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第三章 最終決戦
あやつり人形
しおりを挟む深手を負ったヴィオラと対峙する玄冬。
私を庇うように立つヴィオラが、更に後ろへ下がるように促しているのが見えているのか、玄冬はただ静かに頷きながら口角を上げた。
「ヴィオラ、俺から朱己を遠ざけようとしても無駄だ。俺には目がある」
「無駄はどっちかしら、その目はあたしの音波の霧の中じゃ使えないわよ」
ヴィオラの霧は、通常の霧雲系の霧とは違う。彼の能力はセンナの共鳴、不協和。今は意図的にセンナに不協和を与えることで霧の幻覚を見せ、私の五珠としての目ーーセンナが視える視力を奪ったのだ。玄冬の前に出てこないように。
「漆黒の牙の目……」
なんて戦い辛いのだろう。五珠の戦いは、一瞬の過ちが命取りだ。先程のヴィオラの傷だって早く治さなければ致命傷になる。ヴィオラが自分で治癒しなかったのは、恐らく何某かの力の影響で、簡単には塞がらない傷にされたのだろう。
いや、待て。そうだ、ヴィオラは怪我していた。葉季が治癒してくれていたにも関わらず、塞がらなかった。そして今、私以外にセンナを見ることができる目を持つ者なんて、一人しかいない。そう、ヴィオラの近くに。
「……!」
「触れるほどの位置に居るならば、容易い。葉季触れろ」
葉季の顔が歪む。酷く抗っているように見えるが、体は勝手に動いてしまう。
葉季が、ヴィオラに触れた瞬間。
ヴィオラの音波の霧に稲妻が走ったように、閃光が散る。
「ほら、視えたぞヴィオラ」
「ちっ!」
「遅い」
玄冬が、葉季をこんなに簡単に操っている。
遊んでいるのだ、玄冬は。操ろうと思えばいつでも操れるのに、あえて今まで野放しにしていたのか。
私が師走との修行で身につけた、人の技の粒子を支配して視界を広げる技を葉季伝いで模倣した。完全に、私の位置が筒抜けだ。
ヴィオラが動くより早く目の前に迫りくる玄冬。まるで凶暴化した獣のように牙をむき出しにする。師走が豹のようだったのに対して、彼は完全に異国の書物でしか出会ったことがないラーテルのようだ。
「小賢しいったら……!」
ヴィオラが手を叩くと、玄冬の頭が消し飛んだ。内側から破裂したように、木っ端微塵に。人の脳みそとはこんなにも散らばるものなのか、と感心してしまうほど、美しく散った。
「ただの時間稼ぎでしかないわ、朱己! 皆葉季から離れなさい!」
「葉季……っ!」
葉季が必死に抗っているのがわかっているのに、何もできない。
光琳が手を差し出してくるのが目の端に映り、咄嗟に手を伸ばした。
「朱己、焦らないで。今の優先順位はわかる?」
「……! ええ、そうね」
常に、命が第一だ。つまり戦っているヴィオラの邪魔にならないこと、彼の動きを先読みし続けることだ。葉季もそのために抗っている。
ヴィオラの背後へ光琳と移動する間に、玄冬は粘土で人形を作るように、簡単に復元していく。
「……ほんと、師走が今いなくてよかったわよ」
「え?」
「師走が居たら、真っ先に葉季を殺してるわ。まあ、正しいけど」
「……確かに、師走ならそうね」
今ヴィオラが葉季と玄冬、二人の相手をする羽目になったのは、私に葉季との戦闘をさせないためだ。それでいいのか? 私に今できることはなんだ。ヴィオラは深手を負っている。二人の相手をさせるのは現実的ではない。私が決断しなければ、私が今。
私が唇を噛みしめると同時に、頭に手が置かれる。顔を上げると、ヴィオラが血を流しながらため息をついていた。
「止めときなさい、朱己」
「……ヴィオラ」
「あんたが判断するのは今じゃないわ。あたしが戦えなくなった、もしくはあたしが片膝ついた瞬間に判断しなさい」
「……ありがとう」
葉季を手に掛けたくない。だけど、今私達にとって一番の脅威は操られている葉季だ。
眼の前でヴィオラと戦い続ける玄冬は、首を一、二回撚ると、手を握ったり開いたり、自分の体の動きを確認しているようだった。
「……あともう少し、か」
「あんた、まだ全部集めてないんでしょ」
「無論。だが、そう遠くない。俺の残りのセンナについては既に在り処がわかっている」
分裂して増殖し続け、個々が力を増幅させてきた漆黒の牙。個々が強くなった状態で一つに戻れば、自ずと一つになった場合の強さは群を抜くだろう。
ましてや、香卦良たちによって隠されたセンナさえも居場所がわかっているとしたら。考えただけでも悍ましい話だ。
「俺のセンナの増殖回数は無限だ。誰にも止めることはできない」
「あっそ。でも全部壊せば一緒でしょ? 潰してやるわよ、全部完膚なきまでにね」
玄冬は肉体が裂けるのも厭わず、ヴィオラの弦を掴む。無限に再生する彼の能力故なのか、ヴィオラの弦を引くと思い切り振り回し、壁に激突させた。
分裂し増殖するセンナ……何かひっかかる。増殖ということは、すなわち光属性の力。彼は光属性が優勢なのか?
だが、彼からの攻撃でヴィオラが負った傷は、闇属性に見える。傷が回復しない、拒絶を感じるからだ。何より、彼からは幼い見た目に反し、数千年単位で培ってきた底なし沼のような闇を感じる。
相反する力を持つ、私の魂解きと魂結びのようなものだろうか。それとも、何かが違うのか。わたしかまだ、わかっていないのか。
底しれぬ恐怖にも似た、湧き上がる不穏な感情をただ手を握りしめて耐えることしかできなかった。
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