17 / 20
17 飼い主に捨てられた俺(ヴァイス視点)
しおりを挟む「困るわよ。うちの人、過去の人間関係には口出ししないけど、嫉妬深い人だから、過去に色々言われていた貴方に来られるとまずいの。獣人の番に対する愛情は有名だから別段怪しんではいないけど、破局したなんて知られたら疑われるかもしれないから余計なことは言わないで。あっちでお仕事は用意してあげたでしょう? あげた家も返さないでいいから、大事になる前に帰って頂戴。もうっ。こうならないように住む家をあげたのに」
……王女様の反応は俺の想像とは違っていた。予想していた慰めの言葉はなく、ただただ困らせてしまったようだ。
俺の存在は王女様にとっては迷惑でしかないらしい。
大丈夫よ、話せばわかってもらえるわ。番は番で結婚するのが一番よ。運命の番なんでしょう。彼女の為にも辺境の地になんて来ていてはダメ。王都で待っていれば、そのうち戻って来てくれるわよ。だから……ね? 貴方の為にも番ちゃんの為にも用意してあげた家へと戻った方がいいわ。
――番の為と言いつつ、自分の生活を守ろうと必死になる王女様に、信じられないモノを感じるのと同時に既視感を抱いた。
それで思い出した。
前世、俺を助けてくれた飼い主だった彼女。何度も失恋し、行き遅れそうになっていたところ、少し年上のそれまでとはタイプの違う男性と恋に落ち、飼い主は幸せそうに旅立って行った。
――――俺を残して。
「ごめんね。彼、アレルギーがあるから貴方のことは連れて行けないの。でも、ちゃんと飼ってくれる人を探したわ。お友達が引き取ってくれるから大丈夫よ。シロも元気でね」
輝くような笑顔で。好きな男性の元へと旅立って行った彼女。
ああ、なんだ。前世も、ちゃんと彼女は幸せになっていたんだ。飼い主にとっては、俺の存在だけが邪魔だった。
――――今世も同じ。
おそらくは、ショックでそのことを忘れていたのだろう。まるきり前世をなぞっているような状況に笑えてくる。
飼い主からすれば、余計なことを言われるのは困るのだろう。俺が予定通り番と幸せな婚姻をし、王都で暮らしていくのが飼い主にとっては一番都合が良かった。
だから、親切にも家と仕事を世話してくれたのだ。俺をしっかりと、辺境とは離れた遠い場所へと繋いでおけるように。
その後、挨拶に来た辺境伯様には番と上手くいっていないことは言わなかった。新婚旅行のついでに立ち寄ったことにした。番に会いたいと言われたが、他の異性に見せたくないからと断ったのでバレてはいない。
挨拶をしたかっただけだからと早々に立ち去ると、王女様はあからさまにホッとしていた。
王都に戻った俺は飼い主が番と俺の為に与えてくれた家へ住み、番と俺の為に用意してくれた騎士団の仕事に就いた。小さいながらも平和な国だ。空っぽな心でも問題なく仕事はできた。
安定した、穏やかな日々。そこに、いるはずだった番だけがいない。無気力に時間だけが過ぎていく。
そして。
十年近くがたった頃。消えた俺の番――フルールの情報が手に入った。
どうやら、彼女は領主様のお屋敷で暮らしているらしい。既に子供がいるそうだ。そして――驚いたことに領主様は彼女の飼い主らしい。
俺と同じように、俺の番にも飼い主がいたようだ。そのことに、僅かばかりの期待が産まれる。
同じ飼い主持ち同士。今なら説明すれば俺の気持ちを理解してくれるのではないか――と。
231
あなたにおすすめの小説
【完結】そう、番だったら別れなさい
堀 和三盆
恋愛
ラシーヌは狼獣人でライフェ侯爵家の一人娘。番である両親に憧れていて、番との婚姻を完全に諦めるまでは異性との交際は控えようと思っていた。
しかし、ある日を境に母親から異性との交際をしつこく勧められるようになり、仕方なく幼馴染で猫獣人のファンゲンに恋人のふりを頼むことに。彼の方にも事情があり、お互いの利害が一致したことから二人の嘘の交際が始まった。
そして二人が成長すると、なんと偽の恋人役を頼んだ幼馴染のファンゲンから番の気配を感じるようになり、幼馴染が大好きだったラシーヌは大喜び。早速母親に、
『お付き合いしている幼馴染のファンゲンが私の番かもしれない』――と報告するのだが。
「そう、番だったら別れなさい」
母親からの返答はラシーヌには受け入れ難いものだった。
お母様どうして!?
何で運命の番と別れなくてはいけないの!?
番から逃げる事にしました
みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。
前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。
彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。
❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。
❋独自設定有りです。
❋他視点の話もあります。
❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。
前世で私を嫌っていた番の彼が何故か迫って来ます!
ハルン
恋愛
私には前世の記憶がある。
前世では犬の獣人だった私。
私の番は幼馴染の人間だった。自身の番が愛おしくて仕方なかった。しかし、人間の彼には獣人の番への感情が理解出来ず嫌われていた。それでも諦めずに彼に好きだと告げる日々。
そんな時、とある出来事で命を落とした私。
彼に会えなくなるのは悲しいがこれでもう彼に迷惑をかけなくて済む…。そう思いながら私の人生は幕を閉じた……筈だった。
『完結』番に捧げる愛の詩
灰銀猫
恋愛
番至上主義の獣人ラヴィと、無残に終わった初恋を引きずる人族のルジェク。
ルジェクを番と認識し、日々愛を乞うラヴィに、ルジェクの答えは常に「否」だった。
そんなルジェクはある日、血を吐き倒れてしまう。
番を失えば狂死か衰弱死する運命の獣人の少女と、余命僅かな人族の、短い恋のお話。
以前書いた物で完結済み、3万文字未満の短編です。
ハッピーエンドではありませんので、苦手な方はお控えください。
これまでの作風とは違います。
他サイトでも掲載しています。
忌むべき番
藍田ひびき
恋愛
「メルヴィ・ハハリ。お前との婚姻は無効とし、国外追放に処す。その忌まわしい姿を、二度と俺に見せるな」
メルヴィはザブァヒワ皇国の皇太子ヴァルラムの番だと告げられ、強引に彼の後宮へ入れられた。しかしヴァルラムは他の妃のもとへ通うばかり。さらに、真の番が見つかったからとメルヴィへ追放を言い渡す。
彼は知らなかった。それこそがメルヴィの望みだということを――。
※ 8/4 誤字修正しました。
※ なろうにも投稿しています。
【完結】2番目の番とどうぞお幸せに〜聖女は竜人に溺愛される〜
雨香
恋愛
美しく優しい狼獣人の彼に自分とは違うもう一人の番が現れる。
彼と同じ獣人である彼女は、自ら身を引くと言う。
自ら身を引くと言ってくれた2番目の番に心を砕く狼の彼。
「辛い選択をさせてしまった彼女の最後の願いを叶えてやりたい。彼女は、私との思い出が欲しいそうだ」
異世界に召喚されて狼獣人の番になった主人公の溺愛逆ハーレム風話です。
異世界激甘溺愛ばなしをお楽しみいただければ。
【書籍化決定】憂鬱なお茶会〜殿下、お茶会を止めて番探しをされては?え?義務?彼女は自分が殿下の番であることを知らない。溺愛まであと半年〜
降魔 鬼灯
恋愛
コミカライズ化決定しました。
ユリアンナは王太子ルードヴィッヒの婚約者。
幼い頃は仲良しの2人だったのに、最近では全く会話がない。
月一度の砂時計で時間を計られた義務の様なお茶会もルードヴィッヒはこちらを睨みつけるだけで、なんの会話もない。
お茶会が終わったあとに義務的に届く手紙や花束。義務的に届くドレスやアクセサリー。
しまいには「ずっと番と一緒にいたい」なんて言葉も聞いてしまって。
よし分かった、もう無理、婚約破棄しよう!
誤解から婚約破棄を申し出て自制していた番を怒らせ、執着溺愛のブーメランを食らうユリアンナの運命は?
全十話。一日2回更新
7月31日完結予定
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる