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19 ヴィグルー・アルテサーノの事情 後編(ヴィグルー視点)
しおりを挟むそれからはとにかく必死だった。
運命の番に相応しくあろうと伯爵家の後継者教育を受けながら、婚約者のために糸を紡ぎ、布を織って自分の色に染め上げ、一針一針愛情をこめてドレスを縫い上げるのだ。
けれど、そんな生活をしているうちに気が付いた。
優秀で何でも器用にこなしてきたウィグルーだが、こうした慣れない作業に関しては、予想以上に不器用だったことに――
そのせいか、完成させたドレスを贈っても婚約者家族の許しが得られず、人前で着用してもらえない。婚約者の家がドレス作りを家業にしている以上、いくら番の手作りとはいえ、あまりに完成度の低いものを娘に着させることはできないらしい。
なので、ウィグルーが婚約者に贈ることが許されたのは、ハンカチ等の小物や、人の目に触れることのない部屋着だけだった。
『親としては、結婚前の短い間くらいは娘にオシャレを楽しませてあげたいのです』
義両親からそんな風に言われてしまっては、ウィグルーも黙って受け入れるしかない。
だけど、今だけだ。正式に結婚すれば、義両親の許可を得ずとも彼女に好きな物を贈れるようになる。
好きなだけ自分が作った物で愛する運命の番を飾り立てられる。
それを胸に、最高級の品々を婚約者にプレゼントすることで、ウィグルーはどうにか暴走しそうな獣人としての本能を抑えていた。
やがて最愛の番と結婚して。
手作りのドレスを贈って。
それを喜んで着てもらえて。
最初はそれだけで満足だった。しかし、料理人が作った食事を美味しそうに食べている彼女を見て思ってしまった。
自分以外の者が用意した物を食べるのは我慢ならない――と。
そうなると全てが気になった。食材、食器、調理器具。何もかも自分で用意しなければ気が済まない。
自分が美味しいと思うものを食べさせたい。
自分が用意した最高の物だけを運命の番に与えたい。
願ったのはそれだけなのに、慣れない作業はどうしても時間がかかる。彼女を愛すれば愛するほどやりたいことは増えるのに、自分が動ける時間は限られている。
もちろん日々の仕事だって手が抜けない。特に、妻の実家との共同事業は絶対に失敗するわけにはいかない。絶対にないとは思うが、娘を返せ、なんて言われたら困る。
そこで、ヴィグルーは夜会の時間を使うことにした。たいして意味のない社交を行うくらいなら、仕事をしていた方がよっぽど有意義だ。
本当はパルフォアとダンスを踊りたいが、そうすると周囲が彼女の美しさに目を留めてしまうかもしれない。自分の手で飾り立てた彼女を見せつけたいが、一方で誰にも見せたくない。
傍にいるとどうしても踊りたくなってしまうから、離れているのは自分としても都合が良かった。もちろん、仕事ついでに流行の最先端を行く女性たちへのプレゼンも忘れない。宣伝が一番売り上げを左右するのだ。時間が足りない分、できるだけ効率的に動かなくてはならない。
そうやって分刻みの生活を送っていたら、いつの間にか見知らぬ人間の男が愛する番に近づいていた。
獣人ならばウィグルーの匂いを恐れて近寄らないはずだが、匂いに鈍感な人間は何をするか分からない。だから、念には念を入れて夜会への参加を禁止した。
制作時間が増えたおかげで多少はドレスの品質を上げられたけれど、仕事をしないわけにはいかない。だからその間も夜会には一人で出席して、妻の実家と契約している人気テザイナーと共に、打ち合わせしたり宣伝したり、いつも通り仕事こなしていた……
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