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1 ドアマット夫人
しおりを挟むその美しい人はいつもボロボロのドレスを身にまとっていた。
誰もが美しく着飾るのが当然の夜会の中では、どうしてもみすぼらしい格好をした彼女は悪目立ちをしてしまう。そこら中から彼女に対し興味本位の視線を向けられていて、煌びやかなドレスを着た令嬢たちからは酷い言葉を浴びせられていた。
「まあ、ご覧になって。またいらしているわ」
「あの格好でよく恥ずかしげもなく人前に顔を出せたものねぇ。わたくしだったら耐えられないわ」
「あら、不格好な縫い目が見えて……なんて惨めな」
「殿方からダンスに誘われないからって、コソコソとお食事をなさっているわ」
「仕方ありませんわ。あんな骸骨みたいなお身体ですもの。この機会に詰め込んで帰られるのよ。お家での扱いがよく分かるわね」
「ああはなりたくないわ」
「ええ、本当に」
クスクスクス……
クスクスクス……
会場中から浴びせられる嘲笑。不躾な視線。
一部、彼女に対し同情の目を向けている者もいるが、義憤に駆られて助けるでもなく「お可哀想に……」と言いながら、微笑みを浮かべて遠巻きに見ているだけ。
あれでは悪意をばらまく連中と何一つ変わらない、
紳士たれと教育されているはずの男性陣ですら、まるで彼女を己の意識の中から除外するように、いないものとして扱っているのだ。婚活や社交を目的とする彼らからすれば、宝石やフリルで豪華に着飾った令嬢たち以外は目に入らないのだろう。
夫に放置されている彼女はいつだって孤立無援だ。
けれど、そんな屈辱的な状況にあっても彼女は微笑みを浮かべていた。自分には恥ずべきことなどないとばかりに、背筋を伸ばし、胸を張って、堂々と。
――夜会の度に披露される新たなボロボロのドレスを身に纏いながら。
高価な宝石に飾られた美女よりも。
流行の最先端にある令嬢たちよりも。
異性からの熱い視線を一身に集める夜会の華よりも。
人々の嘲笑の中で、凛として立つその人のことが誰よりも美しいと思った。
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