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第一章 ナルス
籠目のおもてなし(中)
しおりを挟む土煙が巻き上がる。
私の体を貫こうと突き出された右手。
胸の触れるか触れないかの位置で掴む。
「……水属性でなくなったあなたは、もはや私の敵ではない、籠目」
手に炎をまとえば、たちまち籠目の蔓や木々は轟々と燃えていった。
「くっそおおおおおおおおお!」
籠目は叫びながら、私に掴まれた腕を自ら切り落とした。数歩後ろへ飛び、何かを唱える。
「んふふふ……怒っちゃったわよぉ」
気味の悪い笑みを浮かべながら、切り落とした腕を再生した。
「朱己!」
葉季が私のところまで来た。
少し息は荒いが、目立った傷はない。
センナの消耗も許容範囲内だ。
「ここからは引き受ける。高能をお願い、……って、高能は?」
顔を見合わせ、嫌な予感を互いに感じた。
「残念でしたぁ! 高能はぁ、ここでーーす」
そこには、蔓で何重にも巻かれた高能がいた。顔以外は既に蔓に取り込まれている。
「高能!」
名を呼びながら、蔓を燃やす。
途端に、高能から叫び声が上がった。
「じゃーん! この蔓はぁ、高能から生えてまーす!」
目を見開いた。
「私は、触れたモノから色々生やせるのぉ」
そう言うと、先程籠目の手を掴んだ私の左手からも、巨大な蔓が出現した。
「っ!!」
蔓によって吹き飛んだ左手。
蔓の生える勢いに負けて体ごと吹き飛ばされる。
「朱己!」
遠くで呼ぶ声がする。さっきまで隣りにいたはずなのに。
体を振り回されながら、頭の中を整理する。
少しだけ目を閉じれば、腕の中を上がってくるような、何か。
寄生虫のような這い上がる何かが、いる。腕の中に。
左手に右手を添える。
思い切り右手の義手の闇属性の力を注入してみたが、無効化されない。
左手は骨が砕かれながら、どんどん蔓になる。
激痛に思わず顔が歪む。
となれば。
残るは、物理攻撃か。
左腕の肩から下を、出現させた炎の小刀で切り落とした。
自分を振り回す蔓から離れ、体が自由落下する。
すぐに葉季が風で助けてくれた。
「大丈夫か!?」
葉季が駆け寄ってくる。頷いて返す。
真っ赤に染まる服。
だが、薬乃の玉のおかげで腕はすぐに再生した。
私の腕から切り落とされた蔓は、動くのをやめ、徐々に萎れ始めた。
「もしかして、この技は……」
瞬時に高能を見る。
まずい。もし、本当にそうなら。
「朱己ぃ。高能のセンナ、美味しいわよぉ」
彼の言葉にぞっとした。
背筋に冷たい汗が流れる。
まずい。
「まさか、センナまで侵入できる寄生虫のような能力だというのか?」
眉間に深い皺を刻む葉季に、恐らく、と言って返事をする。
「高能のセンナまで、もう到達している可能性がある」
それだけ言えば、葉季も嫌でもわかる。
この絶望的な状況が。
「ほらほらぁ! 遊ぶわよぉ!」
高能から生える蔓は、無秩序に私達を襲う。
下手に反撃すれば、高能が傷つく。
私達はお互いに蔓に触れないよう、そして攻撃しないよう避けていく。
避けるばかりじゃ、どうしようもないのに。
高能の後ろで笑みを浮かべる籠目を睨みながら、思いついた策は、二つ。
高能のセンナに取り付いた寄生虫のようなものを剥がすか、能力者である籠目を倒すか。
高能のセンナに接触しなければ、剥がせない。久岳のときのようなやり方になる。
「葉季! 陣で高能の動きを封じれる?」
高能の蔓を避けながら、少し離れたところにある葉季を見れば、しっかりと頷いていた。
「そう、言うと思っておった! 陣!」
葉季が思い切り扇子を振れば、高能から生えている無数の巨大な蔓は箱の中に取り囲まれた。
箱の中でぎちぎちになった蔓たちは、狭そうに箱を圧迫する。
「なぁに、それ。つまらないじゃないのよぉ」
不服そうな顔をする籠目の背後へ回る。
思い切り剣を突き立てて振り切れば、籠目の姿はいとも簡単に真っ二つになり、消えた。
「……偽物……?」
本物は、どこだ。
辺りを見回しながら、籠目の本体を探す。
こんなに簡単に殺されてくれるわけがない。
「ここよぉ。ここ」
どこからか響く声の方を見れば、陣の中の高能が見える。
「まさか……」
背筋が凍りつく。
それは葉季も同じようで、顔が険しくなっている。
「気づくの遅いからぁ、高能の体乗っ取っちゃったわよぉ!」
無数の蔓の中にある高能の体に、二つのセンナ。
「市松のときみたいに、優しくないわよぉ」
剣を握る手に力を込めながら、深呼吸した。
どうする。
『葉季』
念で話しかけると、少し離れたところにいる葉季は、こちらに視線だけ向けてきた。
『高能のセンナに接触したい。籠目のセンナを引き剥がすには、恐らく同等の力で弾き出すしかない』
『……つまり』
『蔓をすべて排除した上で、高能の動きを封じる。私が一瞬で焼き切る。同時に風で動きを封じて』
それから、と少しだけ追加でお願いをする。
『相わかった』
返事が聞こえたと同時に、別々の方向へ低く駆け出す。
「どうしたのよぉ! 逃げ場はないわよお!」
葉季は姿を見せず、隠密の能力で息を潜めていて。
彼にお願いしたとおり、籠目が操る高能の蔓は、私を目掛けて一直線で襲いかかってきた。
無数の蔓はさながら弾丸。
瞬時に地面には連続した穴が開く。
一度でも掠れば首は飛ぶだろう。
俊足の如く駆け抜ける。
同時に片っ端から蔓を焼き消していく。
蔓の下を走り抜ければ、蔓自身が干渉し合い、思うようにこちらに打撃を与えられない。
「小賢しいわねぇ朱己ぃ!」
頭の上から降ってくる声を聞きながら、立ち止まれば。
「あら! もう鬼ごっこは終わりぃ!? ……ん?」
思うように蔓を動かせないことに気づいたのだろう。それもそのはず、蔓が絡まり合って一つの鞠のようになっている。
ーー「朱己、蔓同士を絡ませるように走り抜ければ、燃やすのも容易かろう」
葉季から言われたとおり絡ませたら、案の定籠目は蔓を動かせない。まるで大きい鞠だ。
直様、指で六角形をなぞれば、炎の龍が飛び出し、蔓ごと籠目の取り付いた高能を縛り上げる。
「あんた、これは高能の体なのよぉ!?」
叫び声が聞こえるが関係ない。
手を向けて力を込めれば、龍は雄叫びを上げて炎を吐き巻き上げた。
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