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15 伯爵への直談判
しおりを挟む「これ以上、弱っていく伯爵夫人の姿を黙って見ていられません。彼女のことは私が責任をもって幸せにいたします。ですからどうか、離婚に同意をしていただけないでしょうか?」
「俺がパルフォアを蔑ろにしていると言いたいのか? ハッ、下らん。確かに至らぬ点はあるかもしれないが、これでも妻にはできる限りのことをしているつもりだ。変にコソコソせず、堂々と屋敷を訪ねてきた気概を認めてとりあえず話だけは聞いてやったが、時間の無駄だったようだな。話がそれだけならお帰りいただこう」
離婚を認めてもらうには夫側の同意が必要不可欠だ。
前例を参考にしながらデュナミスの出自や財政状態を証明する書類を携えて伯爵家を訪れたものの、感触は良くなかった。門前払いをされるようなことはなかったが、話を聞くだけ聞いて、すぐさま追い出されそうになっている。
夜会では常に運命の番を優先させていたことから、すんなりと離婚に応じてもらえるのでは……と思っていたが、そう上手くはいかないようだ。
それは、この部屋に通されたときから察していた。
結婚式の様子だろうか。
応接室の壁には美しい衣装を着て、仲睦まじく寄り添う伯爵夫妻の絵がでかでかと飾られていた。
二人の笑顔には一点の陰りもない。
思い合っている様子が見て取れるし、幸せそのものの光景だ。これを見る限り、疑いようもなく彼の愛は本物だったのだろう。
――少なくとも、結婚式のこの時点では。
「……伯爵が、奥様を大事にされていたのはお聞きしています。周囲が羨むほどの、仲睦まじい婚約者同士であったとか」
「ああ、そうだ。時間も金も惜しんだことはない。俺は自分の全てをかけてパルフォアを愛してきたんだ。昔も今も、それはずっと変わらない。まあ、少し……予想外のことはあったが……」
「……でしょうね」
一瞬。自信満々だった伯爵の表情が不安げに揺れる。
確かに、伯爵にとっても運命の番との出会いは予想外だったのかもしれない。けれど、それによって彼の思いは目に見えるほどに変わってしまったのだ。
いや――もしかしたら、伯爵は自身の変化に気が付いていないのだろうか? 『運命の番』の祝福に隠されて、周囲の悪意が全て伯爵夫人に向けられてしまっているせいで。
「なんだ、その言い方は! 貴様はいったい何が言いたいんだ!!」
「……閣下は気付いておられないのですね。ですが、伯爵夫人をここにお呼びになられて、この絵と見比べてみれば一目瞭然かと思います」
「ハッ、何を言い出すかと思えば……貴様はそうまでして俺の妻に会いたいか。だが、残念だったな。わざわざそんなことをする必要はない! 命が惜しくば、今すぐお帰りいただこう!!」
グルルルル……!
鼻にしわを寄せて、歯をむき出しにして威嚇してくるアルテサーノ伯爵。
殺気を滲ませたその姿を見て、彼が獣人であることを再確認する。あの鋭い犬歯で噛みつかれたら、弱いデュナミスなどあっという間に命を落としてしまうだろう。竜人と見紛うほどの美しい外見の内側には、文字通り鋭い牙を隠し持っていたようだ。
けれど、ここで臆するわけにはいかない。
既にデュナミスは求婚者として名乗りを上げてしまったのだ。
ここで引いたら、ただでさえ命を脅かされるほど蔑ろにされている伯爵夫人がどんな目に遭わされるか分からない。
人間の自分には獣人が持つ鋭い牙も竜人由来の長い寿命もないけれど、大切な友人の命を守りたいという思いに種族の違いなどないはずだ。
今にも飛び掛かって来そうな伯爵の目をまっすぐと見据えて、デュナミスは宣言する。
「ならば、ハッキリと言わせていただきます。閣下の過去の思いは間違いなく本物だったのでしょう。ですが、運命の番への愛情に振り回されている今の貴方では、彼女を幸せにするどころか、命すらも守れない! このまま無駄死にさせたくないのなら、頼むから彼女を解放してあげてください!」
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