朱色の雫

弦景 真朱(つるかげ しんしゅ)

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第二章 朱南国

特殊能力を持つ者

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「今までも、死にかけたことはあった。でも、そのときには発動しなかったわ」

「それはそうだろう。近くにいたのではないか? 貴様のセンナを封印した者が。基本的にセンナの封印など特殊な術は、効果は距離に比例する。近くにいれば居るだけ効果は強い。傀儡とて同じだ」

 近くにいた。
 つまり、候補は絞られる。
 四人のうちの誰かだ。
 口元を手で覆いながら、考えを巡らせていると、いつの間にか師走は目の前まで迫っていた。

「貴様のセンナを見せろ」

「え……ちょっ」

 師走は私の口元にあった手を取り、乱暴にどかすと胸に手を突き立てようとしてきたのを、反射的に弾き返してから我に返る。

「あ……ご、ごめんなさい。……驚いただけ」

「構わん。まず警戒を解け」

 師走は大して気に留めていないようで、顔色一つ変えない。
 正直、師走が何を考えているのか全く読めない。警戒を解けと言われても、警戒するのが普通ではないか、と反論したくなる。

「我が特殊能力は、ヴィオラとは違い、とりあえず触るということはできん。センナは通常、心を許した者にしか触れられないものだ。ヴィオラのように、自分の意思でセンナ同士を共鳴させれば、どんなセンナであろうと触れられるのは、特殊能力の中でも抜きん出て特殊だ。故に、我が触れるためには貴様に警戒心を解いてもらわねばならない」

「……心を、許した者にしか……?」

 新しい情報に、半信半疑で聞き返す。
 なぜなら、私も誰彼構わず触れることができるからだ。全属性の者は、皆そうだと思っていた。

「貴様らの魂解きは、誰彼構わず破壊できるだろう」

「ええ、そのとおりよ」

 さもありなん、と言わんばかりに説明してくれる師走は、知らないことがないかのようだった。目の前の彼は付け足すように、口を開いた。

「無論、我とて誰彼構わず、接触できる能力はある。センナを改ざんする力がな。しかし改ざんとは、こうすると決めて改ざんするだろう。故に、そもそも改ざんする予定のない相手のセンナに、たかだか接触するためとはいえ、無理矢理改ざんするようなことはしない。故に触れることはできない」

「触れたら改ざんしてしまうから、ということね」

 首肯く彼は、それが我々が持つ特殊能力だと付け足した。過去に聞いた内容を思い出し、疑問が口から滑り落ちる。

「……ヴィーの蕾殿も、改ざんする力があると聞いたことがあるけど」

「当たり前だ。我が父だからな」

「ちっ……父!?」

 ーーヴィーの反乱分子を、師走が引き連れて建国したのよ。

 辻褄が合うとは、こういうことを言うのかと悟った。ヴィオラは知っていたのだろう。蕾殿と、師走が親子だと。ヴィオラに最初からそう言ってくれれば、と今度彼に悪態をつきたいくらいだ、と思いながらもぐっと堪えた。

 そんな私のことは気にも留めずに、師走は言葉を続ける。

「センナに触れることができる、それは全属性であれば訓練次第でどうとでもなる。しかし、心の防御が崩せない限り、何も力を使わずに接触することは不可能。我々の誰彼構わず触れられる能力は、特殊能力の中でも秀でた能力。全属性だからと、誰にでもできるわけではない」

 師走と向かい合わせで立ちながら、彼の言葉をただ流れる水のように飲み込んでいく。
 でも、心を開いていない者のセンナに、拒絶された経験がない私には、絵空事のように聞こえた。
 自分の理解のために、師走へ聞き返す。

「特殊能力、ね。わかったわ。……あなたが誰彼構わず触れることができるのは、改ざんするときだけで、普段誰彼構わず触れようとすれば、望まずとも改ざんしてしまうってことね」

 相変わらず顔色一つ変えない彼は、軽くため息を吐きながら椅子へ腰掛けた。
 私は彼の近くに立ったまま、もう一つ気になっていたことを尋ねた。

「……あなたと蕾殿は、マヌンの長の攻撃は届かないと聞いたのだけど……特殊能力が、一つではないのよね?」

「誰から聞いた」

 目つきが鋭くなり、空気が一気に張り詰めた。まるで皮膚の表面に、針が突き立てられているかのように。
 
「……ヴィオラから」

 私の回答にため息で答える彼は、少しだけ天井を仰ぎ、遠くを見た。

「……貴様が我から一本取れたら教えてやる」

「簡単には教えてくれないってことね」

「当たり前だ。各長固有の特殊能力など、露見させる利益がない」

「……それは、そのとおりね」 

 私の能力は知ってるのに、と文句を言いそうになったが引っ込めた。既に露見したあとに文句を言っても仕方がない。おそらくヴィオラは知っているのだろうが、彼に教えてくれと言うのは悔しい。

 目の前の師走は、腕を組みながら私の方へ視線を移し、口を開いた。

「貴様は何故強くなりたい」

「……生き抜くためよ。どれだけ立ち止まっても、私が生き抜かなきゃならないわ。民のためにも、臣下のためにも、私自身のためにもね」

 そうか、と一言こぼして、彼は立ち上がった。そのままこちらへ歩いてきた。
 目の前で彼から手を差し出され、思わず構える。

「手を出せ」

「何する気?」

 反射的に警戒すれば、彼は面倒くさそうに眉を寄せた。

「何もせん。貴様が五感のうち何が優勢か、確認するだけだ」

「五感のうち?」

 まだ謎だが、早くしろと急かされるためとりあえず手を重ねた。
 手を重ねた瞬間、明確に見えた師走のセンナ。
 ーー白金のセンナ……! なんて美しい……。
 呆然とただ見つめていると、目の前の彼は顔色一つ変えずに口を開いた。
 

「我がセンナが見えたか。何を感じた」

「白金色……に見えた、とても綺麗」

 お世辞ではなく、意識せずに口から零れ出る程美しかったのだ。洗練され、磨かれた美しさを見せつけられたようだった。

「貴様はやはり視覚か」

「? 視覚……センナは色がついていると思うけど……」

「我にはセンナの色は見えん。センナは皆等しく、無色透明の玉のように見えるのみ。我が感じるのは味覚。嘘を付く者、裏がある者のセンナは味でわかる」

「!!」

 センナの感じ方が違うのか。
 皆、センナが見え、色もわかるのだと思っていた。目を瞠るが、思えば心当たりがある。

「ヴィオラは、不協和音がするとすぐに気づいていた。私は全然わからなくて、ヴィオラが私のセンナに触れるまで気付けなかった」

「それはそうだろう。ヴィオラは聴覚でセンナを感じる。嘘もセンナの強さも、奴は聴覚で判断している。貴様はまだ、センナの色で嘘かどうか、相手の行動を読むことはしてないようだな」

 師走は満足したのか、私の手を離すとまた椅子に腰掛けた。

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