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9 楽しい時間
しおりを挟む実際、彼女との会話はすごく楽しかった。
生活・文化・教育、農業から庶民の暮らしに至るまで――
彼女の興味は多種多様で、第三王女と婚約するまで父親にくっついて領民の暮らしを事細かに見て回っていたデュナミスですら、答えに窮することも多かった。
王女の婚約者として相応しくないと国から否定された伯爵家での暮らしだが、貴族でありながら裏庭でこっそりと野菜を育てて食べていると言う彼女ならば、案外楽しく暮らしていけるのではないか――そんなことまで思ってしまう。
けれど……
「パルフォア! おい、パルフォア、いったいどこにいるんだ!?」
彼女とのそんな楽しい時間はいつもあっという間に終わってしまう。
ずっと放置している癖に、夫のアルテサーノ伯爵は妻の自由な行動を認めず、彼女を自らの支配下に置きたがるのだ。たとえどんなに会話が弾んでいても、そうなると彼女はすぐに話を切り上げて夫のもとへと戻っていってしまう。
デュナミスの胸が痛むのは、そんな酷い扱いを受けていても、彼女が笑顔を浮かべているからだ。
骨が浮き出るほどやせ細り。
今にも破けそうなボロボロのドレスを着て。
それを指に針を刺しながら自ら繕って。
それでも彼女は夫から名前を呼ばれたことに喜び、見えないしっぽをブンブンと振り回すように伯爵のもとへと走って行く。
聞いたところによると、元々彼らは仲の良い婚約者同士だったらしい。婚約者の色を使った高価なドレスや宝石を山のように贈られて、彼女は婚約者としてとても大事にされていたそうだ。
今の姿からは想像もつかないが、伯爵夫人の中ではその頃の幸せな思い出が今も色濃く残っているのだろうか。だから、こんな虐待まがいの酷い扱いを受けてなお、伯爵への愛情を持ち続けているのだろうか。
だとすれば――それほどまでに深い愛情を歪めてしまう『運命の番』とは、なんて恐ろしい存在なのだろう?
運命の番だけに全ての愛情を捧げておきながら、それを見せつけるように自ら虐げている伯爵夫人を傍に置く。
一見矛盾とも思える伯爵の行動が、デュナミスにはまったく理解できなかった。
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