋愛
ある日王太子妃は夫である王太子の不貞の現場を目撃してしまう。愛している夫の裏切りに傷つきながらも、やり直したいと周りに助言を求めるが‥‥。
隠れて不貞を続ける夫を見続けていくうちに壊れていく妻。
周りが気づいた時は何もかも手遅れだった…。
※設定はゆるいです。
忌むべき番
藍田ひびき
恋愛
「メルヴィ・ハハリ。お前との婚姻は無効とし、国外追放に処す。その忌まわしい姿を、二度と俺に見せるな」
メルヴィはザブァヒワ皇国の皇太子ヴァルラムの番だと告げられ、強引に彼の後宮へ入れられた。しかしヴァルラムは他の妃のもとへ通うばかり。さらに、真の番が見つかったからとメルヴィへ追放を言い渡す。
彼は知らなかった。それこそがメルヴィの望みだということを――。
※ 8/4 誤字修正しました。
※ なろうにも投稿しています。
旦那様に愛されなかった滑稽な妻です。
アズやっこ
恋愛
私は旦那様を愛していました。
今日は三年目の結婚記念日。帰らない旦那様をそれでも待ち続けました。
私は旦那様を愛していました。それでも旦那様は私を愛してくれないのですね。
これはお別れではありません。役目が終わったので交代するだけです。役立たずの妻で申し訳ありませんでした。
彼女にも愛する人がいた
まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。
「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」
そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。
餓死だと? この王宮で?
彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。
俺の背中を嫌な汗が流れた。
では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…?
そんな馬鹿な…。信じられなかった。
だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。
「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。
彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。
俺はその報告に愕然とした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる