朱色の雫

弦景 真朱(つるかげ しんしゅ)

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第一章 ナルス

籠目のおもてなし(下)

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 高能の声で、断末魔のような叫び声が聞こえる。

「ぎゃあああああぁあぁあっ!」
「葉季!」

 私が叫ぶと同時に、葉季が高能の背後から風を巻き起こし、更に炎は火力を増していく。
 蔓は轟々と燃え、灰が風に巻き上げられていく。

「陣!」

 葉季が扇子を振り上げれば、燃えている蔓ごと格納され、身動きは完全に取れなくなった。
 瞬移で陣の中へ移動し、燃えている高能の胸へ右手を突き刺す。
 手のひらに確かに感じる、籠目と高能のセンナ。
 引き剥がすには、それぞれのセンナから生み出される力を外側から相殺し、闇属性を撃ち込むなりしてセンナ同士を反発させるしかない。

「がはぁっああぁあぁ」

 センナを握りながら、籠目に静かに問う。

「殺される前に高能から離れなさい。それとも、死にたいか?」
「こいつを殺すつもり? 私は手放さないわよぉ!!」

 言い終わると同時に、高能の体から雷が無秩序に生み出される。
 センナに触れている右手に、直接雷が打ち込まれ、激しい痛みと振動が押し寄せた。

「ぐっうぅぅ!」

 思っていた以上の体が砕けそうな衝撃。
 反射的に声が出て顔が歪む。
 それでもセンナは離せない。

「朱己! 離しなさいよぉ!」
「は、なさない! 高能を、返して! 私の対を!」

 相手の怒りと焦りに満ちた怒号。
 自分の炎と相手の雷が入り乱れる。
 それでも、離せない。

 右手の義手が音を立ててひび割れていく。
 思ったより右手がもたない。
 目を閉じたくなる閃光。
 振りほどきたくなる右手。
 足りない。焦るな。必ずなんとかすると決めた。
 様々な感情が、自分の中で生まれては否定し、あるいは肯定される。
 高能のセンナから弾かれないように、高能のセンナから発される雷と同等の力を、常に注ぎ込み続ける。彼の雷を相殺するために。
 高能のセンナへの接触とは別に、高能に張り付く籠目のセンナが放出している力と、同等の力になるまで左手で炎を練り上げていく。

 もう少し、もう少し。
 同時に、高能のセンナに貼り付く籠目のセンナとの境目が、見え隠れし始めた。
 右手の義手に織り込まれた、闇属性の護符を引き出しセンナの境目に貼り付ける。次いで、炎をまとった左手で籠目のセンナを握りこんで、籠目の能力を相殺する。
 途端に二つのセンナが反発を始めた。

「葉季! 今だ!」

 叫べば、葉季は瞬時に陣の中へ現れる。
 風をまとった彼の手が、高能と籠目のセンナの境目、私の右手の義手から出した護符へ触れた。

「なっあんたも!? 朱己! 離しなさい! 離しなさいよぉ!!」

 籠目が焦ったように暴れるが、左手で籠目のセンナから放出される力を相殺し続ける。
 葉季が護符へ限界まで練り上げた風属性の力をぶつければ、センナが境目から切り離され始めた。
 風と炎と雷の入り乱れる、無秩序な陣の中。けたたましい音を立てて次から次へとぶつかり合う。
 自分が叫んでいるのか、誰が叫んでいるのかもわからない。
 それでも、センナだけは離さない。
 葉季の風の後押しで、二つのセンナを分かつ。

「なっ……」
「よしっ!」

 切り離された籠目のセンナだけ握り直して、陣の中から出る。手の中で暴れるセンナ。

「やめなさい! 離しなさい……!」

 私の右腕が崩壊しそうなほど力を暴れさせる籠目。
 もう崩壊しかけている私の右腕には荷が重い。

「待たない。終いだ」
 
 容赦なく握り潰した。木っ端微塵に潰されたセンナは、まだ消えない。

 握りしめながら振り返れば、高能は意識を失い、葉季が陣の中で保護ししていた。
 潰された籠目のセンナは、緑色に光り、けたたましい音とともに慟哭していたが、やがて消滅し、灰となった。

「お、終わった……」

 そう口から漏れ出た言葉は、宙を舞って消えていく。
 これが、六芒。
 二人がかりだ。
 右手の義手は、またも派手に破損している。
 息も上がって、肩で呼吸をしていると、葉季がこちらへ来た。

「大丈夫か? 全く、相変わらず無茶をする。センナに全力で風をぶつけろと言われたときは冷や冷やしたぞ、やったことないからのう」
「ありがとう、助かった。私の力だけでは、相殺までしか持っていけない……もっとぶつけて反発させる必要があったから」

 あのとき追加でお願いした内容。自分一人の出力では、完全にセンナを切り離すために反発させ、籠目のセンナだけを掴む必要があった。葉季は魂解きこそできないものの、センナを見ることはできる。彼に合図したら全力で撃ち込んでくれとお願いした。
 葉季は笑いながら高能を抱えて隣へ来ると、高能を地面へ寝かせて、頬を軽く叩く。

「おーい、起きんかー」

 高能の頬を軽く叩き続ければ、まぶたが動いた。
 彼のセンナは遠慮なく籠目が使っていたため、かなり疲弊しているものの無事だ。

「ん……あ?」
「高能! 良かった。どう? 体は大丈夫?」

 目を開けてしばらく、状況が掴めていないようで、辺りを見回していた。
 途端に思い出したのか、勢いよく起き上がると、今度は両手を広げて自分の体を見回す。

「あいつは!? 籠目は!?」

 ことの経緯を手短に話せば、地面にめり込むほど深く頭を下げて謝ってきた。

「ほんとにわりぃ! 親父のことで放心状態だったとはいえ、気がついたときにはもう抵抗できなくてよ。まさか乗っ取られるなんざ……」

 高能の様子に思わず笑いがこみ上げて、必死で圧し殺す。

「いつもどおりの高能になって良かった。ね、葉季」

 葉季も笑いながら頷く。

「それにしても、なんか体が疲れてるな!」

 高能は自分の腕を振り回しながら、体を確認していく。
 薬乃の玉のおかげで体に外傷はないにせよ、センナはそれぞれが消耗している。そして、玉ではセンナの消耗は回復できない。
 前途多難さを感じながらも、急ぎ洞窟の中へ入ることにした。
 
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