【完結】有能外交官はドアマット夫人の笑顔を守りたい

堀 和三盆

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6 ドアマット夫人との接触

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 伯爵夫人のことが心配で夜会に参加するたびに目で追っていたから、彼女の行動はだいたい把握している。

 夫と共に会場入りした伯爵夫人はダンスを踊ることなく壁際にたった一人で放置されていて、その間に伯爵は周囲にいる女性たちとの会話に花を咲かせるのが常だった。
 その中でもひと際美しく飾り立てられた女性といつも一緒にいることから、彼女がアルテサーノ伯爵の運命の番なのかもしれない。

 そんな夫の様子を見ているのがつらいのだろう。彼らの会話が盛り上がってくると伯爵夫人は壁際からそっと離れて、料理が並べられているテーブルの方へと移動するのだ。

 この日の彼女もいつもとまったく同じ行動をとっていた。


「初めまして、パルフォア・アルテサーノ伯爵夫人。私はデュナミス・グローと申します。少しお話を伺ってもよろしいでしょうか?」

「……っ!?? けほけほ……っ」

「だ、大丈夫ですか!? 君、こちらのご婦人に何か飲み物を頼む!」

「は、はい! ただいまお持ちいたします」


 デュナミスが急に話しかけたせいで、食事が変なところに入ってしまったらしい。伯爵夫人は苦しそうに咳き込んでいる。

 手を貸したいが、不用意に女性に手を触れるわけにもいかない。なので、近くにいた給仕に声をかけて、飲み物を持ってきてもらう。

 正直、自分で取ってきた方が手っ取り早いのだが、こちらが一方的に彼女を知っているだけで、相手からすればデュナミスは赤の他人だ。ましてや、この国の人間ですらないのは容姿からも明らかだ。

 そんな相手から渡された飲み物は警戒して口にできないだろう、そう考えてのことだった。


「お待たせいたしました、こちら果実水です」

「……ありがとう」


 給仕の持ってきた飲み物を少し躊躇しながらも受け取って、喉を潤す伯爵夫人。給仕から渡された飲み物すら警戒していたから、デュナミスのこの判断は正しかったようだ。

 こういった場所での飲食を警戒するのは貴族ならば当然だし、特に嫌な感じはしない。むしろ、しっかりとした教育を受けている女性だということが行動からも見て取れる。

 伯爵夫人はハンカチで口元を拭って呼吸を整えると、姿勢を正してデュナミスに向き合った。


「失礼いたしました。普段こうした場で話しかけられることがほとんどないものですから、驚いてしまって。ええと、貴方は……?」

「いえ、こちらこそ、急なお声がけを失礼いたしました。改めてご挨拶をさせてください。私は人間国から参りました外交官のデュナミス・グローと申します。その、実はまだこちらの生活に慣れていなくて、色々と勝手が分からず……こちらの国では、随分と大量の料理が並ぶのですね。それが気になりまして……」


 いくつものテーブルが連なる飲食コーナーを指し示してそう尋ねるデュナミス。国内外を問わず元婚約者と共に様々なパーティーに出席してきたが、ここまで飲食スペースを広く取っているのを見たことがない。

 急に本題を切り出して警戒されないようにと当たり障りのない話題を選んだが、一応これも気になっていたことの一つではある。ただ、自分の中での優先順位がそれほど高くないというだけで。

 デュナミスの言葉に納得がいったのか、伯爵夫人が朗らかな笑顔を見せる。


「そうでしたのね。人間国から……それでは色々とお困りなことがおありでしょう。わたくしの祖母が人間国の出身で、よく同じようなことを言っておりましたから」




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