【完結】有能外交官はドアマット夫人の笑顔を守りたい

堀 和三盆

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 第三王女の婚約者から外交官へ――

 突然の進路変更ではあったけれど、意外にもデュナミスのこの決断を王家が後押ししてくれた。

 これはデュナミスの能力を高く評価したというよりも、『いくら婚約を白紙にしたとはいえ、他国の王族を迎えるにあたって、かつての婚約者が王女の周りをウロチョロしているのはいかがなものか』という政治的な思惑が働いたためだろう。

 その結果、祖国からとんでもなく離れた獣人が治める国へと送られてしまったが、一から始めるのなら場所はどこだろうが関係ないし、中途半端に自身の過去を知る者がいない分、気楽とも言えた。

 幸い、次期公爵として受けてきた高度な教育の成果で言語については自信があった。そして、周辺の地理や政治についても頭に入っている。

 赴任先とは隣国となる『竜人国』は特殊な国だ。
 竜人と人間とでは寿命がかけ離れているせいで文化面での違いが大きく、その分旅行先として人気があるものの、一定の条件をクリアしなければ外交官としての滞在許可は得られない。

 その点、赴任先は竜人国ほど受け入れ条件が厳しくなく、それでいて竜人国の影響を強く受けているため、外交官としての経験を積むには理想的な環境といえる。

 そんな風に考えてデュナミスは現地に溶け込もうと必死に頑張ってきたが、そもそもの種族が違うせいか、やはり文化的な隔たりは大きかった。

 獣人は力を欲する傾向が強いから、女神様の祝福を得るために運命の番に固執するのはなんとなく理解できるのだが――その一方で、番の犠牲になる者へのこの非情なまでの無関心さはなんなのか。

 やせ細り、見るからに蔑ろにされているパルフォア・アルテサーノ伯爵夫人。

 情報提供者によると、夫のアルテサーノ伯爵は妻を迎えたばかりらしい。

 だとすれば、新婚早々運命の番が見つかって放置されているか、運命の番を第二の妻として迎え入れたばかりで、長年連れ添った伯爵夫人を蔑ろにしているか、のどちらかだ。

 いずれにせよ、残酷なことに変わりはない。

 デュナミスも実際に目にして驚いたが、獣人男性の運命の番への愛情の示し方は凄まじいものがある。彼らは爵位に関係なく、時間と金を惜しみなく使って、これでもかというほど自らの伴侶を飾り立てるのだ。

 竜人の血を引く彼らは美しい容姿をしているが、番として女神様の祝福を受けた夫婦からは神々しさすら感じてしまう。獣人は本能的にそれが分かっているからこそ、運命の番に心惹かれてしまうのかもしれない。

 しかし、獣人にとって運命の番と結ばれることが最大の幸福なのだとすれば、邪魔者扱いされながら間近でそれを見せつけられる伯爵夫人の心労はどれほどのものなのか。
 それを思うと胸が痛んで仕方がない。

 デュナミスは一介の外交官だ。本来ならば他国のことに口出しできる立場にはない。

 だけど、つらい経験をした者として、理不尽に人生を歪められる苦しみは痛いほど理解できるし、この国には祖国から政略として嫁いできた人間女性だっているのだ。いつ、彼女たちが伯爵夫人のような酷い目に遭うか分からない。

 だとすれば、前もって経験者の話を聞いておくのもいいのではないか。
 それが将来的に祖国の利益にもつながるかもしれないし、何よりデュナミスは一人の人間として、あのような状態にある女性をこのまま放置なんてできない。

 獣人たちが彼女を無視するのならば、人間の自分が手を差し伸べよう。運命の番に囚われることのない人間だからこそ、できることもあるはずだ。


 そう決意したデュナミスはこの日、思い切って行動を起こすことにした。




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