【完結】有能外交官はドアマット夫人の笑顔を守りたい

堀 和三盆

文字の大きさ
18 / 24

18 ヴィグルーの事情 前編(ヴィグルー視点)

しおりを挟む

 ヴィグルー・アルテサーノは名門貴族であるアルテサーノ伯爵家の後継として生まれた。
 竜人と獣人の血を引くこの国の国民は運命の番を大切にするが、実際に出会うことができるのは全体からするとごくわずか。
 それでも、他の獣人国はそれよりも更に出会える確率が低いというから、両親、祖父母と二代続けて運命の番と巡り会ったアルテサーノ伯爵家はかなりの幸運と言えるだろう。

 ある日のこと、ウィグルーは参加したお茶会で一人の女の子に心奪われた。女の子の名はパルフォア・メルレット。貴族向けのドレス工房を経営しているメルレット子爵家の末っ子だった。

 笑顔が可愛らしくてとても目を引くが、獣人としての特徴がないので外見からはなんの種族か分からない。

 竜人の血が濃いと種族の特徴よりもそちらが優先されると言われているので、よほど竜人の血が濃いのだろうか……そう思ったが、獣の耳も尻尾も持たぬ彼女のソレは竜人ではなく、人間だった祖母から引き継いだものらしい。
 人間よりも竜人の方が身近な我が国ではかなり希少な存在だ。

 ウィグルーの方は一応犬獣人だが、二代続けて運命の番と巡り会ったことが影響しているのか、顔の造形は竜人に近いものがある。犬獣人として受け継いだものと言えば、鋭い嗅覚と骨をも噛み砕くことのできる強靭な顎と鋭利な歯くらいだろうか。
 もっとも、大好きなパルフォアとお揃いでいたくて、それについては隠していたが。そのせいか、周囲からは二人とも竜人系だと思われているようだ。


 運命の番を大事にするこの国では、他国に比べて結婚年齢が高い。皆、長い寿命を使ってギリギリまで自分の番を探し回るからだ。そのため、自然と婚約を結ぶ年齢も高くなる。
 けれど、ウィグルーはどうしてもパルフォアを他の誰かに奪われたくなくて、幼いうちから必死に学び、両家の事業をつなげて貴族学園在学中に政略的な婚約を結ぶことに成功した。

 両親はそんなウィグルーの行動を止めるでもなく笑顔で見守っていたが、年頃となり、パルフォアから番の気配がしてきたことで全てを理解した。

 どうやら、運命の番を見つけると誰もが似たような行動を取るらしい。両親は息子の暴走を見て『ああ、きっとこの二人もそうなのだろうな』……と、自分たちの過去の姿を重ねて好きにさせていたのだ。


 これで、アルテサーノ伯爵家は三代続けて運命の番と出会えたことになる。


 大好きな人と婚約できたことは凄く嬉しい。けれど、パルフォアと婚約者として過ごすうちに困った事態に陥った。

 最初は自らの色のドレスや宝飾品を贈ることで満足していたのだ。しかし、段々とそれだけでは物足りなくなってしまった。

 どうやら立て続けに運命の番と出会った弊害で、ヴィグルーには番への独占欲が強く出ているらしい。

 犬獣人だけあって匂いに関しては特に深刻で、愛する運命の番に僅かでも他者の匂いが付くことが許せない。なかでも、制作に多くの人の手を介するドレス選びは困難を極めた。

 ドレスを縫った者。布を織った者。糸を紡いだ者――

 そのすべてが耐えられなくなって、ウィグルーは思った。


 そうだ。だったら、全てを自分で用意すればいいじゃないか――と。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

とある伯爵の憂鬱

如月圭
恋愛
マリアはスチュワート伯爵家の一人娘で、今年、十八才の王立高等学校三年生である。マリアの婚約者は、近衛騎士団の副団長のジル=コーナー伯爵で金髪碧眼の美丈夫で二十五才の大人だった。そんなジルは、国王の第二王女のアイリーン王女殿下に気に入られて、王女の護衛騎士の任務をしてた。そのせいで、婚約者のマリアにそのしわ寄せが来て……。

【完結】地味令嬢の願いが叶う刻

白雨 音
恋愛
男爵令嬢クラリスは、地味で平凡な娘だ。 幼い頃より、両親から溺愛される、美しい姉ディオールと後継ぎである弟フィリップを羨ましく思っていた。 家族から愛されたい、認められたいと努めるも、都合良く使われるだけで、 いつしか、「家を出て愛する人と家庭を持ちたい」と願うようになっていた。 ある夜、伯爵家のパーティに出席する事が認められたが、意地悪な姉に笑い者にされてしまう。 庭でパーティが終わるのを待つクラリスに、思い掛けず、素敵な出会いがあった。 レオナール=ヴェルレーヌ伯爵子息___一目で恋に落ちるも、分不相応と諦めるしか無かった。 だが、一月後、驚く事に彼の方からクラリスに縁談の打診が来た。 喜ぶクラリスだったが、姉は「自分の方が相応しい」と言い出して…  異世界恋愛:短編(全16話) ※魔法要素無し。  《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆ 

【完結】美人な姉と間違って求婚されまして ~望まれない花嫁が愛されて幸せになるまで~

Rohdea
恋愛
───私は美しい姉と間違って求婚されて花嫁となりました。 美しく華やかな姉の影となり、誰からも愛されずに生きて来た伯爵令嬢のルチア。 そんなルチアの元に、社交界でも話題の次期公爵、ユリウスから求婚の手紙が届く。 それは、これまで用意された縁談が全て流れてしまっていた“ルチア”に届いた初めての求婚の手紙だった! 更に相手は超大物! この機会を逃してなるものかと父親は結婚を即快諾し、あれよあれよとルチアは彼の元に嫁ぐ事に。 しかし…… 「……君は誰だ?」 嫁ぎ先で初めて顔を合わせたユリウスに開口一番にそう言われてしまったルチア。 旦那様となったユリウスが結婚相手に望んでいたのは、 実はルチアではなく美しくも華やかな姉……リデルだった───

これ以上私の心をかき乱さないで下さい

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユーリは、幼馴染のアレックスの事が、子供の頃から大好きだった。アレックスに振り向いてもらえるよう、日々努力を重ねているが、中々うまく行かない。 そんな中、アレックスが伯爵令嬢のセレナと、楽しそうにお茶をしている姿を目撃したユーリ。既に5度も婚約の申し込みを断られているユーリは、もう一度真剣にアレックスに気持ちを伝え、断られたら諦めよう。 そう決意し、アレックスに気持ちを伝えるが、いつも通りはぐらかされてしまった。それでも諦めきれないユーリは、アレックスに詰め寄るが “君を令嬢として受け入れられない、この気持ちは一生変わらない” そうはっきりと言われてしまう。アレックスの本心を聞き、酷く傷ついたユーリは、半期休みを利用し、兄夫婦が暮らす領地に向かう事にしたのだが。 そこでユーリを待っていたのは…

侯爵家の婚約者

やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。 7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。 その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。 カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。 家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。 だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。 17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。 そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。 全86話+番外編の予定

私をいじめていた女と一緒に異世界召喚されたけど、無能扱いされた私は実は“本物の聖女”でした。 

さら
恋愛
 私――ミリアは、クラスで地味で取り柄もない“都合のいい子”だった。  そんな私が、いじめの張本人だった美少女・沙羅と一緒に異世界へ召喚された。  王城で“聖女”として迎えられたのは彼女だけ。  私は「魔力が測定不能の無能」と言われ、冷たく追い出された。  ――でも、それは間違いだった。  辺境の村で出会った青年リオネルに助けられ、私は初めて自分の力を信じようと決意する。  やがて傷ついた人々を癒やすうちに、私の“無”と呼ばれた力が、誰にも真似できない“神の光”だと判明して――。  王都での再召喚、偽りの聖女との再会、かつての嘲笑が驚嘆に変わる瞬間。  無能と呼ばれた少女が、“本物の聖女”として世界を救う――優しさと再生のざまぁストーリー。  裏切りから始まる癒しの恋。  厳しくも温かい騎士リオネルとの出会いが、ミリアの運命を優しく変えていく。

病めるときも健やかなるときも、お前だけは絶対許さないからなマジで

あだち
恋愛
ペルラ伯爵家の跡取り娘・フェリータの婚約者が、王女様に横取りされた。どうやら、伯爵家の天敵たるカヴァリエリ家の当主にして王女の側近・ロレンツィオが、裏で糸を引いたという。 怒り狂うフェリータは、大事な婚約者を取り返したい一心で、祝祭の日に捨て身の行動に出た。 ……それが結果的に、にっくきロレンツィオ本人と結婚することに結びつくとも知らず。 *** 『……いやホントに許せん。今更言えるか、実は前から好きだったなんて』  

9番と呼ばれていた妻は執着してくる夫に別れを告げる

風見ゆうみ
恋愛
幼い頃から言いたいことを言えずに、両親の望み通りにしてきた。 結婚だってそうだった。 良い娘、良い姉、良い公爵令嬢でいようと思っていた。 夫の9番目の妻だと知るまでは―― 「他の妻たちの嫉妬が酷くてね。リリララのことは9番と呼んでいるんだ」 嫉妬する側妃の嫌がらせにうんざりしていただけに、ターズ様が側近にこう言っているのを聞いた時、私は良い妻であることをやめることにした。 ※最後はさくっと終わっております。 ※独特の異世界の世界観であり、ご都合主義です。 ※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。教えていただけますと有り難いです。

処理中です...