【完結】私の番には飼い主がいる

堀 和三盆

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8 番絶ちして見つけたもの

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 私は知らなかったのだが、番絶ちをする上で、代替する香りを使用することはあるそうだ。実は――と頬を染めながらグレイは自身の番絶ちの際に、私が彼に贈ったハンカチを利用したことを話してくれた。

 それはグレイの番が見つかった時に、お祝いとして贈った物だった。見せてもらった絵姿を参考に、彼と、彼の番に二人を刺繍したハンカチを贈っていた。お金がないからと、二人の幸せを願って心を込めて用意したモノだったけれど。まさか、まだとっていたなんて。

 グレイは自分の番が見つかるまでは私に惹かれていたらしい。しかし、ヴァイスとのことがあるので思いを伝えることはなかったそうだ。


「その後、自分の番に出会って、彼女を心から愛していたのは本当だよ。とても優しい、素晴らしい人だったんだ。だから今でも愛した気持ちは変わらない。生きていて欲しかったし、ちゃんと番いたかった。僕が彼女を忘れることはない。でも、彼女が与えてくれた未来を、誰かと共に大切に生きたいとも思っている。そして、もし許されるのならそれは君がいい」

「私も――彼への愛は消えたけど、過去に愛した思いが消えたわけではないわ。辛いことも多かったけれど、ヴァイスは心優しい人だったもの。前世の飼い主への感謝を忘れないくらい、義理堅い人だった。自分が壊れてもいいから、彼と彼の飼い主の未来を守りたかった思いに嘘はない。でも――番絶ちをしていて思ったわ。私も、この先を共に生きるなら、痛みに寄り添い支えてくれた貴方がいい」


 私はグレイと共に人生を歩むことにした。決して激しいものではないけれど、お互いを思い合って、穏やかな愛を育んでいきたい――。そう思えたから。

 意中の人が出来たことで、私の番絶ちは一年弱で終わることが出来た。グレイは三年ほどかかったというから、もしかして自分は情が薄いのでは……と悩んだりもしたが、施設の人が言うには、彼と実際に番っていなかったのが良い方向へ働いたらしい。

 長い婚約生活だったとはいえ彼とは清い関係だった。しかも、後半は徐々に番絶ちをしていたような状態――だったそうだ。正常な番ならば決してあり得ないことだという。

 でも――それを聞いてももう、心が動くことはない。確かに苦しい思いはしたけれど、お互い、新たな人生を歩むためにむしろ良かったのではないかと思う。

 今ではそのことに感謝すらしている。


 番絶ちの支援施設を出る際はグレイが迎えに来てくれた。住む場所も用意してくれた。実家から遠くもなく、近くもない場所。過去を考えると丁度いい。

 でも。二人で暮らし始める前に、私はグレイに伝えなくてはいけないことがある。言わなくてもいい事ではあるけれど、番の飼い主に振り回されて、全てを失うことになった私だからこそしっかりと伝えなくてはいけないことだ。

 他の人と比べて短かったとはいえ、身を切られるような痛みと喪失感に耐えた番絶ちの中で――私は遠い過去を思い出していた。

 苦しい時。つらい時。寄り添ってくれた今世のグレイのように。前世で私を助けてくれた人がいる。

 そう――私にも飼い主がいたのだ。




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