8 / 20
8 番絶ちして見つけたもの
しおりを挟む
私は知らなかったのだが、番絶ちをする上で、代替する香りを使用することはあるそうだ。実は――と頬を染めながらグレイは自身の番絶ちの際に、私が彼に贈ったハンカチを利用したことを話してくれた。
それはグレイの番が見つかった時に、お祝いとして贈った物だった。見せてもらった絵姿を参考に、彼と、彼の番に二人を刺繍したハンカチを贈っていた。お金がないからと、二人の幸せを願って心を込めて用意したモノだったけれど。まさか、まだとっていたなんて。
グレイは自分の番が見つかるまでは私に惹かれていたらしい。しかし、ヴァイスとのことがあるので思いを伝えることはなかったそうだ。
「その後、自分の番に出会って、彼女を心から愛していたのは本当だよ。とても優しい、素晴らしい人だったんだ。だから今でも愛した気持ちは変わらない。生きていて欲しかったし、ちゃんと番いたかった。僕が彼女を忘れることはない。でも、彼女が与えてくれた未来を、誰かと共に大切に生きたいとも思っている。そして、もし許されるのならそれは君がいい」
「私も――彼への愛は消えたけど、過去に愛した思いが消えたわけではないわ。辛いことも多かったけれど、ヴァイスは心優しい人だったもの。前世の飼い主への感謝を忘れないくらい、義理堅い人だった。自分が壊れてもいいから、彼と彼の飼い主の未来を守りたかった思いに嘘はない。でも――番絶ちをしていて思ったわ。私も、この先を共に生きるなら、痛みに寄り添い支えてくれた貴方がいい」
私はグレイと共に人生を歩むことにした。決して激しいものではないけれど、お互いを思い合って、穏やかな愛を育んでいきたい――。そう思えたから。
意中の人が出来たことで、私の番絶ちは一年弱で終わることが出来た。グレイは三年ほどかかったというから、もしかして自分は情が薄いのでは……と悩んだりもしたが、施設の人が言うには、彼と実際に番っていなかったのが良い方向へ働いたらしい。
長い婚約生活だったとはいえ彼とは清い関係だった。しかも、後半は徐々に番絶ちをしていたような状態――だったそうだ。正常な番ならば決してあり得ないことだという。
でも――それを聞いてももう、心が動くことはない。確かに苦しい思いはしたけれど、お互い、新たな人生を歩むためにむしろ良かったのではないかと思う。
今ではそのことに感謝すらしている。
番絶ちの支援施設を出る際はグレイが迎えに来てくれた。住む場所も用意してくれた。実家から遠くもなく、近くもない場所。過去を考えると丁度いい。
でも。二人で暮らし始める前に、私はグレイに伝えなくてはいけないことがある。言わなくてもいい事ではあるけれど、番の飼い主に振り回されて、全てを失うことになった私だからこそしっかりと伝えなくてはいけないことだ。
他の人と比べて短かったとはいえ、身を切られるような痛みと喪失感に耐えた番絶ちの中で――私は遠い過去を思い出していた。
苦しい時。つらい時。寄り添ってくれた今世のグレイのように。前世で私を助けてくれた人がいる。
そう――私にも飼い主がいたのだ。
それはグレイの番が見つかった時に、お祝いとして贈った物だった。見せてもらった絵姿を参考に、彼と、彼の番に二人を刺繍したハンカチを贈っていた。お金がないからと、二人の幸せを願って心を込めて用意したモノだったけれど。まさか、まだとっていたなんて。
グレイは自分の番が見つかるまでは私に惹かれていたらしい。しかし、ヴァイスとのことがあるので思いを伝えることはなかったそうだ。
「その後、自分の番に出会って、彼女を心から愛していたのは本当だよ。とても優しい、素晴らしい人だったんだ。だから今でも愛した気持ちは変わらない。生きていて欲しかったし、ちゃんと番いたかった。僕が彼女を忘れることはない。でも、彼女が与えてくれた未来を、誰かと共に大切に生きたいとも思っている。そして、もし許されるのならそれは君がいい」
「私も――彼への愛は消えたけど、過去に愛した思いが消えたわけではないわ。辛いことも多かったけれど、ヴァイスは心優しい人だったもの。前世の飼い主への感謝を忘れないくらい、義理堅い人だった。自分が壊れてもいいから、彼と彼の飼い主の未来を守りたかった思いに嘘はない。でも――番絶ちをしていて思ったわ。私も、この先を共に生きるなら、痛みに寄り添い支えてくれた貴方がいい」
私はグレイと共に人生を歩むことにした。決して激しいものではないけれど、お互いを思い合って、穏やかな愛を育んでいきたい――。そう思えたから。
意中の人が出来たことで、私の番絶ちは一年弱で終わることが出来た。グレイは三年ほどかかったというから、もしかして自分は情が薄いのでは……と悩んだりもしたが、施設の人が言うには、彼と実際に番っていなかったのが良い方向へ働いたらしい。
長い婚約生活だったとはいえ彼とは清い関係だった。しかも、後半は徐々に番絶ちをしていたような状態――だったそうだ。正常な番ならば決してあり得ないことだという。
でも――それを聞いてももう、心が動くことはない。確かに苦しい思いはしたけれど、お互い、新たな人生を歩むためにむしろ良かったのではないかと思う。
今ではそのことに感謝すらしている。
番絶ちの支援施設を出る際はグレイが迎えに来てくれた。住む場所も用意してくれた。実家から遠くもなく、近くもない場所。過去を考えると丁度いい。
でも。二人で暮らし始める前に、私はグレイに伝えなくてはいけないことがある。言わなくてもいい事ではあるけれど、番の飼い主に振り回されて、全てを失うことになった私だからこそしっかりと伝えなくてはいけないことだ。
他の人と比べて短かったとはいえ、身を切られるような痛みと喪失感に耐えた番絶ちの中で――私は遠い過去を思い出していた。
苦しい時。つらい時。寄り添ってくれた今世のグレイのように。前世で私を助けてくれた人がいる。
そう――私にも飼い主がいたのだ。
208
あなたにおすすめの小説
【完結】そう、番だったら別れなさい
堀 和三盆
恋愛
ラシーヌは狼獣人でライフェ侯爵家の一人娘。番である両親に憧れていて、番との婚姻を完全に諦めるまでは異性との交際は控えようと思っていた。
しかし、ある日を境に母親から異性との交際をしつこく勧められるようになり、仕方なく幼馴染で猫獣人のファンゲンに恋人のふりを頼むことに。彼の方にも事情があり、お互いの利害が一致したことから二人の嘘の交際が始まった。
そして二人が成長すると、なんと偽の恋人役を頼んだ幼馴染のファンゲンから番の気配を感じるようになり、幼馴染が大好きだったラシーヌは大喜び。早速母親に、
『お付き合いしている幼馴染のファンゲンが私の番かもしれない』――と報告するのだが。
「そう、番だったら別れなさい」
母親からの返答はラシーヌには受け入れ難いものだった。
お母様どうして!?
何で運命の番と別れなくてはいけないの!?
番から逃げる事にしました
みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。
前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。
彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。
❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。
❋独自設定有りです。
❋他視点の話もあります。
❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。
前世で私を嫌っていた番の彼が何故か迫って来ます!
ハルン
恋愛
私には前世の記憶がある。
前世では犬の獣人だった私。
私の番は幼馴染の人間だった。自身の番が愛おしくて仕方なかった。しかし、人間の彼には獣人の番への感情が理解出来ず嫌われていた。それでも諦めずに彼に好きだと告げる日々。
そんな時、とある出来事で命を落とした私。
彼に会えなくなるのは悲しいがこれでもう彼に迷惑をかけなくて済む…。そう思いながら私の人生は幕を閉じた……筈だった。
『完結』番に捧げる愛の詩
灰銀猫
恋愛
番至上主義の獣人ラヴィと、無残に終わった初恋を引きずる人族のルジェク。
ルジェクを番と認識し、日々愛を乞うラヴィに、ルジェクの答えは常に「否」だった。
そんなルジェクはある日、血を吐き倒れてしまう。
番を失えば狂死か衰弱死する運命の獣人の少女と、余命僅かな人族の、短い恋のお話。
以前書いた物で完結済み、3万文字未満の短編です。
ハッピーエンドではありませんので、苦手な方はお控えください。
これまでの作風とは違います。
他サイトでも掲載しています。
忌むべき番
藍田ひびき
恋愛
「メルヴィ・ハハリ。お前との婚姻は無効とし、国外追放に処す。その忌まわしい姿を、二度と俺に見せるな」
メルヴィはザブァヒワ皇国の皇太子ヴァルラムの番だと告げられ、強引に彼の後宮へ入れられた。しかしヴァルラムは他の妃のもとへ通うばかり。さらに、真の番が見つかったからとメルヴィへ追放を言い渡す。
彼は知らなかった。それこそがメルヴィの望みだということを――。
※ 8/4 誤字修正しました。
※ なろうにも投稿しています。
【完結】2番目の番とどうぞお幸せに〜聖女は竜人に溺愛される〜
雨香
恋愛
美しく優しい狼獣人の彼に自分とは違うもう一人の番が現れる。
彼と同じ獣人である彼女は、自ら身を引くと言う。
自ら身を引くと言ってくれた2番目の番に心を砕く狼の彼。
「辛い選択をさせてしまった彼女の最後の願いを叶えてやりたい。彼女は、私との思い出が欲しいそうだ」
異世界に召喚されて狼獣人の番になった主人公の溺愛逆ハーレム風話です。
異世界激甘溺愛ばなしをお楽しみいただければ。
【書籍化決定】憂鬱なお茶会〜殿下、お茶会を止めて番探しをされては?え?義務?彼女は自分が殿下の番であることを知らない。溺愛まであと半年〜
降魔 鬼灯
恋愛
コミカライズ化決定しました。
ユリアンナは王太子ルードヴィッヒの婚約者。
幼い頃は仲良しの2人だったのに、最近では全く会話がない。
月一度の砂時計で時間を計られた義務の様なお茶会もルードヴィッヒはこちらを睨みつけるだけで、なんの会話もない。
お茶会が終わったあとに義務的に届く手紙や花束。義務的に届くドレスやアクセサリー。
しまいには「ずっと番と一緒にいたい」なんて言葉も聞いてしまって。
よし分かった、もう無理、婚約破棄しよう!
誤解から婚約破棄を申し出て自制していた番を怒らせ、執着溺愛のブーメランを食らうユリアンナの運命は?
全十話。一日2回更新
7月31日完結予定
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる