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町のお医者さん
町のお医者さん1
しおりを挟む目覚まし時計のアラームが鳴る前に起きた僕は、着替えると足音を立てないように階段を下りた。
シェルアさんの部屋からは物音がない。多分まだ寝ているのだろう。
早速僕は居候の働きをするべく脱いだパジャマを洗濯機に入れて、洗面所で顔を洗った。
歯磨きを済ませてキッチンに急ぐ。
ドアを開けると、冷蔵庫から野菜を取り出しているシェルアさんと目が合った。
「シェルアさん!?」
「おはよう、サン。よく眠れた?」
「はいぐっすり……じゃなくて! 僕の仕事!!」
「そう言われても……万が一があったら心配だから……」
「~~っ……わかりました! じゃあ一緒に作りましょう!」
本当は僕一人で朝食を作りたかったけど、シェルアさんは見ているだけが出来ない人だから早々に諦めた。
僕はパンケーキ、シェルアさんはサラダとスムージーを作る事になった。
ボウルに薄力粉、牛乳、卵、砂糖、塩を入れてよく混ぜる。
フライパンでバターを溶かして、生地を焼けばパンケーキはもう完成だ。
ワンプレートの皿に焼けたパンケーキを重ねていくと、香ばしい匂いでいっぱいになった。
——そうだ、ベーコンも焼いてスクランブルエッグも作ろう。
思い立ったら即行動で、僕は冷蔵庫からベーコンと卵を取り出した。
ベーコンはこんがり、スクランブルエッグはふわふわを目指して焼いていく。
さっき出来上がったパンケーキの脇に今焼けたベーコンとスクランブルエッグを盛り付けると、なかなかの出来栄えになった。
「わ、美味しそう」
「えへへ。頑張りました!」
「こっちも出来たよ」
シェルアさんがそう言って僕に見せたのはグリーンサラダと苺のスムージーだった。
完成した料理をシェルアさんと一緒にテーブルに運ぶと、テーブルの真ん中にフルーツバスケットが既に置いてあった。
どうやら自由に食べていいらしい。
大福とよもぎちゃんは今日は揃って寝坊をしたようで、シェルアさんはそのまま二匹を寝かせてあげているみたいだった。
専用の皿にはドッグフードが昨日と同じように用意されている。
僕は椅子に座ると、シェルアさんに目をやった。
「じゃ、食べようか」
「はい。いただきます」
「いただきます」
サラダにドレッシングをかけて食べると、レモンの爽やかな味がした。
シェルアさんの話によると、ドレッシングはご近所さんから貰った物らしく、作り方が知りたくなった。
僕は次に自分の作ったパンケーキを頬張った。
生地がほんのり甘いパンケーキはそのままでも美味しいけど、シロップをかけるともっと甘くて美味しくなった。
ベーコンもカリカリに焼けていていい感じだし、スクランブルエッグも結構上手く出来ている。
「ん、美味しい」
「へへ。シェルアさんの口に合って良かったです」
「ホテルの朝食みたい」
「それは流石に言いすぎですよ」
そう言ったけど、褒められるのは本当に嬉しくて、僕は自然と頬が緩んだ。
自分が作った物を美味しいと言って誰かが食べてくれるのは、すごく幸せな事だ。
食事をしながらもシェルアさんは、僕の作った物を美味しいと言って褒めてくれた。
「もしかしたらサンは家でも作ってたのかもしれないなあ」
「そうかもしれません。身体が覚えてたのか、自然と動いてました」
「そっか……早く、思い出せるといいね」
「はい。そしたら今度は僕がシェルアさんを家にお招きしますね。お世話になった御礼はちゃんとしたいので!」
笑って言うと、シェルアさんは目を丸めた後、ニコリと笑った。
「傷の具合はどう?」
「あ、はい、大丈夫です。お風呂の時ちょっとしみるくらいで……」
「一応今日はお医者さんに診て貰う予定だから、他に痛い所や気になる所があるならその時言ってね」
「はいっ」
今日の予定は僕の診察がメインで、他は特に決まっていないらしい。
シェルアさんは今日もお休みで、ルイスさんとマリアンネさんは午前中だけお仕事だから、もしかしたら二人が午後こっちに寄ってくれるかもという話をされた。
大福とよもぎちゃんはついさっき起きたようで、今は朝食を並んで摂っている。
大福は目が合うと、僕に自分のご飯を取られると思ったのか、食べるペースを上げた。
「あの、もし予定が空いてたらなんですけど、大福とよもぎちゃんの散歩に僕も行ってもいいですか?」
「勿論いいよ。——って言っても、大福とよもぎはちょっと特殊だから、自分達で散歩に行く事の方が多いんだ」
「自分達でって……大福とよもぎちゃんだけで外に行ってるって事ですか?」
「そうだよ」
「……危なくないんですか?」
「危なくないって言ったら嘘になるけど、大福もよもぎも身を守る術は持ってるし、本当にまずい状況だったらこっちにも連絡がいくようになってるから」
詳しく話を聞くと、大福とよもぎちゃんの首輪には測位システムとやらが入っていて、装着者の位置情報やバイタルサインがわかる代物らしかった。ちなみに僕の使っているスマホにもそのシステムが搭載されているらしい。
一応スマホのプライバシーは保護されていて、緊急時以外はメールの内容やアプリの閲覧履歴等は見られないとの事だった。
……それにしても、大福とよもぎちゃんってそんなに強いのだろうか。
見た目は普通の犬なのにと食べながら考えていると、早くも食事を終えた大福が僕の足元にやって来た。
「ワン!」
「あ、うん。おはよう大福。もうちょっとで食べ終わるから待っててね」
「ワウッ」
尻尾を振って僕を見上げる大福は可愛い。
大福の目は期待にきらきらと輝いていた。
「サンが散歩に一緒に行きたいんだって。一緒に行ってもいい?」
シェルアさんはまだご飯を食べているよもぎちゃんに向かって声をかけた。
よもぎちゃんはピタリと動きを止める。
「……アン」
「ワフッ」
「いいってさ」
「ほ、本当にいいんですか?」
よもぎちゃんの返事に若干の間があったような気がするけど、いいのだろうか。
「よもぎちゃん、ありがとう」
「……」
よもぎちゃんは数秒僕を見つめると、そっぽを向いて水を飲み始めた。
反応が昨日とほぼ同じである。
まだ会って二日目だから当然といえば当然だけど、嫌われているみたいでちょっと悲しかった。
大福はそんな僕の気持ちを汲み取ったのか、僕の脚に前足をかけると、じっと見つめてきた。
つぶらな大福の瞳は僕がいるよと言っているようにも見える。でも同時に、早く構ってくれと言っているようにも見えた。
「大福、サンを困らせないの」
「ワフゥ……」
シェルアさんはそう言ったけど、大福があまりに悲しそうに鳴くから僕は慌てて食べていたパンケーキを飲み込んだ。
「っだ、大丈夫ですよシェルアさん! 僕困ってませんし!」
「本当? でも駄目な時はちゃんと駄目って言うんだよ」
前提としてシェルアさんが躾として大福に言っているのはわかっている。
だけど大福がわかりやすくしょんぼりした顔をするから、実はシェルアさんは怒らせたら怖い人なんじゃないかと勝手な想像が頭をよぎった。
僕は残りのパンケーキを味わうと、スムージーを飲み干した。
朝食を食べ終わると、シンクに空になった食器類を運んだ。
大福はシェルアさんの足元をちょろちょろ歩き回っている。さっき注意されたのを気にしているらしい。
シェルアさんは屈むと、大福の顎下を優しく撫でた。
「怒ってないよ」
「ワウ?」
「そんなに怖かったかなあ……ごめんね」
シェルアさんはもう一度大福を撫でた。
喧嘩した訳じゃないけど仲直りは出来たらしくて、大福はいつもの調子を取り戻している。
食器を洗おうと腕まくりをすると、僕はスポンジを手に取った。
「僕がやりますからね!」
「本当? じゃあ私は食器拭きしようか」
「えっ!? いやいいですよシェルアさんゆっくりしてて!! 僕全部やりますから!」
「まあまあ、二人でやった方が早いでしょ」
断ったのにやんわり躱されてしまった。
次こそは僕一人で家事をやりたいけど、その前に僕がシェルアさんに口で勝つ必要があって、道のりは遠い気がした。
僕は気を取り直すと、洗剤をスポンジに付けて食器を洗っていった。
ぬるめのお湯で泡を流すと、洗い終わるのと同時にシェルアさんの手が横から伸びてきて、食器を取った。
手際が良すぎて早く洗わなきゃと思ったけど、食器を割ったら元も子もないので結局自分のペースでやる事にした。
流れ作業でやっていくと、十分もかからない内に片付けが終わった。
僕とシェルアさんは最後にそれぞれ手を洗うと、濡れた手をタオルで拭いた。
「ありがとう、助かったよ」
「いえそんな……!! むしろやらせてくださいって感じなので! っていうか手伝って貰っちゃいましたし……!!!」
「まあ手伝える時はね。どうしても無理な時は頼むかもしれないから、その時はお願い」
「はい!」
元気よく返事をすると、シェルアさんは優しく微笑んだ。
これからシェルアさんの主治医でもあるその人の所に行くから、出かける準備をするらしい。
僕は上着とスマホを取りに、ニ階に上がった。
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