【完結】有能外交官はドアマット夫人の笑顔を守りたい

堀 和三盆

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20 すれ違いの真相

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 涙ながらに語る伯爵の話を聞いて、デュナミスは頭を抱えたくなった。

 ああ、そうか……なるほど。
 全ては獣人のことを分かった気になっていたデュナミスの誤解だったのだ。

 どうやら、伯爵のようにあれもこれも……となるのは珍しくはあるが、長い寿命を惜しみなく使って技術を極め、運命の番へ手作りのドレスを贈ることは割とよくあるらしい。
 ただ、初めのうちはどうしても上手く仕上げることができずに、伯爵夫人のような状態になるそうだ。

 誰も彼女に救いの手を差し伸べなかったのは、それが愛故の行動だと分かっていたから。

 眉尻を下げて遠巻きに見ていた女性たちはボロボロのドレスを着た彼女の姿を見て、若かりし頃の自分を思い出していたのだろうか。だから、眉尻を下げながらも、口元には微笑みを浮かべていたのだろうか。

 言われてみれば彼女たちは皆、飛びぬけて美しいドレスを身に着けていた。

 あれが運命の番からの贈り物なのだとすれば、あの域に達するまでには相当の紆余曲折があったに違いない。夫の目を盗んで食事を摂るのも、彼女たちにしてみればいつか来た道だったのだ。

 そして、運命の番を得られなかった一部の女性たちは伯爵夫人に対し『ああはなりたくない』『そうだそうだ』と、やっかみまじりの皮肉を言っていた。

 何のことはない。
 口汚く罵っていた人々こそが、一番、彼女の立場を羨んでいたのだ。


「すまない、パルフォア。あれもこれもと欲張りすぎて、君の異変に気が付かなかった。俺のせいでこんなに痩せてしまって」

「いいえ、ウィグルー様。わたくしの方こそ……その、貴方がわたくしのためにあれこれと用意してくださるのが嬉しくて、大事なことを言いそびれてしまったのです。実は……」


 どうやら、伯爵夫人にとって夫が用意してくれる日々の食事は歯ごたえがあり過ぎたらしい。

 獣人として強靭なあごを持つ伯爵と、人間とほぼ変わらぬ伯爵夫人。いくら二人の間に深い愛情があっても、こと食については種族を超えることができなかったようだ。

 なので、夫の手料理に関しては食べられるものだけ食べて、匂いで夫にバレないように自分の手で作物を育てて自炊をしつつ、あとはお茶会や夜会で用意される人間用の食事でしのいでいたらしい。

 そして、夫は重すぎる運命の番への愛ゆえに全ての変化を前向きに受け止めて、デュナミスから指摘されるまで病的に痩せてしまった妻に気付くことができなかった。


 つまりは最初から虐げられた女性なんていなかったし、夜会会場で伯爵の傍にいたのは運命の番ではなく、ただの仕事相手のデザイナー。美しい装いをしているわけだ。彼女にとって、それが仕事なのだから。

 そして、仕事で伯爵の意識が逸れた隙を狙って、伯爵夫人は夫から贈られた愛情いっぱいのドレスを着て、自分に合った食事を摂っていた――


(やれやれ……思っていたのと真逆じゃないか)


 自分は外交官でありながら、誤った事前情報と自国の価値観に引きずられて現実がまったく見えていなかったのだ。



 デュナミスはそうやって自身の視野の狭さを深く反省しつつも、困ったことに番がらみの問題は解決していない。

 この騒ぎで食についての夫婦のすれ違いは解消したかもしれないが、伯爵は本能に引きずられる形で妻に対し度を越した愛情の示し方を続けるだろうし、伯爵夫人は夫から贈られたボロボロのドレスを嬉々として着用して、一部の女性たちからの悪意に晒され続けるのだ。

 そして、この国の価値観が変わらない以上、それらは繰り返される問題でもあるだろう。

 人間であるデュナミスにとって、彼らの価値観は独特すぎる。実際、祖国にはこの国に嫁いだ女性たちを通して、間違った情報が伝わっていたのだから。




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