【完結】有能外交官はドアマット夫人の笑顔を守りたい

堀 和三盆

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21 有能外交官は問題解決に向けて奔走する

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 もう、こうなったら乗り掛かった船だと、デュナミスはこの国にいる番の夫婦を集めて詳細な聞き取り調査を行った。

 そこで分かったのは、こういった問題は過去にも繰り返し起きていて、特に伯爵のように数代に渡って運命の番を迎えた場合には夫側の愛情が暴走して、番が命を落としてしまうようなケースも珍しくないらしい。

 そして驚いたことに、『運命の番』は人間の場合もあることが判明した。なんと、伯爵夫人の祖母はその一人だったと言うのだ。

 つまりは、祖国の女性たちも伯爵夫人と同じ目に遭いかねない。獣人だからこそ耐えられたが、人間女性だったらこんなに長くはもたなかっただろう。

 伯爵夫人が伯爵の運命の番だったことを考えると前提条件は変わってしまったが、外交官として無視できる問題ではない。今回は人間が巻き込まれなくてよかった、では済まされないのだ。

 そこで、デュナミスは番持ちの男性陣に協力を仰いで、何がそんなに嫌なのか、妥協点はどこかについて調査した。

 その結果、やはり『匂い』が一番のネックとなるらしい。種族の違いで多少の誤差はあれど、そこは全ての獣人に共通しているようだ。

 そして、子供についてはある程度許容されることも分かった。彼らは種族・性別に関係なく本能的に子供を可愛がるので、相手が小さなうちはそこまで匂いは気にならないらしい。


 それならば……と、デュナミスはグロー伯爵領からほど近い、国境沿いの男爵領で作られている糸や布地をこの国に売り込んだ。

 国土の北側に位置する男爵領の山間では冬になると雪で交通が遮断されるため、領民は家に閉じこもって糸を紡いだり布を織ったりして過ごすのだが、仕事を覚えたての子供が作るものはどうしても安く買い叩かれてしまうのだ。それを、上手いこと活用できないかと考えた。

 その上でいくつかのパターンを作り、裁断された状態で販売することを思いついた。

 元婚約者――王女に強請られてお忍びで王都にある手芸店を訪れた際に、後は縫うだけとなった初心者向けの手作り用キットが色々と売られていたのだ。
 学園に通う令嬢たちの間で手作りのポーチが流行っていて、王女もやってみたくなったらしい。

 刺繍やレースを付けて自分の好みの物を作るのだが、針仕事とは縁遠く飽きっぽい王女でもそれなりの作品を作り上げていたから、それをドレスにも応用できるかもしれない。
 基本となるデザインについてはドレス作りを家業にしているという伯爵夫人の実家に協力をしてもらって、両国の共同事業にすればいいだろう。獣人用のドレスはしっぽが付いていたりと作りが特殊なので、そこは販売する側の方が詳しいはずだ。

 そのついでと言ってはなんだが、デュナミスは祖国で開発されたばかりの『魔石ミシン』を売り込んだ。

 魔石が高価なのと音がうるさいせいで今一つ普及が進んでいないが、音に敏感な獣人の耳をもってしても耐えられるくらい静かな魔石ミシンを開発することができれば、夜間作業も可能となるので一気に販路が広がるはずだ。
 魔石ミシンの導入は時短と品質向上にもつながるので、この国での運命の番へのドレス作りに一石を投じるかもしれない。

 食材の問題については、各地の孤児院が自給自足をしているから、それを利用したらいいのではないか。野菜に付加価値がついて高く売れれば運営も楽になるだろうし、売り上げから食費を差し引いた差額を使って孤児院の子供たちに必要な教育を受けさせることもできる。

 どこの国もその辺の事情は同じなので、新鮮な野菜は自国で、加工が可能な物は他国からの輸入で――と住み分けをすれば、両国にとっての利益になるはずだ。




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