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4 デュナミスの過去
しおりを挟むデュナミス・グローは人間国で伯爵家の嫡男として生まれた。
生家が管理する伯爵領にはこれといった産業があるわけではないが広大な農地を有しており、先祖代々、王国の食糧庫として堅実な領地運営を続けていた。
政略結婚ではあったものの両親はとても仲が良く、下に弟や妹も次々に生まれて、賑やかな家庭にはいつも笑顔があふれていた。
デュナミスはそんなグロー伯爵家での暮らしに満足していたし、尊敬する父の跡を継いで、両親のような堅実で温かい家庭を築くのが夢だった。
けれど、王城でのお茶会で第三王女に見初められたことからデュナミスの運命は大きく変わった。外堀が生められる形であっという間に二人の婚約が整えられて、デュナミスは将来的に第三王女と結婚して、新たに興される公爵家の当主を任されることになったのだ。
第三王女は国王から溺愛されていて、いくら本人の希望とはいえ、降嫁するのが平凡な伯爵家では問題があると判断されたらしい。
周囲からは上手くやっただの何だのと言われたが、デュナミス自身はこの決定に納得がいかなかった。
どうして伯爵家ではいけないのか。
ならば、なぜ嫡男の自分を選んだのか。
生まれ育った伯爵家に誇りを持っていたデュナミスからすれば、王家からのこの扱いは自分の愛する家族や代々大切に守ってきた領地を蔑ろにされているように感じたからだ。
それでも貴族として国王の命令は絶対だ。たとえ思うところがあったとしても、不満など口にできる立場にない。
それに、たとえどんな経緯があったとしても、縁あって婚約した以上は王女との間に良い関係を築きたかった。
実際に公爵領を賜るのは学園を卒業してからになるが、伯爵家と公爵家では必要になる知識が違うために、これまでデュナミスが学んできたことはあまり役に立たない。
大変ではあるが婚約者のためにも一から頑張ろうと学園では王女の婚約者に相応しい成績を維持しつつ、王城に通って公爵家当主としての教育も受けていたのだが、卒業を前に突然婚約を白紙に戻されてしまった。
婚約者だった第三王女が留学先の隣国で王子と恋仲になったことが原因だった。
公爵家当主としての教育はほぼ終わっていたが、デュナミスに与えられるはずだった公爵領は隣国の王子が第三王女に婿入りする形で治めて行くことが王命で決まった。
国王としてはパッとしない伯爵家との縁組にはもともと反対だったようで、国を挙げてこの縁談を後押ししたのだ。
突然デュナミスの進むべき道が消えてしまい、さりとて今更、元の道にも戻れない。王女と婚約する段階で、グロー伯爵家の後継は弟に変更されていたからだ。
家族思いの弟は自ら身を引こうとするだろうが、弟は既に伯爵家後継としての教育を終えているし、領民との顔つなぎも済んでいる。
一度デュナミスから弟へ跡継ぎを変更している以上、あまり頻繁に上が代わるのは領民としても不安だろう。
それに何より――自分が望まない形で二度も進むべき道を捻じ曲げられてしまった以上、自身がその原因となるのだけは絶対に嫌だった。
そこでなるべく周囲への影響が出ないようにと国外で働く道を選び、外交官としての初めての赴任先が竜人国からほど近いこの国だったのだ。
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