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16 現実を見る
しおりを挟む「な……何を……貴様、いったい何を言って」
『無駄死に』
その言葉を聞いて、伯爵の顔に動揺が走る。
本能に生きる獣人は死を厭う傾向にあるというから、そのせいかもしれない。
この反応を見るに、伯爵には妻を虐げている自覚はなかったのだろう。やはり、全ては無意識のうちに行っていたのか……
だとすれば、なおさらこのまま放っておくわけにはいかない。運命の番と出会ってなお、妻への愛を持ち続けているのなら、彼は意図せず愛する者の命を奪ってしまうことになる。それも、そう遠くないうちに。今は、デュナミスの小細工があってそれが先送りされているだけなのだ。
そんな悲劇は絶対に起こさせてはならない。
どうにかして、伯爵夫人と直接話をしなければ……
コンコン。
デュナミスが伯爵夫人と会う方法を考えていると、応接室にノックの音が響いた。
そして――
「随分と騒がしいけれど、どうかなさったの? お客様がいらしているならお茶を……あら? 貴方は……」
「パルフォア! お前は自分の部屋から出るなと言ってあっただろう!! あっちに行っていろ!」
「え? は、はい」
「待ってください、伯爵夫人!」
どうやら、騒ぎを聞きつけて伯爵夫人が様子を見に来たようだ。もしかしたら二人の険悪な空気を感じ取って、使用人が彼女を呼んだのかもしれない。
不遇な立場に置かれている伯爵夫人だが、部外者のデュナミスがいるからと形だけでも女主人として扱われたのだろうか。
何にしても、好都合だ。
この千載一遇のチャンスを逃すわけにはいかない。
夫から促されるままに部屋を出ようとする伯爵夫人を引き留めて、デュナミスは伯爵に向かって言い放つ。
「伯爵! 落ち着いて、その目でしっかりと今の彼女の姿を見てください! 運命の番への思いを暴走させた貴方では、彼女の笑顔を守ることはできない。あの絵と見比べれば、それが分かるはずだ!」
「何をバカな……こと……を…………え……?」
壁に飾られた美しい絵を見て。伯爵夫人を見て。
絵を見て。伯爵夫人を見て。
数度同じ行動を繰り返して、伯爵が目を見開いた。
「……そん……な……。違う……そんなつもりじゃ……俺は、ただ……」
ブツブツと呟いて。目の前の現実から逃避するように、ゆっくりと後ずさりながら頭を左右に振る伯爵。けれど、動揺は隠し切れておらず、握りしめた手が小刻みに震えている。
無理もない。伯爵夫人が身に付けている普段使いのドレスは生地の質も悪く、とてもじゃないが貴族女性が着るような物じゃない。メイドの方がよほどいい物を着ているくらいだ。
しかも、デュナミスの暗躍で多少マシになったとはいえ、伯爵夫人は今にも倒れそうなほどに痩せている。
元の状態と見比べることでようやく客観視ができたのだろうか。人生で一番輝いていた瞬間との落差は、伯爵にとって想像を絶するものだったに違いない。
茫然としている伯爵を放置して、デュナミスはドア付近にいる伯爵夫人に近づいた。
「伯爵夫人、貴女にお渡ししたい物があります。これを」
「!! これ、は――!」
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