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14 消えた番(ヴァイス視点)
しおりを挟む俺は近所を必死になって探した。そこで、ハタと気づく。そうだ。彼女は再び働きだしていた。家に閉じこもっていると俺に会えないことで飼い主へ不満を抱きそうだからと――そう言われ、渋々ながら許可をしたんだ。
優しい王女様はそんな彼女と俺が少しでも会えるようにと、わざわざ恋人のフリをしてまで彼女の職場に連れて行ってくれた。
最初のうちはそれで会えていたけれど、タイミングが悪いのかまったく会えなくなってしまった。
王女様はその店を気に入ったようで、頻繁に連れて行ってくれたからその度に期待して周囲を見回していたけれど、一度も会えなかった。王女様が辺境伯様と出会ってからはそれすら無くなった。
今日は彼女――愛する番を驚かすために突然連絡もなしに帰ったから、行き違いに出勤をしてしまったに違いない。そう思い、俺はフルールの職場を訪ねたが会えなかった。それどころかフルールは店を辞めていた。
「そんな……転職したってことですか? 今はどこで働いているのでしょうか?」
「……番が知らないものを、ただの元雇い主が知る訳がないだろう。悪いが昼の仕込みがあるから帰ってくれ」
シッシと追い出されるように店を出た。心なしか、店主の口調や態度が冷たい気がする。
居心地が悪いまま、フルールに手渡すつもりで持ってきた花束を抱えて、再び家へと戻ると人影が見えた。
フルールではない。家を覗き込むようにして立っている。怪しい動きだ。もしかして、フルールは何らかの事件に巻き込まれてしまったのではないだろうか。
「おい!!!!」
「にゃうっ!?」
ビクビクしながら振り向いたのはまだ子供の、女の猫獣人だ。そのことに少しだけほっとしながらも、警戒を緩めない。まだ、俺は彼女の無事な姿を見ていないのだ。
「お前は誰だ。人の家を覗き込んで何をしている。フルールとはどういう関係だ」
「! よ…良かった。フルールさんのお宅ですよね。私は洗濯業者です。週に一回、洗濯物の回収を頼まれているのですが、いつもは玄関先にある荷物が今日は見当たらなくて困っていたんです」
「ああ……そういえば、王宮から毎週洗い物を配送業者に頼んで家に送ってたな。フルールも洗濯は業者に頼んでいたのか」
王宮の部屋を引き払うことが決まっていたので、今週は洗い物を荷物と一緒に送ったのだ。荷物が家に着くのは午後になるだろう。
「今週はいい。と、いうか勤務形態が変わったからもう頼まないかもしれない」
「えっ。あ、あの。フルールさんからはウチの店に二年契約で頼まれてて、前払いで預かっているんですが……それは……」
「あ? ああ、そうだったのか。じゃあ、契約が切れるまでは利用するよ。そうだな、しばらくは二人でゆっくり過ごしたいし。丁度いいかもしれない。とりあえず、今日はいいから」
「そうですか! ありがとうございます。まいどー」
洗濯業者が帰り、王宮からの荷物も届いたが、フルールは帰ってこない。とりあえず何か食べようとキッチンに行くが、食材が何一つ置いていなかった。そこで、ようやく異常に気が付いた。
家の中はキレイだが、人の住んでいる気配がない。嫌な予感がしてフルールの部屋へと行けば、キレイに片付けられていた。荷物も、匂いも何もない。
何かがおかしい。慌てて馬車へと飛び乗り実家へと帰った。
しかめっ面の両親に出迎えられ、怒鳴られた。そこでようやく事態に気が付いた。
――既に、婚約解消から一年以上が過ぎていた。
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