【完結】有能外交官はドアマット夫人の笑顔を守りたい

堀 和三盆

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18 ヴィグルーの事情 前編(ヴィグルー視点)

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 ヴィグルー・アルテサーノは名門貴族であるアルテサーノ伯爵家の後継として生まれた。
 竜人と獣人の血を引くこの国の国民は運命の番を大切にするが、実際に出会うことができるのは全体からするとごくわずか。
 それでも、他の獣人国はそれよりも更に出会える確率が低いというから、両親、祖父母と二代続けて運命の番と巡り会ったアルテサーノ伯爵家はかなりの幸運と言えるだろう。

 ある日のこと、ウィグルーは参加したお茶会で一人の女の子に心奪われた。女の子の名はパルフォア・メルレット。貴族向けのドレス工房を経営しているメルレット子爵家の末っ子だった。

 笑顔が可愛らしくてとても目を引くが、獣人としての特徴がないので外見からはなんの種族か分からない。

 竜人の血が濃いと種族の特徴よりもそちらが優先されると言われているので、よほど竜人の血が濃いのだろうか……そう思ったが、獣の耳も尻尾も持たぬ彼女のソレは竜人ではなく、人間だった祖母から引き継いだものらしい。
 人間よりも竜人の方が身近な我が国ではかなり希少な存在だ。

 ウィグルーの方は一応犬獣人だが、二代続けて運命の番と巡り会ったことが影響しているのか、顔の造形は竜人に近いものがある。犬獣人として受け継いだものと言えば、鋭い嗅覚と骨をも噛み砕くことのできる強靭な顎と鋭利な歯くらいだろうか。
 もっとも、大好きなパルフォアとお揃いでいたくて、それについては隠していたが。そのせいか、周囲からは二人とも竜人系だと思われているようだ。


 運命の番を大事にするこの国では、他国に比べて結婚年齢が高い。皆、長い寿命を使ってギリギリまで自分の番を探し回るからだ。そのため、自然と婚約を結ぶ年齢も高くなる。
 けれど、ウィグルーはどうしてもパルフォアを他の誰かに奪われたくなくて、幼いうちから必死に学び、両家の事業をつなげて貴族学園在学中に政略的な婚約を結ぶことに成功した。

 両親はそんなウィグルーの行動を止めるでもなく笑顔で見守っていたが、年頃となり、パルフォアから番の気配がしてきたことで全てを理解した。

 どうやら、運命の番を見つけると誰もが似たような行動を取るらしい。両親は息子の暴走を見て『ああ、きっとこの二人もそうなのだろうな』……と、自分たちの過去の姿を重ねて好きにさせていたのだ。


 これで、アルテサーノ伯爵家は三代続けて運命の番と出会えたことになる。


 大好きな人と婚約できたことは凄く嬉しい。けれど、パルフォアと婚約者として過ごすうちに困った事態に陥った。

 最初は自らの色のドレスや宝飾品を贈ることで満足していたのだ。しかし、段々とそれだけでは物足りなくなってしまった。

 どうやら立て続けに運命の番と出会った弊害で、ヴィグルーには番への独占欲が強く出ているらしい。

 犬獣人だけあって匂いに関しては特に深刻で、愛する運命の番に僅かでも他者の匂いが付くことが許せない。なかでも、制作に多くの人の手を介するドレス選びは困難を極めた。

 ドレスを縫った者。布を織った者。糸を紡いだ者――

 そのすべてが耐えられなくなって、ウィグルーは思った。


 そうだ。だったら、全てを自分で用意すればいいじゃないか――と。




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