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11 祖国から逃げ出した外交官は囚われたドアマット夫人を助けたい
しおりを挟むいったいどうしたのか。
姿を見せない間に何があったのか。
彼女に事情を聞きたいが、ここでデュナミスが話しかけたりしたら、再び夫によってこの場から連れ去られてしまうかもしれない。
伯爵夫人がそんな酷い状態にもかかわらず、伯爵は妻を放置して着飾った女性を隣に置いている。そして、放置された伯爵夫人は以前のように、彼らの会話が盛り上がったところで壁際からそっと離れて、食事が並べられたテーブルの方へと向かうのだ。
それを見て、いつかの夜会で聞いた陰口がデュナミスの脳裏に蘇る。
『殿方からダンスに誘われないからって、コソコソとお食事をなさっているわ』
『仕方ありませんわ。あんな骸骨みたいなお身体ですもの。この機会に詰め込んで帰られるのよ。お家での扱いがよく分かるわね』
ああ、そうか。
取るに足らない陰口の中にも無視できない真実が潜んでいたのだ。伯爵夫人はああやって夜会会場で、夫に気付かれないように食事を摂ることでどうにか生き抜いてきたのだ。
それなのに、その貴重な食事の機会をデュナミスのせいで失わせてしまった。だから彼女は必要な栄養を摂ることができずに、あのような無残な姿になったのだ。
こうして遠くからでも食事をしている姿を見ると安心するが、あまりジロジロ見ていると彼女の夫に気付かれて食事を邪魔されるかもしれない。
ずっと心配していた。再び会えて嬉しい。
まさか、大切な友人にそんな言葉一つかけることができないなんて。
久々に人前に出てきた伯爵夫人の姿に周りは興味津々だ。嘲るような言葉と共に、不躾な視線が彼女に容赦なく突き刺さる。
そんな痛々しい姿が、かつての自分と重なった。
『聞いたか? アイツ、婚約破棄されたんだってよ』
『え? 破棄じゃなくて白紙だろ?』
『みんな知っているんだから、どっちだって一緒だって! 今更、実家も継げねーだろうし、未来の公爵様から一気に平民堕ちもあり得るな』
『うわぁ、将来有望だったのにカワイソー』
『王女の元婚約者とか、扱い困るわ。下手に仲良くして王家から睨まれたくないし、俺らもアイツとの付き合いを考えないとな』
『伯爵家の分際で調子に乗るからだよ。やれやれ、色男は大変だねぇ』
謂れのない嘲笑。
増殖する悪意
どこまでも続く周囲との壁。
――理不尽に失われていく自分自身の価値。
そのすべてが煩わしくて自分は国を飛び出したけれど、法で縛られた伯爵夫人にはどこにも逃げ場がないのだ。運命の番に追い落とされてしまった惨めな妻として、尊厳を奪われながら身勝手な夫のもとで生きるしかない。
だから、彼女はああやって一人で戦っているのだろうか。
今にも倒れそうな華奢な体で。
足を踏ん張り、胸を張って、前を向いて。
その姿は痛々しくて――だけど、初めて会った時から揺らぐことのない特別な美しさを持っていて。
自分は一介の外交官だ。どんなに疑問に思っても、相手国のルールを曲げることはできない。
だけど――
息苦しさに耐えかねて国から逃げ出した者として。
そうやって逃げ出した先に、自分が想像もしていなかったような別の価値観を持つ広い世界があることを知った者として。
今なお囚われている彼女ために、何かできることがあるのではないか。
――そんな風に思った。
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