【完結】有能外交官はドアマット夫人の笑顔を守りたい

堀 和三盆

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10 姿を消した伯爵夫人

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 身勝手な伯爵への怒りか、一方的に人生を踏みにじられる者への同情か。デュナミスは自身の気持ちがよく分からぬままに、伯爵夫人とのささやかな交流を続けていた。

 夫婦関係が破綻しているとはいえ、相手は既婚者だ。外交官として国を代表している以上、この国で妙な問題を起こすわけにはいかない。
 だから周囲から誤解を受けないように、距離感については最大限気を付けた。

 それでも、たとえ夜会の間の僅かな時間でもいいから、悪意を向けられる友人の心の支えになることができれば――そんな風に思っていたのだ。

 けれど――


「――貴様、いったいどういうつもりだ。獣人の妻に手を出すのだから、当然、八つ裂きにされる覚悟はできているのだろうな?」

「旦那様、誤解です! この方とはそういった関係では……」

「黙れ! お前はこの男を庇う気か!」

「これはこれは……ヴィグルー・アルテサーノ伯爵でいらっしゃいますね。ご挨拶が遅れてしまって申し訳ございません。私は人間国から参りました、外交官のデュナミス・グローと申します。どうやら、何か誤解があるようですね。実は、恥ずかしながら私はまだこちらの国での生活に慣れておらず、人間国にも造詣の深い伯爵夫人から両国の文化の違いについて色々とご教授いただいておりまして……」

「貴様と話す気はない! パルフォア、今日はもう帰るぞ! 罰として、しばらくの間外出を制限する!!」


 いつもの談笑中にアルテサーノ伯爵に見つかったことで、伯爵夫人との穏やかな交流は突如として終わりを告げた。彼女は夫に引き摺られるようにして会場から姿を消して、それ以降、公の場で見かけることはなくなった。

 その間もアルテサーノ伯爵は夜会に出席しており、彼のすぐ隣には美しく着飾ったいつもの女性がいた。周囲にいる獣人は彼らを責めるでもなく、微笑ましそうに眺めている。誰も、消えた伯爵夫人のことは気に懸けない。

 それほどまでに、この国にとって運命の番は重要なのだろうか。一人の女性の人生を犠牲にしてまで、祝福すべきことなのだろうか。


 消えてしまった伯爵夫人の安否が気になるが、デュナミスが直接連絡を取るわけにもいかない。その上、社交の場で情報を集めようにも彼女の話題になると皆が口を閉ざしてしまうのだ。唯一分かったのは、お茶会にも出席していないということだけだった。


 それから半年ほどが経ち、ようやく公の場へと姿を現した伯爵夫人を見てデュナミスは愕然とした。以前と比べて多少ドレスはマシになっているものの、頬はこけて、今にも倒れそうなほどにガリガリに痩せていたのだ。

 とてもじゃないが、直視できるような状態じゃなかった。




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